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2012年6月27日 (水)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 九州奪還1」電撃文庫

 「じゃっどん、どうして男子ばっかりなんかの。候補生は。俺は胸に一抹の寂寥感ちゅうやつを抱えとるばい」

【どんな本?】

   元は SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を、榊涼介が小説化したシリーズ。ゲームに沿った内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で完了し、これでノベライズも終わるかと思ったら、そこは需要供給資本主義。ゲーム本体の人気も根強いが、榊氏のノベライズ・シリーズも安定した人気を維持し、ファンの期待に応えてか、ゲームのエンディングの「その後」を、榊氏が独自に書き下ろす形で「山口防衛戦」へと続き、これでシリーズ第15冊目。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年3月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約290頁+あとがき2頁+きむらじゅんこ氏のおまけ頁2頁。8ポイント42字×17行×290頁=207,060字、400字詰め原稿用紙で約518枚。長編小説なら普通の分量。

 文章は読みやすいが、なにせ長いシリーズ。世界設定は独特だし、登場人物も多い。榊氏オリジナルの登場人物も大量に登場するので、ゲーム経験者であっても、できれば「5121小隊の日常」か「episode ONE」から入るのが理想。

 とまれ、さすがに15冊目ともなれば読み通す手間も半端じゃない。この巻では、九州奪還編の開幕として、冒頭に「前史」として「いままでのあらすじ」8頁がついているので、この巻から入るのも一興かも。いっそファンブックから入るという荒業もあるが、ファンブックは九州奪還編も含んでいるので要注意。

【どんな話?】

 激戦の末、首の皮一枚で本州から幻獣を追い落とした自衛軍。前線の将兵は薄氷の勝利と認識していたが、東京の軍や政府の上層部は異なった見解を持っていた。この勢いに乗り、九州上陸を敢行せよ、との意見が主流を占める。

 九州撤退戦・山口防衛戦で華々しい活躍を見せた5121小隊は、今までの学兵扱いから海兵旅団に組み込まれ、他の生還した学兵たちも、その経験を買われてか、様々な優遇措置と引き換えに再度の従軍を強いられる。

 海峡から九州をのぞむ5121小隊の面々。だが、その胸中は様々だった。また、今まで厳しい撤退戦・防衛戦ばかりを強いられた自衛軍も、初の攻勢に際し戸惑いを隠せず、作戦方針の調整に手間取っていた。

【感想は?】

 単なるゲームのノベライズから架空戦記に変わってきたこのシリーズ、九州撤退戦からいよいよ本格的に架空戦記となり、九州奪還では政治要素も加わり、むしろ架空歴史物の様を呈してくる。この巻では自衛軍内の上官・友軍との軋轢や派閥争いが中心だが、巻を追うに従い話が大きくなるのでお楽しみに。

 派閥争いで判りやすいのが、陸軍 vs 海軍。善行は海軍に属してるんで、必然的に5121小隊は海軍となる。海軍ったって、実際には陸戦ばっかりなんだけど。もうひとつの軸が派閥で、陸軍内では会津閥が大きな勢力を誇っている模様。対する新興勢力が「芝村」。善行は芝村なんで…って、言うまでもないか。

 この辺をしみじみ感じるのが、九州派遣軍の司令部の会議のシーン。今まで出てくる軍人さんも、偉くてせいぜい大佐ぐらいだったのが、ここでは将官がポンポンでてくる。オヤジ臭いとか言わないように。今後、オッサンの登場場面がドンドン増えてきます。

 冒頭でノンビリした雰囲気で始まる。滝川も良い師匠に恵まれ、相応の成長を見せているのが嬉しいような寂しいような。パイロットは今までの活躍が注目され、取材や原稿依頼が殺到しているとか。

 壬生屋・滝川・舞・速水の中で、最も読みやすい文章を書くの誰だろ?専門家には舞が評判いいだろうけど、たぶん中身はほとんど論文。速水はあたりさわりのない事ばかりを書いて、舞に指導されるんだろうなあ。素人には壬生屋の文章がウケそう。滝川は…森か茜に手伝ってもらう?

 前巻では身長が伸びたと衝撃の情報が公開されたののみ。成長が嬉しいのか、一生懸命大人ぶってるところが可愛い。まあ、戦場ではそこらの大人より遥かに活躍してるんだけどね。見習えよ、新井木。

 前巻では半年の校舎・トイレ掃除を命じられた茜、彼の理解ある同室者がついに登場。ルックスは抜群、家柄も文句なし、性格は温厚ながら冷静で責任感があり、かつ全体を見渡し空気を読みながら、それに流されぬ芯の強さを持ち、「率いる者」の視点で最善をめざす、典型的な人気者の優等生。ただ、若いだけあって、やや線が細い感があるのも、彼の場合は嫌味になってないのが悔しい←をい。つか赤いクセ毛で温厚なイケメン&シスコンで生意気な金髪の小僧って、わかってやってるんだろうなあ。金髪が引っ張って赤毛がブレーキってのも。

 ってんで、茜に煽られ館山の海軍士官学校は大騒ぎ。苦労するね、山川君。でも早速モテてるんだから同情はしない。

 そんなオッサン・若者とりまぜた新顔の他に、馴染みの榊オリジナルの面々も続々登場。「小隊の日常Ⅱ」で鮮やかな戦いを見せた堅田女子戦車部隊の再登場が嬉しい。いいなあ、石丸さん。もっと出番を増やして欲しいなあ。できれば先頭ではなく、ほんわかしたコメディで。

 意外だったのが、イラ子こと斉藤さん。いやどう考えても前線の兵向きじゃないでしょ。まあ頭はいいし肝は据わってるみたいだから、士官ってセンもあるけど、統率力にちと問題が。整備や補給の後方士官なら、相応の能力を見せる気がするけど。つか橋爪もげろ。

 かと思えば、水際で救われる人もいる。でも芝村勝吏と並ぶと、トカゲに襲われるカナリアの図になるんだが。

 さて、5121小隊、今までは遊撃的な立場だったのが、この巻からは正規の軍組織に組み込まれ、統率する舞は組織内の政治にも頭をなやませる。野生の観で本性を見抜く田代が鋭い。ところでクマモトスズメバチって、実在するんだろうか?

 穏やかな出だしのこの巻だが、終盤は急転直下。不穏な空気を孕みつつ、次巻へと続く。

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