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2012年3月 2日 (金)

久保田浪之介「トコトンやさしいミサイルの本」日刊工業新聞社B&Tブックス

 一般にはロケットエンジンとよばれていますが、固体ロケットはロケットモータ、液体ロケットはロケットエンジンと呼ばれています。

【どんな本?】

 その道の一人者が、主に産業系の内容で、歴史・技術や基礎から最近の動向までを、一般向けに解説する、日刊工業新聞社の「今日からモノ知り」シリーズの一冊。著者は防衛庁技術研究本部第3研究所所長を勤めた後、三菱電機(株)の顧問となっている。

 ミサイルの歴史・構造・誘導技術・ミサイルの種類など、ミサイルに関する基礎的・一般的な技術や理論を、多くのイラストや表・グラフを使い、初心者向けに説明している。反面、実際に現場で運用されているミサイルの名称や緒元・写真などはほとんど出てこない。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2004年9月30日初版第1刷発行。ソフトカバー縦2段組で約140頁だが、独特のレイアウトの関係で実際の文字量は半分ほど。9ポイント24字×17行×2段×140頁/2=57,120字、400字詰め原稿用紙で約143枚。小説なら短編の容量。

 このシリーズの特徴は独特のレイアウト。見開きの右頁に解説を、左頁にはイラストや表などを配置するレイアウトを徹底し、、親しみやすさを演出している。この工夫が、機械の構造や戦術を解説するこの本と実に相性が良く、ロケットの内部構造や弾頭のしくみの理解の助けになる。一般に軍事系の本は「だ・である」調で堅い雰囲気なのに対し、「です・ます」調なのも、親しみやすさを増している。

【構成は?】

 はじめに
第1章 ミサイルは戦場を変えた
第2章 ミサイルとはどんなものか
第3章 誘導技術が決め手だ
第4章 戦術ミサイルと戦略ミサイル
第5章 ミサイルに搭載されるエンジン
第6章 ミサイルから逃れる
 参考文献/英略語表/索引

【感想は?】

 初心者には文句なしにお勧め、詳しい人には用なし。この本の面白さは、読者の軍事知識の量に反比例する。苔の生えた軍事マニアには常識しか書いてないつまらない本だろう。だが、ちょっとした好奇心で兵器に興味を持った一般読者にとっては、分かりやすくて過不足のない、最高の入門書となる。特に軍事に興味を持ち始めた初心者には、必読と言っていい。

 一般に軍事系の本は、いきなり詳細な話が連発したり、固有名詞が頻発したり、歴史上の戦闘を解説なしで例として持ち出したりと、相応の知識を持つ読者を想定していて、初心者が概要を掴むのには苦労する本が多いのだが、この本は、基礎的・理論的な部分を過不足なく説明した上で、最近の技術・概念であるステルスや無人化にも触れているなど、バランスにも気を配っている。

 産業系の本にありがちな、後半になると著者のギアが上がって読者おいてけぼりな傾向もなく、最後まで落ち着いて親切な解説が続く。敢えて欠点を挙げるなら、AAM(Air to Air Missile、空対空ミサイル)やIRBM(Intermediate Range Ballistic Missile、中距離弾道弾)など略語が多く出てくる点だが、これは軍事の習慣みたいなもんで、まあイチャモンに近いかな。最後に英略語表がついてるし。でも ASM が Air to Surface Missile(空対地ミサイル)と Air to Ship Missile(空対艦ミサイル)の両方で同じってのは、なんとかならんのかなあ。こういう時、漢字が使える日本語って便利。

 素人が不思議に思うのは、なんで兵器ってあんなに種類が多いのか、ってこと。この本が扱ってるミサイルでも、対空ミサイル・対戦車ミサイル・対艦ミサイルなど、いろいろある。「なんで軍船相手にヘルファイアじゃ駄目なの?」という疑問も、この本を読めば氷解する。装甲の厚さ・得物の図体の大きさ、そして飛ばす距離が段違いなんですな。

 弾頭も対戦車と対艦じゃまったく違う。対戦車は高温・高圧のガスで装甲の一点を溶かして車内を灼熱地獄に変える。近距離でワイヤで目視誘導したりするんで、あんまし飛行距離は要らない。それより歩兵が携帯できるように小型化するほうが大事。

 対艦ミサイルは相手の図体がでかいから当てやすいように思えるけど、向うだってデカい分、万全の対応を整えてる。大抵は遠距離から打ち出すわけで、長い航続距離が必要だし、その分、遠距離・中距離・近距離と複数の誘導方式を併用しなきゃいけない。弾頭も違って、こっちは装甲をブチ破ってから船内で爆発するのが望ましい。船内ったっていろいろで、食糧倉庫より弾薬庫やレーダー装置など戦闘力維持に重要な所で爆発して欲しい。などと考えると、ミサイル本体にも相応の認識能力が必要で…みたいな事が、この本を読むとよくわかる。

 ミサイルもエンジンはロケットと同じ。液体燃料と固体燃料の違いも分かりやすくのってて、液体ロケットは燃費と推力制御に優れ、固体ロケットは即時発射性・取り扱い性・長期保存性・大推力発生に優れているとか。ちょっと前に北朝鮮がテポドン発射前に燃料注入してたけど、あれ最近じゃ珍しくて、最近の長距離ミサイルは固体ロケットが中心だとか。つまりは本気で攻撃する気なら、敵に知られず発射せにゃならんわけで、偵察衛星が発達した現代じゃ、発射前に燃料注入が必要な液体ロケットは、使い物にならないわけ。

 操舵も近距離と長距離じゃ全く違ってる。近距離は空中を飛ぶから翼で姿勢制御できるけど、大陸間弾道弾は空気のない宇宙を飛ぶんで舵が効かない。で、そうするかというと、ノズルの方向を変えたり、機体に直角に姿勢制御用の小型ロケット(サイドスラスタ)をつけたり。F-22の推力変更ノズル技術って、ロケットの応用なのかなあ。

 見落としがちなのが機体の材料。超音速で飛んだりするんで、耐熱性が重要。速度から温度を求める便利な式も載ってる。To=(1+0.2M2)T。Toは機体表面温度、Tは大気温度、Mはマッハ数。ちなみに温度はすべてケルビン。

 ゴシップも少し載ってて、面白いのが、アメリカが当初、宇宙開発競争でソビエトに負けた理由。両者とも核攻撃を考えていたけど、その運搬手段の想定が違ってた。ソビエトが最初からミサイルを想定してたのに対し、アメリカは戦略爆撃機B-52を考え配備したため、ロケット開発を軽視してしまったそうな。なまじB-29で成功したのが仇になった形。

 過去の話もなかなか楽しい。ドイツのV-1号、なんとパルス・ジェット・エンジン(→Wikipedia)。やかましかっただろうなあ。V-2の話も酷くて、なまじ命中精度が低いためにどこに落ちるかわからず、「市民にとってはどこに逃げても安全な場所がないという恐怖感が実際の被害よりも大きかった」。そりゃそうだよねえ。

 他にも様々な誘導方式、ミサイルを目標に当てる航法、デコイ衛星の話、V-2号のエンジンの先進性、多様なジャミング方式、ミサイルの安全対策など、話題は広く網羅しつつ、理論的な面は充分。初心者には格好のお勧め。

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