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2012年3月28日 (水)

SFマガジン2012年5月号

世の中には、ちくわぶを憎む人のなんと多いことか。  ――水玉蛍之丞「SFまで100000光年」

 280頁の標準サイズ。今月の目玉はイアン・マクドナルド特集として、短編二編「ソロモン・ガースキーの創世記」「掘る」、ローカス編集部によるインタビュウ「予測のつかない国」、日本での最新作「サイバラード・デイズ」のレビュー。

 インタビュウじゃ兼業作家ってのが驚き。イギリスでもSFの専業で食ってくのは難しいのか。ラストは北アイルランド在住らしい発言で締めくくられている。

 「ソロモン・ガースキーの創世記」は、月曜日から日曜日までという構成でわかるとおり、聖書を意識してるっぽい。ナノテク・エンジニアのソロモン・ガースキーは、恋人のエレナと共に、新品のマウンテン・バイクでサングレ・デ・クリスト山越えに挑戦していた。ところが5日目、ソロモンの自転車のギアがパックリと割れてしまった。修理のために訪れた居住地で、彼が見たのは…
 もともとマクドナルドは苦手だったんだが、この作品はとりわけ読みづらい。文体が技巧を凝らしてる上に、ブッ飛んだアイデアが次から次へと機関銃のごとく連続発射される。しかも、この人、ガジェットは詳しく説明しないから、注意深く考えながら読まなきゃいけない。内容は創世記の名に相応しく、オラフ・ステープルドンばりに壮大なスケールの物語。

 「掘る」は、お得意の火星が舞台のお話。間もなく火星年8歳(地球年だと16歳)の成人年齢を迎える少女、タッシュは採掘都市ウェスト・ディッゴリーに住んでいる。間もなく都市は「移動の日」を迎える。大掘削抗の下に向かい、都市が半年後とに移動するのだ。都市の使命は、大掘削坑を掘り進めること。
 まんま、掘る話。採掘都市と大掘削坑のアイデアに圧倒される。創世記より、こっちの方が好き。掘るったって、鉱山みたいなチャチなモンじゃない。しかし「逆転世界」とか「移動都市」とか、イギリスの作家って動く都市が好きだなあ。

 山本弘「輝きの七日間」、そろそろ佳境か。なんかこう、大技を仕掛けてる気がする。

 梶尾真治「怨讐星域」は22話、「悪魔の降下」。これも終盤に差し掛かってる模様。ノアズ・アーク号は<約束の地>まであと数ヶ月という距離にきた。その頃、<約束の地>の山に棚田を作り暮らす兄妹がいた。父母に先立たれ、若い兄のリュンは幼い妹のマユゥの面倒をみつつ、収穫した作物を下の集落に売って生活していた。集落では、ノアズ・アーク号の到着が話題になっていたが、リュンの心の中では不満と虚無感が渦巻いていた。
 さすがカジシン、手馴れてる。と思えば、キルゴアトラウトなんて年寄りが喜ぶクスグリもあって。

 パオロ・バチガルピ「錬金術師」後編。長年の執念が実り、イバラを駆逐するバランサストを完成させた錬金術師、ジェオズ。苦しい時も黙々と支えてくれたパイラとの絆にもやっと気がつき、娘のジャイラもそれを喜んでくれている。もはや恐れるものは何もない、意気揚々と市長を訪ねると、そこには多くの町の名士が着飾って待ち構えていた…
 魔法を使うと増殖するイバラってアイデアは、いかにもバチカルピらしい皮肉な設定。ラリイ・ニーヴンのマナにも通じる、ファンタジーの面白い発想。現代の環境問題を皮肉ってる感がある。

 大野典宏「サイバーカルチャートレンド」は、なんとOSIの7階層の話。そういえば昔のパソコン通信はRS232C経由で、同時に複数のセションを張るなんて夢のまた夢だったんだよなあ。今の私は iTunes でネットラジオ聞きながら Firefox でブログ書いてるけど、昔はエディタで文章書いてテキスト・ファイルに一旦保存し、完成してからまとめてアップロードしてたっけ。もちょい突っ込んで、「工業規格」の話まで持っていくと…「ねじとねじ回し」になるか、はたまた「戦争の世界史」になるか。

 焦ったのが水玉蛍之丞「SFまで100000光年」。そうか、ちくわぶって嫌われてたのか。まあ、確かに充分にダシが染みてないと美味しくないけどさ。かと言って放置しすぎると崩れてダシが濁っちゃうけどさ。

 円城塔の新刊「バナナ剥きには最適の日々」の煽り「あまり難しくない最新作品集」には笑った。サリンジャーのもじりかな?昔読んだ覚えがあるけど、意味が判らなかったんだよなー。

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