三島浩司「ダイナミックフィギュア 上・下」ハヤカワSFシリーズJコレクション
「シキサイ出獄。本船機影に追従させろ。以後、独断攻撃に過度の制約は加えないものとする」
【どんな本?】
気鋭のSF作家、三島浩司が戦闘ロボットを描く長編SF小説。SFマガジン編集部編「このSFが読みたい!」2012年版でもベストSF2011国内編で3位に輝く高評価を受ける。主な舞台は近未来の日本、香川県。二足歩行の巨大ロボットが自衛隊と共に、異星人が生み出した謎の生命体キッカイを相手に熾烈な戦闘を繰り広げる。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2011年2月25日初版発行。ソフトカバー縦2段組で上下巻、上巻約396頁+下巻約374頁。8.5ポイント25字×19行×2段×(396頁+374頁)=731,500字、400字詰め原稿用紙で約1829枚。長編小説3~4冊分の大ボリューム。
戦うロボット物にありがちなように、作品世界の専門用語や概念が頻繁に出てくるので、そういうのが苦手な人には少し辛いかも。登場人物が多いわりに、あまり人物の書き分けが巧くできていない。頻繁に視点が切り替わるのだが、切り替わって数行は、誰の視点なのかよくわからないので、少々戸惑う。
【どんな話?】
近未来。突然飛来した異星人カラスは、地球の極軌道を巡るリングSTPFを作る。リングの一部は地球上の数箇所に落下、その一つは徳島県の剣山に落下した。リングを構成する物質は究極的忌避感という一種の精神フィールドを発生するため、生物は近寄れない。
剣山周辺の生物は死滅したが、かわりにキッカイという化け物が大量に生まれ、拡散しようと集団で周期的に香川県へと北上を試みる。キッカイは絶命時に特殊な器官「走馬燈」で個体が学んだ概念を仲間に伝え、急速に進化する。当初は6速歩行だったキッカイだが、二足歩行の個体も増えてきた。必死の防衛する自衛隊だが、キッカイの進化は止まらない。
日本政府は事態を打開するため二足歩行の特別攻撃機ダイナミックフィギュアを開発するが、その圧倒的な戦闘力に恐れをなす海外諸国の執拗な干渉を受ける。ダイナミックフィギュアのオペレーターに採用された19歳の栂遊星は、同僚の藤村十・鳴滝調と共にキッカイに立ち向かう。
【感想は?】
惹き文句には「リアル・ロボットSFの極北」とあるけど、このリアル・ロボットというのは、スーパーロボット大戦でいうリアルロボットなんだろうなあ。って、プレイステーション用の第三次スーパーロボット大戦しか知らないけど。身長は明示されてないが20mぐらい、必殺技は叫ばない、装甲は紙、武装は交換可能。
ロボット物SFといっても色々あって、例えばアシモフや瀬名秀明のように「人間の対比物」として使う場合もあるけど、これは兵器としてのロボット。つまりはガンダムやマジンガーZの系統。ロボット物として見ると、確かにマジンガーZよりガンダムに近い。必殺技は無いし、開発は個人じゃなく国家機関、敵は単体じゃなく集団だし、何より自衛隊と共闘する。
兵器としての二足歩行ロボットにリアリティを持たせるのは、結構難しい。恐らく競合する兵器は戦車と戦闘ヘリなんだが、背の高いロボットは敵から狙いやすい上に装甲も厚くできない。スパロボ的に言えば回避率が低く紙装甲。戦闘ヘリに比べても機動力で劣る。いいトコなしなのだ。
そこをなんとかするのが作家の腕の見せ所。この作品はキッカイという敵の設定で二足歩行ロボットの必要性を作り出している。キッカイは生物で、高い知能を持たない。巨大野生動物、どころか序盤はゾンビ並みのお馬鹿さ。よって飛び道具がないんで、打たれ弱さは大きな問題にならない。とはいえダイナミックフィギュアの打たれ弱さは相当なもんで、コケて転んだだけでも破損しちゃう。
ところが死に際に走馬燈を使い、自分が学んだ概念を仲間に伝え進化を促す。飛行の概念を学ばれると厄介なので、戦場は飛行禁止だ。よって戦闘ヘリは使えない。どころか、90式戦車も翼のついた滑空砲が使用禁止なため、主砲をライフル砲に換装している。
と、そんなわけで、戦車に勝る機動力と、状況に応じて武装を交換できる柔軟性・用途の広さが、二足歩行ロボットの強みとして生きてくる。まあ、実際に読み進めると、それどころじゃないシロモノなんだけど。
キッカイの「個体が学んだ概念を死に間際に仲間に伝える」という性質が厄介で、自衛隊も全力を出し切れない。単に叩くだけなら多弾装ロケット砲、どころか迫撃砲あたりで面制圧しちまえば一発なんだが、仕留める前に体内の走馬燈を始末して進化を防ぐ必要がある。ってんで、普通科(要は歩兵)の方々が地道に精密射撃で走馬燈を潰していく。大変だわ。この走馬燈の処理も、ロボットの長所として絡んでくるあたり、芸が細かい。
戦車や戦闘ヘリとの違いは他にもあって、可動部の多さによる操縦の困難さ。いちいち銃を握る5本の指なんかリアルタイムで指示なんかしてらんない。その辺の処理も、ちょっとした読みどころ。
もうひとつ、この作品の特徴が、主系パイロットと従系オペレーターという概念。主系パイロットは、普通のロボット物みたく、ダイナミックフィギュアに乗り込んで操縦する。対して従系オペレーターは、既存の無人攻撃機と同様、「リモコン」で操縦する。鉄人28号のパターン。操縦機はあんな簡単なモンじゃなく、シミュレーターなんだけど。この二つの操縦パターンを持つ事で、作戦行動に大きな幅ができた。その辺も読んでのお楽しみ。
実はこの記事を書く前に、他の人の書評をいくつか読んだんだが、皆さん新世紀エヴァンゲリオンを意識して読んでる。意外に思ったんだが、人間関係を考えてやっと納得がいった。どこが、というと。
エヴァンゲリオンには色々特徴があるが、この作品と共通しているのが、パイロット以外のNERVの面々の存在感が大きい点。特に作戦行動中のミサトさんは迫力があったし、ゲンドウは胡散臭さプンプン。しかもNERVの裏にゼーレなんてのがあって。この作品でも、オペレーターやパイロットを補佐する面々の存在感が大きい。特に女性陣の香月さんと安並さん。下巻に入り終盤で安並さんにスポットライトがあたるシーンは、今までとの落差も手伝って、この作品で最高に盛り上がる。
その割を食っちゃったのが、主人公の栂遊星をはじめとするオペレーター/パイロットたち。特に栂、ロボット物の主人公にしては「いい子」すぎてチト物足りない。幼い頃から重機で遊んでいたためか、あらゆるマシンの操縦に優れる。だがそれを鼻にかけるでもなく、常に周囲との調和を図ろうとする。ガンダムだと…ミライさんが一番近いか。
と、あましトンガってない性格だし、周囲は大人ばかり。血気にはやる若者の暴走という描写も少ないので、いまいちキャラが立ってない。周囲が年上ばかりなので、基本的に「素直に学ばせていただきます」な姿勢で話が進んでいく。
リアルというのは社会・組織的な面を言ってるんだろう。ハードウェアの方面は、結構無茶やってる。そもそもエンジンが謎だし(これは後半で重要な意味を持ってくる)、究極的忌避感ってのも、あましサイエンスっぽくない。そういう意味ではマジンガーZ、というよりゲッターロボかな。
最終決戦のあたりは、もうノリで行ってる雰囲気…なんだが、正直、終盤になるまで、ノリがよくわからなかった。安並さんオンステージで「ああ、そういうノリなのね」と、やっと納得できた次第。
自衛隊とロボットの共闘というと、私はガンパレード・マーチが思い浮かぶ。機会があったら読み比べて欲しい。やたら長いのが欠点だけど、とりあえず「5121小隊の日常」と「5121小隊 決戦前夜」だけでも。
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