« レイ・ブラッドベリ「さよなら、コンスタンス」文藝春秋 越前敏弥訳 | トップページ | 架神恭介・辰巳一世「完全教祖マニュアル」ちくま新書 814 »

2012年3月14日 (水)

全米ライフル協会監修「銃の基礎知識」学習研究社 小林宏明訳

 金属製弾薬のアメリカにおけるネーミングは、リムファイアー式弾薬の場合、まず100分の1インチで表される口径(弾丸の直径)が先頭にくる。同一口径で薬莢長にいくつか種類があれば、それを表す言葉がつぎにくる。典型的な弾薬は、.32エクストラ・ショート、.32ショート、.32ロング、.32エクストラ・ロングというリムファイアー式弾薬だ。

【どんな本?】

 NRA(National Rifle Association of America、全米ライフル協会)が発行した「銃を理解して楽しむための手引書」。銃の構造・各部品の役割・弾道学など科学・技術的な事柄、種類・互換性・選び方など所有・購入するための注意点、照準の合わせ方・安全な保管方法など運用のアドバイス、そして水の中で銃を撃つとどうなるか、などのコラムに加え、NRAらしく銃規制緩和を求めるメッセージを含めた、銃の入門書。

 NRA監修のためか、扱う銃はライフル・散弾銃・拳銃など民生用が大半で、軍用は自動小銃とサブマシンガン程度。対空砲や対物ライフルは出てこない。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は NRA Firearms Fact Book, 1989の第3版第6刷。日本語版は2008年9月30日第1刷発行。ソフトカバー横一段組みで約385頁。9ポイント28字×24行×385頁=258,720字、400字詰め原稿用紙で約647枚。小説なら長めの長編の分量。

 正直言って、読みにくかった。これについては後で詳しく述べる。

【構成は?】

 訳者まえがき/全米ライフル協会(NRA)とはなにか、なにをするのか/序文
第一部 銃の蒐集
第二部 銃に関する概論
第三部 安全な射撃
第四部 ショットガン
第五部 ライフルとハンドガン
第六部 弾道学
第七部 諸表
第八部 付録

【感想は?】

 まず、読みにくさについて。これにはいくつか理由がある。

  1. 本書はNRAが会員に配るつもりで作った本だ。よって、ある程度は銃を知っている人を読者に想定している。私は銃について素人なので、銃の知識が想定読者に達していない。ただ、構成上の問題もあって、序盤に出てくる専門用語を後半で解説してたりする。
  2. アメリカ人読者を想定しているので、単位がヤード・ポンド法だ。グレインなんて見慣れない単位も出てくる。多分、実際に銃砲店で買い物する際にはグレインが使われてるんだろう。
  3. 訳者のクセが強い。「へこんだカナルーは薬莢とかしめるため」なんて表現が出てくるけど、これは「薬莢に弾丸を固定するため」が妥当じゃね?反面、訳者の頑張りが読みやすさを助けている部分も大きい。特に訳者が多くのイラストを独自に追加していて、これが読者の理解を大きく助けている。
  4. 多少、数式が出てくる。といっても、加減乗除と平方根まで。

 まず、銃と弾薬の種類の多さに驚いた。一応、銃も弾薬もサイズが色々あるのは知ってたけど、他にもリムファイアーとセンターファイアー、黒色火薬と無煙火薬、無煙火薬でもシングルベースとダブルベースなど、種類多すぎ。単に「22口径の弾薬をよこせ」じゃ駄目なのね。少しは自転車を見習え(自転車は世界的に規格化が進んでるんで有名)。

 特に驚いたのが、リムファイアーとセンターファイアーの違い。実は薬莢の中には2種類の火薬が入ってる。1つは雷汞(らいこう)で、衝撃で発火する。癇癪玉みたいなものかな?もう1つが推進薬で、こっちが燃えるガスの圧力で弾丸を前に押し出す。撃針が薬莢を叩くと雷汞が火花を出し、その火花が推進薬に火をつける。

 雷汞の分量はとても少なくて、薬莢の底に少ししか入ってない。入れ方に2種類あって、どっちも薬莢の底に入れるんだけど、底の円周に沿って入れるのがリム・ファイアー、底の中心に入れるのがセンター・ファイアー。撃針は雷汞を叩く必要があるんで、リム・ファイアーの弾薬をセンター・ファイアーの銃で撃っても無意味なわけ…と思って Wikipedia の薬莢の項を見ると、「リムファイア式は徐々に衰退し、現在では小口径のものだけが生き残っている」。今はセンターファイアーが中心なのね。

 口径は原則1/100インチ単位で表すのはいいが、結構いい加減。「たとえば、.38 S&Wスペシャルという弾丸は、じつは.38口径ではなく。弾丸径は0.357インチだ」とか、メーカーごとにバラバラな様子。それと無知を痛感したのがNATO弾の意味。7.62mmって、インチだと0.30インチ、つまり30口径。最近の5.56mmは.22インチ、つまり22口径。

 マズル・ブレーキ(銃口制退器)の意味が判ったのも収穫。なければ発射ガスは前だけに行くんで、反動が大きくなる。横に逸らせば「最大25パーセントまで低減できる」。だから戦車の砲口がトンカチみたくなってるのね。欠点は発射炎が大きくなる事。

 反動の話でもう一つ面白いのが、オートマチックは「ソフトなキックを生み出す」こと。バネ仕掛けのパーツ、例えばボルトとかが衝撃を吸収するんで、瞬間的な反動は小さくなる。

 なんとなく銃身が長いほど威力が大きいように思ってたけど、実はそれにも限界があるそうで。.22口径だと「20インチ(50.8cm)ほどの銃身から発射されたとき最大の初速が得られる」。それより長いと、ガス圧が低くなり銃身との摩擦などで消耗するエネルギーの方が増えるそうな。

 変な実験の結果も載ってて、例えば海で漂流してる時に空から撃たれたら、水に潜れば大丈夫か?ってのを調べるのに、松板を水に沈めて確認してる。これは角度と口径で違って、.50口径で垂直だと水深1.2m~1.5mまでは板を貫通、45度と60度だと30cm。.30口径だと垂直で30cmまで貫通する。水に潜ればいい、ってのは、それなりに意味があるわけ。

 なお、水中で銃を撃ったらどうなるか、というと、「とりあえず一発は撃てるけど薬莢を排出しないんで連発はむりぽ」みたいな結果になってる。また、銃身に大きな圧力がかかるんで、安全とは限らないよ、と警告してる。

 弾薬が火事になったら、という実験もやってる。実は黒色火薬の方が危険で、火花でも暴発しかねない。無煙火薬は激しく燃えるだけで、爆発はしないそうな。ただし、火災現場に装填済みの銃があると、暴発の危険があるんで、「銃を保管するときは弾薬を装填しておくべきでない」。でないと消防士が死ぬ。向うの消防士も大変だなあ。

 「弾丸を真上に撃つと」なんて実験もやってる。これ、弾丸がどういう向きで落ちてくるか・弾丸の口径などで違う。.30口径のライフルだと、「約21秒で高さ10,000フィート(3048m)に達する」。底から落ちると58秒後に秒速98.5m(時速約355km)、横転してれば81秒後に秒速54.9m(時速約198km)で、先端が先だと53秒後に秒速139.2m(時速約501km)で落ちてくる。プロ野球の速球派ピッチャの投げる球の倍以上の速度で飛んでくるんで、「致命的な怪我をする可能性がある」。

 イロモノ的な内容ばかりを紹介しちゃったけど、弾薬の構造や装填方式、サングラスの選び方、銃器の安全ルールなど、(銃を持つ人にとって)常識的な事も、ちゃんと書いてある、というか、むしろそっちが目的の本。とはいえ、素人に毛が生えた程度の私には少々敷居が高かった。

【関連記事】

|

« レイ・ブラッドベリ「さよなら、コンスタンス」文藝春秋 越前敏弥訳 | トップページ | 架神恭介・辰巳一世「完全教祖マニュアル」ちくま新書 814 »

書評:科学/技術」カテゴリの記事

書評:軍事/外交」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/201750/54223293

この記事へのトラックバック一覧です: 全米ライフル協会監修「銃の基礎知識」学習研究社 小林宏明訳:

« レイ・ブラッドベリ「さよなら、コンスタンス」文藝春秋 越前敏弥訳 | トップページ | 架神恭介・辰巳一世「完全教祖マニュアル」ちくま新書 814 »