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2012年5月20日 (日)

デイビッド・ハルバースタム「ベスト&ブライテスト 2 ベトナムに沈む星条旗」サイマル出版会 浅野輔訳

 ベトナムで一敗地にまみれたのは、アメリカの勇気でも、武力でも、決意でもなく、ベトナムと敵についてのアメリカの政治的判断だったのである。そして、その判断を下すべきは国務省であり、とりわけ国務次官補であった。もしマッカーシズムの嵐が吹き荒れなかったとすれば、このとき国務次官補には、まったく別の種類の人物が登用されていたに違いない。

【どんな本?】

 1960年代。アメリカはなぜベトナムに拘泥し、深みにはまり、無益な戦いを続けたのか。多くの市民から「最高にして叡智に富む」とされたケネディ政権が、どんな経過で判断を誤り、そして訂正する機会を失ったのか。ベトナム従軍記者の経験を持つ著者が明かす、ピュリッツアー賞受賞の政治ドキュメンタリー。

 疲弊したフランスに変わり、アメリカはベトナムに軍事顧問団派遣を決定する。現地の軍及び国務省からの報告は虚偽にまみれた楽観論がまかり通り、ワシントンでも慎重論はご法度となる。肝心のジエム政権は支援は求めるものの、軍や内政の改革には関心を示さない。

 1963年11月1日、サイゴンでクーデターが発生、米国政府はこれを黙認する。同じ頃、ダラスでは…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Best and the Brightest, by David Halberstam, 1969。今は朝日文庫から出ている三分冊の文庫本が入手しやすい。私が読んだのはサイマル出版会のソフトカバーで1983年6月の新版。縦一段組みで約327頁。9ポイント45字×19行×326頁=279,585字、400字詰め原稿用紙で約699枚。長編小説ならやや長め。

 今の基準で評価すると、決して読みやすい文章じゃない。また、アメリカ人の著者が当時のアメリカ人向けにホワイトハウスの詳細を書いた本なので、当時のアメリカ国内の様子やベトナム戦争の推移など大枠の趨勢がわかってないと辛い。例えばこの巻ではケネディ暗殺という大事件が起こるのだが、それについてはたった1行しか費やしていない。「それぐらい常識だよね」という姿勢で書かれている。

【構成は?】

11 誰がベトナムの真実を語ったか
12 マクナマラ伝説の虚構
13 堰を切った疑問
14 深まるホワイトハウスの分裂
15 ケネディが残した負債
16 空費された一年
17 自ら盲目になった巨像
18 押し出される懐疑派
19 ジョンソンの野心と虚偽

 基本的に時系列で話は進みつつ、時折米中関係の歴史や個人の生い立ちなどで前後する構成は前巻と同じ。ただ、主な舞台背景の説明は前巻で済んでいるので、時間的な流れの混乱は減った。この巻の主な舞台は1962年初頭から1964年まで。

【感想は?】

 これは本当に1960年代のベトナム戦争を扱った本なのだろうか。2000年代のイラク戦争を扱っているんじゃなかろか。そう錯覚するぐらい、パターンが似通ってる。

 ベトナムの事を何も知らないケネディ政権、イラクの事を何も知らないブッシュJ政権。調子のいい事ばかりを言うジエム、グリーンゾーンに引きこもるポール・ブレマー。トンキン湾事件で急上昇するジョンソン政権の支持率、911で持ち直したブッシュJr。キューバ侵攻で大恥をかいたアドレイ・スティーブンソン、大量破壊兵器で道化を演じたコリン・パウエル。泣きたくなるぐらい、同じ事を繰り返してる。

 …そしてまた、近い将来、同じ事を繰り返すんだろうなあ。イランかサウジアラビアか南米で。

 この辺のアメリカ中心の視点、実は著者にも共通してて。本書内じゃ「ジエム政権はベトナム民衆と剥離してた」と書いてはあるが、肝心のベトナム社会の描写はほとんどない。これは「コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争」も同じで、あっちも韓国軍・韓国人はほとんど出てこない。まあ、この本はホワイトハウスがテーマだから仕方がないんだけど。

 さて、本書の内容。現地に派遣された米軍顧問団の責任者ハーキンズは楽観的な報告だけをワシントンに送るが、前線指揮官、特に佐官級の一部は毅然と反抗する。第七師団の顧問となったジョン・ポール・バン中佐は、独自の報告書を作りペンタゴンに送る。

 例えば第七師団の一年間の政府の死者は総数で1400名と報告されているが、うち政府の死者数は50名。死んでるのは装備劣悪な民兵で、政府軍はすぐにトンズラしてる証拠。兵力配備もジエムへの忠誠心を基準に決定してる。

 …ってな報告をペンタゴンにしようとすると、ハーキンズの親分マックスウェル・テーラーから横槍が入って報告会は中止になる。事実を報道しようとする従軍記者はヘリに乗せてもらえない。

 これはホワイトハウスも同じで、懐疑論を出す者はハブられる。積極論の親玉は国防長官のロバート・マクナマラ。これに異を唱える筈の国務長官ディーン・ラスクは事なかれ主義でやりすごす。この両者の関係が問題だ、と著者は批判する。

 本来なら、国務長官が外交方針、つまりジエムを支援するか否かの指針を示し、それを実現する(軍事的)方法を国防長官が考える、という役割分担であるはず。ところが、肝心のベトナム政策の是非は棚上げで、「どうすれば勝利できるか」だけが議論の焦点になっている、これはラスクの無策が原因だ、と。

 この両者の生い立ちと性格が対照的なのも面白い。まずはマクナマラ。

 学生時代は学究肌で、数学・会計学に秀でる。二次大戦ではB29開発でオペレーション分析(たぶん線形計画法やPERTなどのオペレーションズ・リサーチの事)を駆使して実績をあげ、戦後は斜陽のフォードを立て直す。だが合理性を重視する実用車は理解できても、流行に流される乗用車は理解できなかった。冷徹に見えるが理想は高く、アラバマ大学の記念講演では「ビジネスマンには金を儲ける以上の、より崇高な使命がある」と語る。新進の気鋭に富む、合理的なリベラル。

 対するディーン・ラスクは、貧しい生い立ちに育ち、己を厳しく律する禁欲的なカルビン主義者。「感情を表さない。不平不満は言わない。一生懸命に働き、一歩でも前進しようとする」。高校・大学を通じ8年の予備役将校訓練を受け、栄光のローズ奨学金受給生となるが、これを自ら誇った事はない。優秀だが謙虚、調和を大事にする。

 コンピュータに例えられるマクナマラ、いかに優れたコンピュータもデータが間違ってたら間違った解を出す。そして現地ベトナムの報告は虚偽にまみれている。結果積極派となったマクナマラに対し、従順なラスクは大統領の意向に従う事を使命とこころえ、積極的なマクナマラに抗しなかった、それがためアメリカはベトナムに深入りする羽目になった。

 ってな事をやってる間にベトナムじゃクーデターの機運が盛り上がり、アメリカはこれを黙認する。落ち着いて考えるとこれも変な話で、名目はジエム支援で軍事顧問を派遣してたのに、肝心のジエム暗殺を止めないってのも酷い。つまりはアメリカもジエム政権のしょうもなさを判ってて、「これ以上酷くはならないだろう」と考えたわけ。

 などと暢気に構えてるうちに、肝心のケネディがダラスで暗殺され、日陰者だったジョンソンに重圧がかかってくる。再選を目指すジョンソンは面倒なベトナムを放置して内政に力を入れたい、そのためには政権と議会の合意形成を第一に考え「政治的」に動き…

 この巻のエンディングにはマルコムXなんて名前も出てきて、激動の60年代の幕開けを感じさせる形で幕を閉じる。中国の喪失とマッカーシズムの傷跡が残るアメリカで、蠢動を始める市民運動。遠くに地響きを聞きつつ、次巻へと続く。

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