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2012年5月29日 (火)

榊涼介「ガンパレード・マーチ episode ONE」電撃文庫

 「ソックスは宇宙の縮図たい。励めよ」

【どんな本?】

 SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」の、榊涼介によるノベライズ・シリーズ第四弾。前巻のクライマックスから一転、この巻では時を遡り、5121小隊発足当時のギクシャクした様子を描く。ゲーム開始時、右も左もわからぬまま、とりあえず周囲に話しかけ奇妙な対応に戸惑うプレイヤーの困惑を巧く再現している。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2003年5月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約277頁+きむらじゅんこの憂鬱Ⅴ2頁。8ポイント42字×17行×277頁=197,778字、400字詰め原稿用紙で約495頁。長編小説なら標準的な長さ。

 文章はライトノベル作家らしく読みやすい。時系列的にはシリーズ中で最初期を描いており、何もわからないプレイヤー視点で描いているので、登場人物の紹介や背景の説明も丁寧なので、ゲームをプレイしていない人は、この巻から読み始めるのが最適かも。

【どんな話?】

 ついに幻獣の九州上陸を許してしまった日本は、14歳~17歳の学兵を招集、彼らが人柱として時間を稼いでいる間に自衛軍を立て直す策に出る。そんな捨石のひとつとして編成された隊の一つに、人型戦車の士魂号を主力とする部隊があった。かつての部隊が全滅の憂き目にあった善行忠孝は、クセ者を集めて大博打に出るが…

【収録作は?】

第一話 邂逅
 1999年3月2日、熊本。速水厚志が配属された部隊は、学兵、それも他の部隊を追い出されたはみだし者が中心の頼りない部隊だった。明るく馴れ馴れしい絆創膏ゴーグル小僧の滝川陽平、堅苦しい胴着姿の壬生屋未央、インチキ臭い関西弁の加藤祭、やたらと権高なポニーテールの芝村舞、絵に書いたような軟派男の背戸口隆之、人形のような美人だが暗~い石津萌、どう見ても子供の東原ののみ、脳筋鬼軍曹の若宮康光。隊長の善行忠孝は何を考えているかわからないし、教師の本田節子は真っ赤な革ジャンのパンク女。大丈夫なんだろうか。
 
 初めてゲームを開始したプレイヤーの困惑が見事に出ている。何をしていいかわからない状態だと、滝川が事情通っぽくてやたら頼もしいし、舞は皆から嫌われている。また、後に襲い来る戦争の厳しさがわからず、気分が緩みきっている感じもよく出ている。オチは…うん、まあ、奴はそういう役目だからね。
第二話 教官の憂鬱
 今日も芳野春香は酒臭い。落ち着いておっとりした雰囲気なのに、実はタチの悪い大酒飲み。生徒の出席率の悪さに拗ねている模様。まあ、この戦時に国語の授業を真面目に受ける学兵も滅多におるまい。とりあえず目に付いた生徒を捕まえ教室に連行した本田節子は、芳野に変わって国語の授業をするはずが…

 いきなりエアガンぶっ放すパンク女教師・本田節子の、意外と熱い側面が明らかになる短編。ゲームでも彼女と坂上の授業は、今思えば結構役に立つ事を話しているから不思議。やっぱり壬生屋は「不潔ですっ!」がないとね。人間関係に詳しい?加藤が問題をこじらせるのもお約束。
芝村舞の野望Ⅰ 乾電池の誘惑
今朝もすっきり起きた芝村舞。ところが、思わぬトラブルが。なんと、目覚まし時計の…
舞のお嬢様ボケが炸裂するユーモア掌編。
第三話 憧れの Panzer Lady
 兵隊といえば体が資本。厳しい訓練で体力を消耗した後には栄養補給。速水を連れ早くも常連となった味のれんに出かけた滝川は、さっそくコロッケ定食にかぶりつく。飢えを満たした二人が落ち着いた所へ、ふたりの女子学兵が入ってきた。二人を見た滝川は、突然挙動が不審になり…

 滝川が主役の切ない作品。彼が戦車乗りを目指したきっかけが、いかにも滝川らしい軽薄な動機なのがなんとも。ここで登場する「選択科目は柔道です、といった感じの女子」は、後に「小隊の日常Ⅱ」収録の「Panzer Ladys」で活躍する彼女なんだろうなあ。ファンブックじゃ柔道というより陸上っぽい…と思ったら、登場巻にちゃんと「episode ONE」と書いてあった。
第四話 士魂号到着!
 戦車シミュレータが到着して以来、パイロットの四人は訓練に余念がない。舞が先導して反省会を開いてはいるものの、予想通り滝川の成績は悲惨なもの。おまけに「全てを軽装甲に」などと突拍子もない事を言い出す。そんあ所に、やっと士魂号と整備班が到着した。稼働率の低い人型戦車は、整備班がパイロット以上に戦力を左右する。ところがこの整備班、困ったことにパイロットと肩を並べる変わり者揃いで…

 整備班が遅れて到着するのはファースト・マーチの流れに沿っている。森さんの第一印象がつっけんどんで冷たいのも、中村が意味深で曰くありげな台詞を吐くのも、岩田がイカれたコメディアンなのもゲームどおり。中でも際立ってるのは、やっぱり原さん。あの「危険な美女」っぷりを、見事に再現している。茜と滝川の悪ガキコンビ結成の場面も微笑ましい。でも、やっぱり主役は原さん。
芝村舞の野望Ⅱ 決戦!ムーンロード
「常識の欠落」を意識し始めた舞、今日はムーンロードに赴き習得に努めるが…

 小隊の面々がそれなりに成長した前巻までとは違い、この巻ではファースト・マーチを初めてプレイするプレイヤーの戸惑いが巧く出ている。ファースト・マーチではガイド役を務めてくれるが、実はヘラレな滝川。意味深な台詞でプレイヤーを惑わす中村。人間関係を教えてくれる加藤。

 といったゲームに由来する部分に加え、榊オリジナルな面が出始めているのもこの巻。なかでも出色なのが、滝川が主役を務める「憧れの Panzer Lady」。味のれんや新市街というゲームお馴染みの舞台を活かしつつ、榊オリジナルのヒロインが重要な役割を果たす。これが気に入った人は、「小隊の日常Ⅱ」収録の「Panzer Ladys」も必読。

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