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2012年6月21日 (木)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 山口防衛戦3」電撃文庫

 「災禍を狩る災禍、来たれり」

【どんな本?】

  元はSONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を、榊涼介が小説化したシリーズ第13弾。ゲームに沿った内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で完了し、「山口防衛戦」以降は、ゲームのエンディングの「その後」を、榊氏が独自に書き下ろす内容となっている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2007年8月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約312頁。8ポイント42字×17行×312頁=222,768字、400字詰め原稿用紙で約557枚。標準的な長編小説の分量。

 文章そのものは読みやすい。ただ、なにせ長いシリーズ…というより、長編小説の中の一巻だ。特異なガンパレの世界設定や、登場人物の説明は完全に省略しているので、できればシリーズ開始の「5121小隊の日常」か、時系列で最初にあたる「episode ONE」から読み始めるのが理想。それが無理なら、せめて「山口防衛戦」から読み始めよう。簡単だが世界設定の説明が入っている。

【どんな話?】

 萩市の陥落は戦線全体に影響を及ぼし、次第に戦線は崩壊していく。そんな中にあって、矢吹少佐の戦車・植村大尉の歩兵と5121小隊の士魂号は、連携戦術を洗練させてゆく。岩国外郭陣地の戦闘も激しさを増し、合田少尉と橋爪軍曹率いる学兵たちも、激戦に巻き込まれると共に、岩田参謀発案の陣容が本領を発揮しはじめる。戦闘を重ねる中、速水と壬生屋は、九州とは異なる幻獣の手ごたえに、違和感を拭えずにいた。

【感想は?】

 この巻では、殺伐とした戦闘場面が延々と続く。それも、5121小隊が中心の善行戦闘団より、合田少尉率いる学兵たちのシーンが多い。もはやゲームのノベライズというより、仮想戦記に近い。善行戦闘団の戦術も、戦車や歩兵と緻密に連携した作戦ばかり。ゲームでも友軍とこれぐらい上手に連携できたらなあ。

 幻獣側はうみかぜゾンビが登場し、ガンパレード・オーケストラの影響を感じさせる山口防衛戦、自衛軍側も新兵器が活躍しはじめる。冒頭32頁から、やたらマニアックなシロモノが登場。40センチ列車砲・厳島。Wikipedia の列車砲を読むと、「制空権を確保しない状況においてその運用は困難」だとか。図体はデカいし動きは鈍い、そりゃそうだよなあ。

 この巻でも、自衛軍側は、うみかぜゾンビ&スキュラの空中部隊に苦戦しつつ、対応策を垣間見せる。この辺、岩田参謀の変態っぷりが岩国戦線で堪能できるのでお楽しみに。岩田参謀周辺では、田中の天然っぷりが楽しい。というか、イワッチが見たら嫉妬しかねない。周囲のノリもいいし。荒波小隊発足のエピソードも嬉しいところ。そうだったのか藤代さん。あーゆーのって、なかなか捨てられないんだよね。黒歴史なのはわかってても。

 善行戦闘団は、壬生屋の体調の問題を除けば、絶好調。滝川も92mmライフルに慣れ、地味にスナイパーとして活躍しつつ、「今度のお嬢さんは軽いね」など、新しい機体が気に入った模様。つか、本当に「お嬢さん」なのか?舞と速水も、終盤では、原さんにそそのかされ…

 岩国の前線では、合田&橋爪コンビと、元紅稜α小隊の佐藤たちが苦戦を続ける。今まで単なるオキアミ野郎だった鈴木が、意外な一面を見せるのも、この巻の読みどころ。また、橘さんファンにははなはだ幸先のよくない展開が。激戦の中にありながら、橋爪と佐藤の会話が、ありがちな高校生なのが泣かせる。

 などと緊張感漂う場面が多いこの巻の中で、貴重な息抜きを提供しているのが、若さまこと遠坂&田辺。社長という己の立場も弁えず、周囲の心配をよそに硝煙漂う前線へ前線へと歩を進める。折り悪く、整備工場なんかに行き着いたのが運のつき。昔取った杵柄とばかり、取材を忘れて熱中してしまう。

 こんな所にも、原さんの名声が鳴り響いてるのが凄い。弟子入りに必要なのは…えーっと、神経の鈍さまたは太さ、かな。ある意味、士魂号のパイロットになるのと同じぐらい狭き門のような気が。若さま、この巻では後々まで引っ掻き回してくれます。やっぱりね、この人も「空気読めない」部分がないと、面白くないよね。

 硝煙の匂い漂う場面が多いなか、うっすらと自衛軍の希望が見えてくるこの巻、しかし結末は…

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