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2012年4月30日 (月)

シェイクスピア全集3「マクベス」ちくま文庫 松岡和子訳

魔女1 万歳、マクベス! おめでとう、グラームズの領主!
魔女2 万歳、マクベス! おめでとう、コーダーの領主!
魔女3 万歳、マクベス! いずれは王になるお方。

【どんな本?】

 シェイクスピアを、松岡和子が親しみやすい現代文で翻訳するシリーズで、四大悲劇のひとつ。11世紀のスコットランド王マクベスをモデルに、魔女にそそのかされた勇猛な将軍が、妻と共に野望のまま王位を簒奪し、血に狂って行く姿を描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 解説によると、成立は1603年~1607年の間。松岡和子のちくま文庫版は1996年12月5日第一刷発行、私が読んだのは2006年2月20日の第五刷。文庫本縦一段組みで本文約174頁。8.5ポイント29字×17行×174頁=85,782字、400字詰め原稿用紙で約215枚。長編小説としてはかなり短い。

 松岡和子の訳文は、読みやすさと正確さを優先し、その分芝居っ気を控えている感がある。訳者あとがきで、翻訳の苦労を綴ると共に、今作の重要な視点を提供しているので読んでおこう。レイアウトを工夫して、大量の注記を、巻末や章末でなく、同じ頁に収めているのも嬉しい工夫。

 とまれ、戯曲なだけに、文章の大半は台詞で構成され、地の分による状況説明や人物の心理描写はほとんどない。舞台で役者が演じているのを想像しながら読もう。

【どんな話?】

 時は11世紀、所はスコットランド。戦で大きな軍功をあげた二人の将軍、マクベスとバンクォー。特にマクベスはダンカン王よりコーダーの領地を賜る。二人は三人の魔女から予言される。「マクベスは王になり、バンクォーは王を生み出す」と。野望に目覚めたマクベスは、夫人と共にダンカン王の暗殺を企み…

【感想は?】

 お話は陰惨で血生臭いけど、巧いこと翻案すれば現代を舞台にしたやくざ映画や、スペースオペラにもなりそう。映画にするとなるとアクションがキモだけど、これは冒頭から戦場の場面なんで、ハリウッドのアクション大作の鉄則「いきなりクライマックス」にも適ってる。まあ、この作中じゃ戦場の様子が語られるだけなんだけど、映画ならきっと壮大なモブ・シーンにするはず。

 「ハムレット」は若くて優等生っぽいイケメンが主役だけど、マクベスは筋骨隆々とした壮年が相応しい。あんまし育ちのよさそうじゃ駄目。凄みがあって、頬や額に刀傷があればなお可。ガンダムだと…ドズル・ザビ?でもマクベス夫人はキシリア殿下が相応しい気がするんで、なんかなあ。

 ハムレット同様、最後のクライマックスは、派手なバトル・シーンとなる。とはいえ、得物と雰囲気がだいぶ違う。ハムレットはレイピアらしい(「先を丸めていない」なんて記述がある)んで、アクションはスピードと器用さが重要だろう。が、こっちはフルアーマーに身を包み(「鎧を取れ」)、たぶん獲物は片手持ちの両刃の剣で、左手には盾。私の印象だと両手持ちの大剣なんだが、「百戦錬磨の盾を掲げ」なんて台詞があるんで、仕方がない。剣戟の音も、「ガキッ、ゴキッ」って感じの、鈍器がぶつかり合う音が相応しい。

 などと得物に拘ってしまうのがニワカ軍オタの性。既に「あぶみ」が登場してるから、徒歩で戦うのは変じゃね?とか、戦場の主な得物は弓と槍だよねえ、などと突っ込みたくもなるが。

 舞台で演じるとなると、剣じゃないと困るんだよね。まさか舞台に馬を引っ張り出すわけにもいかないし。得物にしても、弓じゃ見栄えがしないし、槍は狭い舞台じゃ取り回しが難しい。見栄えを考えると、やはり剣が最も都合がいい。現実にはサイドアームズである剣や刀が、一般人には騎士や武士の主要装備と思われるに至った原因のひとつが、こういう舞台の都合にあるんじゃないか、ってのは考えすぎか。

 戦術的にも、少しだけ当時の攻城戦をうかがわせる台詞があって。「勝手に陣を張れ、どうせ飢えと熱病に食い尽くされるだけだ」とか。当時は「まぐさ」の補給が困難で、城攻めは時間との競争だったし、衛生状態もよくないんで、戦死より病死の方が多かったんだよねえ。バリスタ?それは言わない約束。でも、映画なら見ごたえのあるシーンになりそう…って、視点が偏ってるなあ。

 やはり有名な作品だけあって、三人の魔女をはじめ色々な所で引用されてる。フリッツ・ライバーの「跳躍者の時空」収録の「三倍ぶち猫」は、これかあ。意外なのが、スタニスワフ・レム「Fiasko 大失敗」。まんま、「バーナムの森」で始まってる。

 その魔女が大釜を煮る場面、恐らく今の魔女のイメージの原型となってるんだろうと思わせる。なにせ彼女らが釜に入れるのが…

お次は蛇の切り身だよ
煮えろよ焼けろ、釜の中
イモリの目玉、カエルの指、
コウモリの毛に犬のベロ、
マムシの舌、ヘビトカゲの牙、
トカゲの脚にフクロウの羽、…

 と、爬虫類や両生類が次々と並ぶ。
 原型といえば、不吉な予言もまたお約束。

女から生まれた者は誰一人
マクベスを倒せはしない。

マクベスは決して敗れない。
バーナムの大森林がダンシネインの丘に向かって
攻め上って来ないかぎり。

 古典というと、やたら格式ばった印象があるけど、シェイクスピアはシモネタも結構多い。門番だの墓堀人だのと、身分の低い者が出てきたらコメディ・タイム。ここでは門番が酒が引き起こす三つのことについて…

 そいつはね、旦那、赤っ鼻と眠気と尿意でさ。助平の方はですね、引き起こしといて引き下げる。一発やりてえって気にさせて、いざとなるとやらせちゃくれねえ。だから、酒は助平に二枚舌使うってわけだ。

 お話は、イングランド王のご機嫌を伺ってか、史実では比較的評判のいいマクベスを徹底した悪逆非道の男に書いた、一種のピカレスク。王位を簒奪したマクベスが、孤高の悪へと押し流されていく描写が、意外とあっさりしてるのが、ちと食い足りない。

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