SFマガジン2012年6月号
「いいんだ、シリーズ化すれば3回までは許される!」 ――横山えいじ「おまかせ!レスキュー」
280頁の標準サイズ。今回の特集は「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション創刊10周年記念特集」として、仁木稔の短編と西島大介のコミック、倉数茂と法条遥のインタビュウ、そしてJコレクション既刊53冊のレビュウ。
表紙を開いていきなり緒方剛志の「ねじまき少女」のイラストが色っぽい。微妙にやる気なさげな目が、この人の特徴だよなあ。
仁木稔「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」は、9.11が阻止された現代USAが舞台。「妖精」と呼ばれる、子供のような人造人間が普及し、3K仕事に従事している。多くの人が妖精を歓迎する中、妖精を憎み撲滅を目論む者もいた。主人公のケイシーもその一人。カルト宗教系の健康食品企業に勤め、人種偏見に凝り固まっている。そんな彼が勤める店舗に、12歳ぐらいの少女が訪ねてきた…
ヒロインは明らかに初音ミクを意識してる。狂信的なWASPで固まったカルト宗教組織が、これまた典型的。熱心かつ誠実に職務に励むケイシー君が、ちょっと哀れ。
法条遥のインパビュウでは、彼の生活サイクルが作家らしくない、というか、全盛期のシルヴァーバーグみたいだ。極端な朝型で、「執筆のペースは、一日に一万字を書いたら終わり」って、凄いハイペースなのでは?400字詰め原稿用紙だと、約25枚。月間ガンパレの時の榊涼介と同量。
「アクセル・ワールド」、あの絵だと、どうしても「神風の術」を期待してしまう。
添野知生のMOVIEは、「バトルシップ」と「ジョン・カーター」。なんでも「ジョン・カーター」、本国じゃ大コケだそうで。「バトルシップ」は観てきた。楽しいわ、これ。たぶんこれ、「こーゆー絵が撮りたい」って所から、設定を作っていったんだろうなあ。主役が脚光を浴びた場面で、彼らが誇らしげに立ち誇るシーンが気持ちよかった。
椎名誠のニュートラル・コーナー、今回は死体というか埋葬というかお葬式というか。「日本にはゾンビ伝説が少ないのはみんな火葬にしてしまうからだろう」ってのには、納得。焼け焦げていい匂いさせてたら…それはそれで怖いかも、別の意味で。
長山靖生「SFのある文学誌」、今回は草双紙「白縫譚」の紹介。サンプルの見開きを見る限り、まるで絵本。幕末にこれだけ手間のかかる印刷物が庶民の間で流通してたってのが驚き。内容もエンタテイメントしてる。時は戦国、菊地家に滅ぼされた大友家だが、二歳の姫だけが落ち延びた。13年後、土蜘蛛に出会い己の出生を知った姫、土蜘蛛の力を借り菊地家への復讐に…。スパイダー・ガールですな。この作品の評価が、モロに「無理に連載を延長した連載漫画」なのがおかしい。
酒井昭伸「クライトンな日々」は、訳者によるマイケル・クライトン作品の裏話。早川書房がジュラシック・パークに「社運をかけ」ていたとは。「恐怖の存在」執筆のきっかけが、「某ハリウッド・スターと激論になったこと」ってのも、納得。作品に出てきた「自家用ジェットでボランティアに出かけるスター」には、モデルがいたんだね。
「てれぽーと」に、いきなり上田早夕里が出てきて大笑い。このまま激論を戦わせてくれたら面白いなあ。
巽孝之「現代SF作家論シリーズ」は、ウイリアム・O・ガードナーの「筒井康隆とマルチメディア・パフォーマンス」、「英語圏では初めての日本SFをめぐる包括的研究書に収められたもの」で、主に「朝のガスパール」と断筆宣言を扱い。かなり正確に事態を伝えてる。断筆について「筒井康隆の文学作品を保留する行動であったが、(略)筒井の『声』を繁殖させる効果があった」との分析は見事。筒井の本性が「役者」である、と見通してる。
橋本輝幸の MAGAGINE REVIEW は、F&SF誌2011.9/10~2011.11/12。ジョン・アームストロングの Aise 1047「通路1047」が面白そう。売り子さん同士がバトルするって無茶苦茶な話。「小売ドージョー・ブティックでセンセイから必殺技の数々を学び」って、おい。
第7回日本SF評論賞の選考委員特別受賞作の、忍澤勉『惑星ソラリス』理解のために[一]レムの失われた神学。レムの「ソラリス」、ロシア語版は検閲によって一部が削除されてる。昔早川から出てた版はロシア語版が元で、2004年に国書刊行会が出したのはポーランド語版が元。早川版と国書刊行会版を比べ検閲の実態を精査した後、ロシア語版を基にしたと思われるタルコフスキーの映画版にまで目を向ける力作。いや映画はほとんど寝てたけどね。こんなギャグがあって。
スターウォーズ「君は何度観たか」
ソラリス「君は何度寝たか」
そういえば「ストーカー」を観た時も、ほとんど寝てたなあ。
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