榊涼介「ガンパレード・マーチ 5121小隊 熊本城決戦」電撃文庫
「出直すことはできるばい。それを助けるのがハンター仲間だけんね。心を入れ替え、立ち直って、ソックスタイガーの名を天下に示すばい!」
【どんな本?】
SONY Playstation 用のゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を榊涼介が小説化するシリーズ第三弾。中盤のクライマックスにして、その絶望的なまでの難易度に多くのプレイヤーが地獄を見る悪夢のイベント熊本城決戦をテーマに、5121小隊の死闘を描く。
ちなみに私、ファーストマーチでは舞を見捨てました、はい。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2002年11月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約276頁+きむらじゅんこの憂鬱Ⅲ。右頁のソックスヒトウバンが匂いまで漂ってきそうな不気味さを漂わせてます。8ポイント42字×17行×276頁=197,064字、400字詰め原稿用紙で約493枚、標準的な長編小説の長さ。
文章の読みやすさは問題なし。ただ、主要登場人物である5121小隊の紹介がついていない上に、前巻で登場した小説版オリジナルの登場人物が重要な役割を果たすので、前の「決戦前夜」から読もう。
【どんな話?】
芝村閥が仕掛けた大博打、熊本城決戦。熊本城に囮の部隊を配備して幻獣を引き寄せ、市外から自衛軍の主力が幻獣を包囲・殲滅する、という作戦だ。幸か不幸か博打は当たり、津波のごとく幻獣が押し寄せてきた。防御の薄い北側に配置された5121小隊は、予想通り激戦に投げ込まれる。
戦闘に不慣れな整備班の面々にも、浸透したゴブリンやヒトウバンが襲い掛かってきた。今までの一撃離脱の戦闘とは異なり、この作戦は長時間の戦闘が続く。謎に包まれた士魂号は、搭乗するパイロッに思わぬ影響を与え…
【収録作は?】
- 第一話 緒戦――士魂号
- ついに始まった熊本城決戦。いつものように突進する壬生屋の重装甲、今日は一段と冴えている。対して不調なのが滝川の軽装甲。一歩下がっての援護射撃は相変わらずだが、精度がすこぶる悪い。舞と速水の複座は通常通り、冷静な動きで重装甲に追従し、ミサイルで一網打尽の活躍をみせる。緒戦を乗り切って気をよくしたのか、新たな敵を求めて突進した壬生屋だが…
時系列では前巻の「緒戦――5121小隊整備班」と同時刻を描いた作品。あちらが整備班の始点なのに対し、こちらは士魂号とスカウトと指揮車が中心。原と善行の会話に注目しよう。冒頭から重装甲・軽装甲・複座型の対照が見事。ゲームでも、突進する壬生屋に泣かされた人は多いはず。展開式増加装甲を進呈するとだいぶ生存率が上がるんだよね。いつの間にか来須はウォードレスを変えてる。 - ソックスハンターは永遠にⅢ 虎は吼えるか
- くるぶしのほころびに拘りを抱くタイガー。自慢の一品を取り出す彼だが…。つか、戦場で何をやってるんだコイツラは。
- 第二話 5121小隊――小休止
- なんとか午前中の第一波を凌いだ5121小隊。疲労の激しい士魂号パイロットたちは小休止を取り、整備班の面々は補給と整備で走り回る。一息ついた速水に、ヨーコ小杉からお呼びがかかった。そして、意外な乱入者に5121小隊は…
原さん、確かに森さんの顔見てると、やりたくなるよね。この短編でも見事に主役の座をかっさらってる。名前こそ出てないけど、多分このキャスターは、あの人でしょう。しかし「可愛さだけで勝負できる年齢じゃないでしょう」って、をい。しかし遠坂家の執事は優秀だなあ。 - 原日記Ⅴ
- 善行との意外な馴れ初めが語られる貴重な掌編。えーっと、年齢を逆算…してはいけません。
- 第三話 決戦――どこかの誰かの未来のために
- 負傷者こそ出たものの、なんとか午前中は凌いだ。が、早速次の一波が殺到し、5121小隊も出撃する。突進する壬生屋に敵が集中した所へ一歩送れて到着した複座のミサイルで一網打尽、敵が崩れた隙に追撃に移る。午前中は不調だった滝川、軽装甲の自慢の足で追撃に移ったが…
今まで折に触れて描かれた、滝川と軽装甲の絆が切ない。本人は気がついてないけど、意外とモテるんだよね、滝川。軽装甲とかライザちゃんとか。ここで活躍するのが、ジャンアント・バズーカ。射程は長いわ威力は大きいわでゲームじゃ重宝するんだけど、NPCに持たせるとゴブリンに向けてぶっ放すから哀しい。前巻の「鉄橋爆破」で顔を見せたあの方も大活躍。と思ったら、また新たな重要人物が名前つきで出てくる。髪の色、本当は何色なんだろ。殺伐とした戦場でも、落ち着いた優雅な雰囲気で場を和ます若様が光ってる。 - 第四話 帰還
- 修羅場を切り抜け、慣れ親しんだ尚敬校に生還した舞と速水。だがそこは、臨時の野戦病院となり負傷兵や医務官でごったがえしていた。小隊の面々は一組の教室にたむろし、その異様な様子は戦場神経症患者の隔離室と見なされ敬遠されていた。
相変わらずモテモテの滝川。青春してるねえ。まさか来須まで加わるとは。
ゲームでも中盤のクライマックスだけあって、この短編集も名場面がいっぱい。特に「決戦――どこかの誰かの未来のために」は、正統派で泣かせる台詞がつまってる。滝川と軽装甲の会話もいいけど、若様が意外な肝の太さ(または鈍感さ)を見せる、「守らないと、と思うとやる気が出てきますしね」がいい。ゲームでPC田辺の第一印象は最低の奴なんだけど。
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