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2012年2月 1日 (水)

SFマガジン2012年3月号

 ところが、あるとき、頭がおかしくなった人間が出て、にもかかわらずそれがその男の身に起こりうる最良の場合だったことがあった。その男の名はジェフ・ハルバート。彼の話をさせてもらおう。  ――アレン・M・スティール「火星の皇帝」

 280頁の標準サイズ。今月は2011年度英米SF受賞作特集として、ジェフリー・A・ランディス、アレン・M・スティール、ブラッド・R・トージャーセン、レイチェル・スワースキーの短編を収録。また、ヒューゴー賞,ネビュラ賞,ローカス賞のほかブラム・ストーカー賞,世界幻想文学大賞など各賞の受賞作を発表。

 長編部門はコニー・ウイリスの「BlackOut/All Clear」が総なめ。「ドゥームズデイ・ブック」のシリーズ。短編ではテッド・チャンの「ソフトウェア・オブジェクトのライフ・サイクル」が強い。フィリップ・K・ディック賞の特別賞を伊藤計劃の「ハーモニー」が受賞してるのが嬉しい。なお巻頭で「SFマガジン読者賞」も発表。こちらはテッド・チャンの「ソフトウェア・オブジェクトのライフ・サイクル」と飛浩隆の「零號琴」がトップ。

 ジェフリー・A・ランディス「雲海のスルタン」は未来の金星が舞台。火星環境の研究家リア・ハマカワ博士は、金星を支配する大富豪カルロス・フェルナンドから招待され、金星に赴く。厚い大気に包まれた金星では、その濃い大気を利用した一万を越える浮遊都市が栄えていた。面識のないリアを招待したカルロスの目論みは…
 濃密な大気を利用した浮遊都市のビジョンが圧巻。地表は高圧で灼熱地獄の金星だけど、高空なら確かに住みやすそうだわ。軽量で丈夫な素材の開発が必須だけど。

 アレン・M・スティール「火星の皇帝」は、開発途上の火星が舞台。火星での雑役の仕事は、軌道の関係で3年間は現地に縛り付けられる反面、稼ぎもいい。ジェフ・ハルバートは、賃金に惹かれ火星に来た一人だった。そんなジェフに、不幸なニュースが届いた。彼は次第に狂気に蝕まれ…
 こりゃ古参のSF者なら涙すること請け合い。バロウズ,ブラッドベリ、アシモフ,ヴォクトなど懐かしい名前が機関銃のごとく飛び出してくる…ばかりでなく、エンディングが泣かせる。私的には今月号で最大の収穫。

 ブラッド・R・トージャーセン「アウトバウンド」は、いきなり地球滅亡で始まる。太陽系への植民が始まったころ、地球は人類自らの愚行で「炎上」した。11歳のミレックと4歳のイレンカの兄妹は、地球を脱出する宇宙船にギリギリで乗り込む。宇宙船は木星軌道のコロニーを目指すが、過程には全自動軍事衛星が待ち構えている…
 単なるパニック物だと思っていたら、家族の絆や信仰の問題まで絡んでくる、王道でストレートなお話。

 レイチェル・スワースキー「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女」、今回は前編のみ。魔術が存在する世界を舞台にした、本格的ファンタジー。女王イレネーに仕える魔術師ネイヴァは、小人の男アイアンと共に侵略者の偵察に出た。敵の陣を発見し、その全景を女王に魔法で伝えようとするネイヴァの胸に激痛が走り…
 召還される者の一人称、というのも珍しい。いや「ゼロの使い魔」は読んでないけど。ファンタジーには歯が立たないと思ってたけど、これはわかる、わかるぞー。大きなスケールを感じさせる場面転換の所で(次号へつづく)。ああ、次号が待ち遠しい。

 前号はパニック・シーンで終わっていた瀬尾つかさ「ウェイプスウィード」、今月は完結編。なんとか脱出は果たしたものの、今度はヨルが「次はわたしが乗る」などといいだす。まさか少女を一人で送り出すわけにもいかず、ケンガセンは二人で調査に赴くが…
 ウェイプスウィードの正体のみに限らず、他の伏線もキッチリ回収して綺麗に終わっている。濃いわー。これ、長編でもいけるんじゃないかなあ。

 新刊情報は野尻抱介「南極点のピアピア動画」が驚き。パンツ飛ばしてるだけじゃなかったのね。ローカス・ベストセラー・リストはヴァーナー・ヴィンジの The Children of the Sky に喝采。ペーパーバックは相変わらずマーティンが占領してる。T・J・バス逝去はちょっとショック。「神鯨」の三葉虫、可愛かったなあ。

 巽孝之「大西部の夕日――第69回世界SF大会リノヴェーション」では、日本SF作品の英訳が増えた理由が面白い。「アメリカ人英訳翻訳家で使える人材が出てきたのは、ほんとうにここ十年のことであり、それにはやはりマンガやアニメの影響が大きかった」とか。

 山本弘「輝きの七日間」は、意図的に書評を避けてる。この展開だと、ネタバレを避けて紹介するの難しいのよ。ってことで、今後もなるたけ触れないつもり。ちゃんと読んでますってば。

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