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2012年4月18日 (水)

アントニー・ビーヴァー「ノルマンディ上陸作戦1944 下」白水社 平賀秀明訳

ナチはいつごろ降伏するのか、とジェロウが質問すると、コルティッツはこう答えた。「アメリカには、帰るに足るだけの何かが祖国にある。」が、ドイツには「将来への期待をいだかせるものは、いっさい残っていないのだ」と。

【はじめに】

 アントニー・ビーヴァー「ノルマンディ上陸作戦1944 上」白水社 平賀秀明訳アントニー・ビーヴァー「ノルマンディ上陸作戦1944 上」白水社 平賀秀明訳 2 に続く。下巻は1944年7月上旬より、パリ開放の8月末まで。

【概要】

  ノルマンディー独特のボカージュ地形に悩む、イギリス軍を中心とした連合軍左翼に対し、一気呵成にブルターニュを席巻するパットンのアメリカ第3軍。ドイツ軍はアヴランシュ奪取を目指しリュティヒ作戦を発動するが、逆に包囲殲滅の危機に陥る。

 勢いづく連合軍はパリへと向かうが、アイゼンハワーはパリを迂回しベルリンへ直行するつもりだった。連合軍の進撃を聞いたパリ市民は開放への期待 を募らせ、共産系のレジスタンスは武力蜂起へとはやる。パリ開放の栄誉を求めるド・ゴールとルクレールはアイゼンハワーへ詰め寄る。ヒトラーはコルティッ ツを国防軍大パリ司令部司令官に任命して命ずる。

 「敵が攻めてきたら、パリを破壊し、その廃墟で街の防衛にあたれ」

【感想】

 上巻は「史上最大の作戦」+αだった。下巻はそれ以後の戦いから始まって、パリ開放を扱ったラピエール&コリンズの名著「パリは燃えているか?」で終わる感じ。

 アメリカ軍とイギリス軍の戦い方、特に陸空の連携の違いを厳しく指摘してる。これはアメリカ軍が遥かに巧みであった、と。空軍が独立してる英軍と、陸軍航空隊の米軍ってのも、あるのかな?米軍は小回りの利く戦闘爆撃機P-47サンダーボルトが活躍してるのに対し、英軍は重爆撃機ランカスターハリファックスの名前が目立つのも対照的。それに対し、まったく存在感がないのがドイツ空軍。

「銀色の飛行機が見えたら、それはアメリカ軍機だ。カーキ色の飛行機が見えたら、それはイギリス軍機だ。もし機影がまったく見えなかったら、それはドイツ軍機だ」

 もう一つ、存在感の大きい機体が、パイパー・キャブ。偵察に着弾観測に包囲された部隊への輸送に将校の移動にと、大活躍。生垣に囲まれたボカージュは地上からの着弾観測が難しい。キャブで観測しつつ迫撃砲などで榴弾を空中爆発させる。独軍兵がたこつぼに篭ったら戦車の支援をうけつつ歩兵が突撃する。

 以下、エピソードをつらつらと。

【軍医】

 連合軍のある軍医曰く「三ヶ月半のあいだに6000件以上の手術をした。傷を見れば前線の状態がわかるようになった。新兵はブービー・トラップや地雷にやられる。戦闘がはじまった直後は自傷行為が多い。前進中は迫撃砲・機関銃や小火器の傷が多い。突破や陣確保の後は地雷とトラップ。膠着すると『88mmにやられた』と申告する兵が増える」

【鉄兜】

 米軍兵は鉄兜の紐を結ばない者が多かった。「近くで爆発があると、爆風で首ごと持っていかれる」と思っていたから。キッチリ締めていたのは、ゲアハート少将。なぜって、「光頭にいささかこだわりがある」…って、ほっとけ。

【圧迫か突撃か】

 戦線全体を横並びで押し上げる方針のブラッドリーに対し、パットンは兵力を一点に集中して突破する方が犠牲者が少ないと考えていた。著者の判断は、というと。「ノルマンディで苦戦したのは事実で、また地元の民間人にも大きな犠牲が出た。同時にドイツ軍戦力も大きく消耗させたため、その後のフランス開放は順調だった」と、どっちつかず。

【親衛隊】

 連合軍のイアン・フフレーザー軍医大佐がバイユー近辺の野戦病院で勤務していた時のこと。負傷した捕虜のドイツ兵とは、あいさつの交換ができる程度には人間関係を築けた。が、ある朝あいさつしても返事がない。婦長曰く「実は親衛隊兵士が一人運び込まれてきたんです」

 その兵に輸血しようとしたが、親衛隊員は拒否した。「イギリス人の血は要らない」。結果、親衛隊員は死に、軍医は他の負傷兵との関係を修復できた。

【総統暗殺計画】

 実際に実行されたヒトラー暗殺にロンメルは直接は関わっていないが、別の計画を練っていた、とこの著作では主張している。だが、ロンメルは完全な議会制民主主義を復活させるつもりはなかった。「基本的に皇帝なきドイツ帝国の再興にほかならなかった」。

【コブラ作戦】

 7月25日のコブラ作戦前の打ち合わせで、ブラッドリーは航空部隊に要請した。「あまり威力の大きくない爆弾を使ってくれ」。地面に深いクレーターができると、機甲部隊の通過速度が落ちるから。

【コブラ作戦の後始末】

 ブラッドリーはコブラ作戦に先立ち一万五千人の工兵からなる道路管理の専門部隊を編成していた。道路の穴の補修・残ったドイツ軍車輌の撤・塞がった道を迂回するバイパス道路を作るため。

【突進の効果】

 軍医曰く「猛スピードの進軍には利益がある。地雷やブービー・トラップの患者が減る」。独軍は急いで撤退するので、罠を仕掛ける暇がない。

【電撃戦】

 パットンがブルターニュを瞬く間に席巻したのには、理由がある。第六機甲師団を率いるグロウ少将に与えたパットンの指示は、「ともかくブレストを目指せ。抵抗に遭ったら、すべて迂回してしまえ」。皮肉なことに、独軍の電撃戦と同じだね。空軍を砲兵代わりに使うのも同じ。

 もうひとつ、パットンの巧い所は、情報。

パットンは、数百マイル離れた各師団と相互連絡をつける新たな手段を考案し、問題を最終的に決着させた。すなわち、「第六騎兵軍」という専門部隊を創設し、これを各方面に送り出し、自分に対して随時報告をあげさせる情報伝達システムを構築したのである。

【レジスタンス】

 ブルターニュを席巻する第六機甲師団には、地元のレジスタンスFFIが同行して協力した。ある日、物静かで階級の高いフランス人将校が集団で訪れ、協力を申し出た。が、レジスタンスの面々は怒り狂った。「奴等はヴィシー政権の軍に勤務していたんだ。それをすっとぼけて昔の軍服を引っ張り出し着込んできたんだ」

【村人】

 連合軍が村の手前に差し掛かったとき、村長が大騒ぎで車列の前に飛び出してきた。前の道路は紙切れで覆われていた。退去する独軍が埋めた地雷に、村人が総出で目印をつけたのだ。

【連合軍の補給】

 「およそ一万三千輌のトラック・戦車・ジープ・ハーフトラック・自走榴弾砲がポントーボー橋を通過しており、その平均通過ペースは30秒に一輌だった」

 ちと計算してみたが、30秒に一輌だと一日2,880輌になる。6秒に一両の間違いかな?

【戦術爆撃】

 <タイフーン>は20mm機関砲に加え8発のロケット弾を積める。が、ロケット弾8発を打ち込んだ際「戦車サイズの標的に命中させられる確率は、およそ4%」。

 後の調査によると、モルタン地区で破壊した独軍装甲車輌78輌中、航空攻撃にるものはたったの9輌。しかし、独軍はロケット弾を高く評価した。「ドイツの戦車乗員は、多くの場合、車体の外より、中のほうが断然安全なのに、なぜか搭乗する戦車を放棄している」。つまり、恐怖心だろう、と著者は推測している。これまたスツーカと同じ効果だなあ。

【補給】

 314高地に孤立した友軍に対し、米陸軍第230野戦砲大隊は奇策に出た。105ミリ発煙砲弾の中身を抜いて、血漿・モルヒネ・サルファ剤・包帯などを詰め、頂上めがけ撃ち出した…発射時の衝撃で全部オジャンになってたけど。

【夜間の陸空連携】

 夜間飛行する友軍爆撃機を誘導するために、連合軍の地上部隊が取った手段は。

 操縦手が暗闇の中でも方向を見失わぬように、上空の雲にサーチライトを当てて、「人工の月光」を作り出す手法と、自動高射砲でクリーンの曳光弾を空高く発射し、進撃方向を指示する手法とが、随時併用された。

【同士討ち】

 連合軍の空爆では時折同士討ちがおきた。米国陸軍航空隊に爆撃されたカナダ・ポーランド両軍は、黄色の発炎筒で自分たちの位置を伝えた。生憎と、米国陸軍航空隊では、黄色いマーカーは爆撃目標をしめす色だった。

【空襲目標】

 8月上旬に入ると、連合軍の戦闘爆撃機は補給用トラックを狙うようになった。これは効果的で、独軍は撤退時に燃料不足から戦車を置き去りにしはじめた。ゴムも不足し、パンクしたタイヤに空気のかわりに干し草を詰めたバスもあった。

【ティーガー神話】

じつは、連合軍の<シャーマン>、<クロムウェル>をより多く撃破したのは、ドイツ軍の戦車ではなく、各種の対戦車砲と、"ヤークトパンツァー" と呼ばれた駆逐戦車だったのである。

【負けず嫌い】

 戦場を駆け巡るパットンは重機関銃を搭載したジープを愛用した。ある時、ケナー軍医少将が同行し、二台のジープに分乗した。近隣に撤退中のドイツ兵がうじゃうじゃいるので心配したケナー少将は、「せめて自分が前の車に乗ろう」と申し出たが、パットンは…

「全力で遠慮させてもらうよ。なんでまた、この私が、他人に遅れを取らねばならないのだ」

【将校と兵】

 ドイツ軍の負傷者が750人も運ばれてきた。その一部は軽傷のドイツ軍将校で、彼らはここまで歩かされたことに文句を言った。するとその言葉を耳にしたドイツ人衛生兵の一人が言った。「私がドイツ軍にいたとき、あなたがた将校は、文句をいわず終日行軍するようわれわれに命じたではありませんか」

【タペストリー】

 パリ防衛にあたるコルティッツが篭るオテル・ムーリスは、絶え間ない銃撃を受けていた。そこにヒトラーの命を受けた親衛隊が来て、「ルーヴルの地下保管庫にあるバイユー・タペストリーをドイツに輸送せよ」と通告した。コルティッツは親衛隊にルーヴルを指差して言った。

「総統閣下の最も優秀なる兵士である君たちなら、あそこからタペストリーを取ってくることぐらい、造作もないだろう」

【ヘミングウェイ】

 レジスタンスと親しくなったヘミングウェイは、彼が連れて来た捕虜の少年兵の尋問をやらせろとせがんだ。「まずブーツを脱がせろ。ロウソクで爪先をあぶってやる」

【パリのレジスタンス】

 開放直前のパリ。共産党系の組織はドイツ軍の移動を阻むため道路にバリケードを築いた。一方、政治感覚に優れるド・ゴール派は、政府機関の庁舎を押さえた。

【捕虜】

 パリ開放に成功したルクレール師団は、もう一つ問題を抱えた。一万二千人以上の捕虜を抱える羽目になったのだ。彼らに食事と寝床を提供するのが、フランス軍の義務となった。

【女の命】

 1944年の夏、対独協力の容疑で丸刈りにされた女性は推計二万人。

【火に油】

 パリ市民は入城した米軍兵を歓迎した。米兵も羽目を外して遊びまわった。今まで溜まった給料が、まとめて支給されたのだ。

【おわりに】

 ヘミングウェイが「嫌な奴」に書かれてるのは、ちと意外。作家では、ほかにキングリイ・エイミスなんて懐かしい名前も出てきたり。いや「去勢」しか読んでないけど。ヒトラーの台詞「パリは燃えているか?」は出てこない。いけず。パリ開放では、スペイン内戦で戦った共和国派の生き残りがルクレールの師団に従軍してたり、ちょっとした因縁を感じる。

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