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2012年3月12日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 新大陸編 1」電撃文庫

「背に腹は代えられん。俺もソックス・ハンター……もとい泥棒という事で、警察にタイホされるかのー。一般社会ではソックス・ハンターは下着泥と同じ扱いタイ」

【どんな本?】

 2000年9月28日発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を元に、著者の榊涼介がシリーズ開幕編「5121小隊の日常」を刊行したのが2001年12月15日。流れの速いゲーム/ライトノベルの世界で、10年以上もシリーズを続け前巻で30冊(ガンパレード・オーケストラを入れると33冊)、この巻で31冊目。

 昨年9月に「5121暗殺」を発表後、暫く音沙汰なしだったのが、突然のシリーズ新作発表、しかも「まだまだ続くぞ」と思わせる1の数字つき。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2012年3月10日初版発行。文庫本で縦一段組み、本文約282頁。今回もあとがきや解説はなし。8ポイント42字×17行×282頁=201,348字、400字詰め原稿用紙で約504枚。標準的な長編小説の分量。榊さん、安定してるなあ。

 この巻は政治・軍事系の話が中心のためか、やや堅い言い回しが多いが、中高生が『対象のライトノベルとして充分通用するだろう。それより、長いシリーズだけあって、込み入った世界設定や、多くの登場人物が紹介もなしに出てくるのが一見さんには辛いかも。

 出来ればシリーズ開幕の連作短編集「5121小隊の日常」から読むのが理想だが、「なるべく早く最新刊に追いつきたい」という人は、この新大陸編が三つの理由でいいキッカケになるだろう…それなりの覚悟は必要だけど。

 ひとつは、5121小隊以外の榊オリジナルの人物の登場場面が激減したこと。これはお話の流れで、舞台が大きく変わったため。もう一つは、冒頭で簡単に世界と社会情勢の説明がある事。そして最後に、入手しやすいこと。ライトノベルって、余程の人気シリーズじゃない限り、すぐに店頭から消えちゃうんだよね。特に、このシリーズはレーベルの関係で(以下略)

【どんな話?】

 1945年。第二次世界大戦は、黒い月の出現に続く、人類の天敵・幻獣の襲来で終焉する。津波のように圧倒的な兵数で押し寄せる幻獣の前に人類は敗退を重ね、ユーラシア大陸を失い、今や日本列島と南北アメリカ、そしてアフリカ南部を残すのみ。

 1998年、九州に幻獣上陸。追い詰められた自衛軍は14歳から17歳の学兵を招集し、熊本要塞の決戦を決定する。際物扱いだった全長8メートルの人型戦車・士魂号を擁する学兵部隊5121小隊は意外な活躍を見せ、九州の大半を失ったものの、日本は幻獣との和平にこぎつける。

 その頃、太平洋の向う、アメリカ大陸では、カナダのセントローレンス河口に幻獣が大挙して上陸。アメリカ・カナダ連合軍は壊走し、合衆国は試練の時を迎える。人型戦車に強い興味を示す合衆国政府は、強硬な態度で日本政府に5121小隊の派遣を迫ってきた。

【感想は?】

 冒頭の「アメリカの近代」が、なかなか秀逸。今までは日本だけでしか語られなかった幻獣との戦いだけど、ここで世界全般を俯瞰した目で眺め、次第に合衆国にフォーカスしていく。現実の歴史上のイベントの織り込み方には、思わずニヤリ。外せないよね、やっぱり。

 帯でわかるように、小隊が海を渡る。国内じゃ英雄の面々も、向うじゃガイジン扱い。こりゃ滅入る人もいるだろうなあ、などと能天気に考えてたら…

 やっぱり能天気な人はいるもので、天然は強い。マイペースで動きつつ、巧いことコミュニケーションを成立させてる人もいる。

 なんでも海外で取材するスポーツ記者に最も必要な能力は、「何でも美味しく食べる事」だそうで。つまり、現地の食べ物を美味しそうに食べるガイジンには、地元の人も愛想よく取材に応じてくれるそうで。そりゃ「おらが国の旨いモン」を美味しそうに食べる奴には、ついニッコリしちゃうよねえ。師匠の教えがよかったのか、順調にフラグを立てている模様。

 かと言えば構えすぎて挑発しちゃってる人もいます。普段どおりトレーニングしてれば、相手も態度が変わっただろう、どころか押すな押すなの大人気になりそうで、それはそれで嫌だろうなあ。5121配属前の話が出てくるのも嬉しいところ。まあ、浮くよね、普通。あの格好だし。

 食べ物といえば、ゲームでも謎だった売店のアレ。サンドイッチはすぐ若宮専用になっちゃうのに、なぜか長持ちする謎のシロモノ。ゲームのファンも「中に何か謎の物質が入っているのではないか」と噂をしていたが、ここでそういうネタを持ってくるか~。

 相変わらず備品扱いの怪人半ズボン、今回は冒頭から大暴れ。なんであの変人と幕僚長の馬が合うのか謎だったけど、そういう事ね。しかしダンク、それでは父上があまりに可哀想だ。きっと何か深い考えが…ないかもしれない。まあ、幕僚長にあれだけデカい態度取れる奴も、滅多にいないしねえ。しかしこの巻では、その主義ゆえの危機が…。果たして最後まで己の生き様を貫けるのだろうか。

 などと気楽なのは一部だけで、この巻は全般的に陰険で陰鬱な雰囲気で進む。そもそも、5121小隊を呼び寄せる魂胆がアレで…。前の「5121暗殺」でも仄めかされていたように、合衆国、微妙に変な方向にイカれてて。この辺は、ラムズフェルドをはじめとするネオコンが仕切ってたブッシュJr政権を戯画化した感じに出来上がってる。終盤になるとパウエルみたいな人が出てきて収拾するのかしらん。

 とまれ、日本人も色々なように、米国人も色々。ヤバい奴もいれば、フレンドリーな奴もいる。私が気に入ったのは、終盤に出てくるプラッター大尉。雰囲気、向うのダンク。とはいえ、年相応に腰は据わってる模様。というか、そういう立場で、わざわざ海兵隊に入るあたりは、タイガーかなあ。普通は州軍でしょ。

 さて、物語の舞台となるレイクサイド、合衆国北東部ニューヨーク州で五大湖のオンタリオ湖に近い、カナダ国境近辺。Google Map で見ると、ルート81とルート90が交差する、シラキュース(→Google Map)をモデルとした架空の街っぽい。少し地形をいじってオンタリオ湖につなげてるんで、何かこの地形を利用した仕掛けがあると見た。

 「新大陸編 1」というタイトルで分かるように、この巻は新しいお話の開幕編。慣れぬ土地でお子様扱いされる5121小隊が、向うの将兵や民間人と、どうチームワークを築き上げるかが、今後の楽しみ。それと、ダンクに続く新戦士の登場はあるんだろうか。つか使命を思い出せギャルソーン。

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