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2012年3月 1日 (木)

SFマガジン2012年4月号

おれは時を逆行しようと決める。  ――円城塔「Four Seasons 3.25」

 280頁の標準サイズ。今月は「ベストSF2011」上位作家競作として、円城塔/グレッグ・イーガン/瀬名秀明/三島浩司/パオロ・バチガルピ/ジャック・ヴァンスに加え、先月のレイチェル・スワースキーの「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女」の後編。

 まずは円城塔「Four Seasons 3.25」。「全ての民意を叶えます」という市長が実現した公約を使い、おれは時をさかのぼることにした。高齢者は市長の公約を扱いかねているが、市長就任以後に生まれたおれは使いこなせる。
 まず一人称が「おれ」なのに驚いた。今までいかにも敷居の高さを感じさせた円城塔の作品が、これだけでぐっと親近感がわく。中で使われる屁理屈も少なめで、相当に「読みやすさ」に配慮した模様。いや相変わらずアイデアはブッ飛んでるんだけど。IT系の仕事をやってると気がつくんだが、実は人って自分が何を欲しいのか、よくわかってないんだよね。

 続いてグレッグ・イーガン「対称」。近未来の地球軌道。微小重力産業会議の取材で軌道上のホテルにいたマーティンは、知人のゾーイから事故発生の知らせを受ける。こりゃスクープと勇み立ち、すかさず出かける。事故が起きたのは軌道モノポール加速器施設。実権後に故障が起き、修理に出かけた修理班の四人が消息を絶ったのだ。
 メインのアイデアは現代物理学の先端に関するもの。イーガンには珍しく(でもないかな?)、ちとグロテスクな描写もある。落ち着いて考えると、そういうシーンが見える方が自然なんだよね、こういう現象が起きたなら。逆にこの現象を利用できたら、いろいろと便利だよなあ。空港のテロ防止とか健康診断とか。

 瀬名秀明「きみに読む物語」。幼い頃、母に絵本を読んでもらったためか、私は本好きに育った。理系に進んだ私は、カラオケで知り合った文学部の多岐川勉の言葉に不意を衝かれた。「本を読んで感動するのはなぜか。その謎を解き明かしたい」。
 「希望」と緩く繋がる物語。相変わらず小説として濃いというか、惜しげもなく多量のネタをぶち込んでる。真摯な研究が「わかりやすく」加工され、世俗的に流行として扱われる世相。それに振り回される研究者と、逞しくビジネスに活用する市場。著者自身の体験談も混じってるけど、これはネタなのか嫌味なのか。

 三島浩司「懸崖の好い人」は、盆栽の世界にネタを取った作品。地方新聞の駆け出し記者だった私は、取材で訪れた国風盆栽展で衝撃を受けた。中でも最も感銘したのは、泰山と名づけられた中品の黒松だ。泰山を培養した瑞光園を訪ねたが、排他的な雰囲気で足を踏み入れるのに躊躇していたが…
 盆栽の世界の面白さに惹かれて読み進め、読み終わった時に気がついた。「あ、これ、SFマガジンだった」。いやホント、掲載誌がSFマガジンでなく、例えば群像とかの文芸誌だったら、意味が全然違ってくるんだよね、この作品。私は文芸誌のつもりで読んだんだけど。

 ジャック・ヴァンス「蛩鬼」。マグナス・リドルフに、「美味しい儲け話」が舞い込んできた。持ち込んだのは、農場主のブランサム。様々な不幸が重なって緊急に金が必要になったブランサムは、高収益を上げるティラコマ畑、それも収穫を待つばかりの畑を、マグナス・リドルフに売りたい、と申し込んできたのだ。
 えーっと、このオチは…。まあ、アレです、農家ってのは、いろいろと大変な仕事なんだなあ、と。つか、ディズニーのアニメかよ、みたいな。

 パオロ・バチガルピ「錬金術師」は、前編のみ。わたしも、かつて売れっ子錬金術師だった。しかし、今は落ちぶれ、幼いひとり娘のジャイアラのお気に入りのベッドまで、食いつなぐために売り飛ばすほどに落ちぶれてしまった。すべては、あのイバラのせいだ…
 「ねじまき少女」とは打って変わり、これは魔法が存在する世界のファンダジー。錬金術師というタイトルが示すように、科学技術はあまり発達していない。魔法の力にも独特の法則があって、これが重要なネタになってるっぽい。

 先月号の続きレイチェル・スワースキー「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女」。母国の<花咲ける丘の国>は遥か過去となり、だがわたしは何度も呼び出され続けた。わたしを呼び出すのは野卑な男ばかりで、わたしは面白くなかった。わたしと、わたしの国の伝説は酷く歪んで伝えられ、それも気に障った。
 前編からジェンダーを強く意識させる内容だったけど、後編になると更にそういうメッセージが強くなってくる。単にひっくり返しただけじゃなく、権力欲や偏見はそのまま、ってのが味を出してる。

 金子隆一「Sence of Reality」、今回は暦のお話で、例のマヤ暦を絡めた終末論の話…だが、最後のオチにに吹いた。今は笑い話で済むけど、実現可能になったら、真剣に言い始める人が出てきそうで怖い。

 大森望の「新SF観光局」、今回は山田正紀の傑作「チョウたちの時間」に題をとりつつ、芥川賞の内輪話。これが実にきわどいというか、毒舌満開。村上龍のDNAトンズラとか、宮本輝の「眠くなった」とか、例の閣下の恨み節とか。わかんないなら、素直にわかんないって言えばいいのに、そういう年頃なんだろうなあ。

 堺三保の「アメリカン・ゴシップ」、今回はヤング・アダルト状況の話。好調なためイアン・マクドナルドやクライヴ・パーカーまで駆り出されてるとか。イアン・マクドナルドのYAって、どんなんだろ。火星で暴走族のボスとして君臨する美少女が、敵対チームのボスに見初められ、とか。どっかで読んだとか思ったら、それはきっと気のせいです、気のせい。

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