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2012年5月28日 (月)

SFマガジン2012年7月号

ベアトリーチェ「どうしてわたしたちはお話の中で必ず死ぬのかしら?」
キャサリン「それを書いたのがわたしたちの仲間じゃないからよ」

 280頁の標準サイズ。今回の特集は「スチームパンク・レボリューション」として、ネオ・スチームパンクの特集。短編6本+インタビュウ2本、小川隆の解説他。今月は他にロバート・F・ヤングの短編「河を下る旅」と、山本弘の連載「輝きの七日間」で、小説が計8本。嬉しいなあ。

 特集の「ネオ・スチームパンク」、何だか判らなかったけど、「マッド・サイエンティストの娘たち」と小川隆の解説を読んだ後で表紙を長めて納得。LAST EXILE のセンスなのね←たぶん違う

 ってんで、特集。シオドラ・ゴス「マッド・サイエンティストの娘たち」。登場人物の名前がジュスティーヌ・フランケンシュタイン嬢,キャサリン・モロー嬢,ベアトリーチェ・ラパチーニ嬢,メアリ・ジキル嬢,ダイアナ・ハイド嬢,アーサー・マイリンク夫人(旧姓ヘレン・レイモンド)。これとタイトルで、彼女たちがどんな人たちかはうっすらと想像がつくだろう。彼女たちの共同生活を綴った作品。派手な事件は起きず、普通の日常とおしゃべりを描いてるだけだけど、SF者の心情には強く訴えるものがある。

 シェリー・プリースト「リラクタンス 寄せ集めの町」は、「ボーンシェイカー」と同じ世界が舞台。飛行船での郵便物輸送に従事する退役兵にして孤児のウォルター・マクマリン、今日は単身用の小型飛行船<マジェスティック>を駆りガスホキュウドックの町リラクタンスを目指していた。その道筋で上空から数頭の牛の死骸を見かけたが、特に気にしなかった。やっとリラクタンスにたどり着き…
 肝心の「ボーンシェイカー」の世界がわかってないんで、お話はいまいちピンと来なかったけど、ネオ・スチームパンクの雰囲気はわかった気がする。ファッションは大仰かつレトロで、メカは滑らかな曲面の鋼鉄とネジ頭が必須。サイエンスよりお話の面白さと世界設定のヒネリ、そして人物の魅力が重要なんだろう。たぶん漫画やアニメと相性がいい。

 ティム・プラット「銀色の雲」は、ファンタジイに近い。その世界の雲には、銀の鉱脈が走っている。法で禁止されちゃいるが、それでも一攫千金を狙う無法者はいて、穏やかな秋の空には飛雲船で密採掘に励む採雲師がいた。
 世界観が気持ちいい。雲に銀の鉱脈があるという大法螺から始まり、雲の性質もこの世界と全く違う。雲から銀を採掘した事による環境への影響などの考察も楽しい。想いっきり世界観が魅力的な作品。

 キャット・ランボー「ぜんまい仕掛けの妖精たち」は、19世紀のイングランドが舞台。サウスランド卿の娘で褐色の肌のデジレは、美しく賢明だが、「種の起源」など異端に心を惹かれる欠点があり、ぜんまい仕掛けで動く妖精を器用に生み出す。婚約者のわたしは社交界に誘うのだが…
 頭の固い婚約者クロード君の傲岸で傲慢な様子が、当時のヴィクトリア朝のイギリス貴族の鼻持ちならない雰囲気をよく出してる。彼がアイルランド貴族ってのも、ジャガイモ飢饉などの歴史を考えると、皮肉が効いてる。

 ラヴィ・ティドハー「ストーカー・メモランダム」も、ヴィクトリア朝の時代が舞台。ロンドンのコヴェント・ガーデンで劇場の支配人を勤めるわたしエイブラム・ストーカーは、成功を確信していた。あのギルバートとサリバンもわたしの劇場に移籍させ、最新作を舞台にかける予定でいた。しかし、不意の訪問者が…
 名前でわかるように、モデルはあの人。でも世界観は想いっきり狂ってる。実在人物と架空の人物が入り混じり、やりたい放題。あの時代の美味しい素材をかき集めたような作品。

 最後のアリエット・ドボダール「奇跡の時代、脅威の時代」は、ガラリと雰囲気が変わってメキシのアステカ帝国が舞台。鎖に繋がれた神コスティック。彼はかつて戦士の太陽だった。彼を鞭打つのは大司祭チコメ。機械神の腹から七番目に生まれた存在。
 彼が見る神は幻想なのか現実なのか。現実なら、どうにも苛烈で不可解な存在だなあ。

 シェリー・プリーストのインタビュウ「ポルノグラフィティと戦争」は、訳文がはっちゃけてていい。明るくおしゃべりでオタクな女性が楽しげにしゃべりまくる雰囲気がよく出てる。狂ったアイデアを出す秘儀を、惜しげもなく披露してる。なんと、19世紀の特許のデータベースを漁るそうな。「ゴス」が、ネオ・スチームパンクのもう一つのキーワードらしい。

 ゲイル・キャリガーのインタビュウ「お行儀を忘れないために」は、彼女の作家としての姿勢がプリーストと見事な対照をなしてる。プリーストはお話を紡ぐのが楽しくてたまらない様子なのに対し、キャリガーは自分を「芸術家ではなく職人」と評し、ビジネスとして成功するために充分な計算をしている様子。大英帝国が栄えた原因を「彼らはたんにおいしい食べ物を追い求めただけ」ってのも凄い。

 作家が国際色豊かなのもネオ・スチームパンクの特徴。プリーストはフロリダに生まれアメリカ南部を転々とした後シアトルに定住。ゴスはハンガリー生まれ。ティドハーはイスラエル生まれ、ドボダールはアメリカ生まれのヴェトナム系フランス人。これもネットの影響か。

 ロバート・F・ヤング「河を下る旅」は、この人らしい作品。一人で筏に乗り河を下っていた男クリフォード・ファレル。この河には誰もいないと思っていたが、なんと水辺に女を見つけた。筏を岸に近づけ、彼女ジル・ニコルズを乗せる。おかしい。なぜ、ここに彼女がいるのか。だが、同じ疑問を彼女も抱いていた…
 ぽつぽつと語られる断片から、この二人がどんな経緯で河に来たのかが見えてくる。きっと梶尾真治は熟読してるんだろうなあ。

 長山靖生「SFのある文学誌」は、前号に続いて白縫譚。「草双紙は婦女子のものといわれてはいたものの、現実には武士や大人たちも結構好んでいた」とか、モロに現代の漫画だなあ。「ある意味、あんな、『非現実的青少年の絵』で萌えられるなんて、江戸時代の妄想力はすごい」って、今のアニメ絵も充分非現実的なのでは?

 橋本輝幸「世界SF情報」はローカス・ベストセラーリストのハードカバー部門に驚き。なんと、オースン・スコット・カードの Shadows in Flight が2位に入ってる。エンダー・シリーズというから、ビーンのお話だろう。何年ぶりかなあ。

 

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