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2012年2月18日 (土)

小林泰三「天獄と地国」ハヤカワ文庫JA

 この世界は単純だった。
 カムロギが認識している世界の人的構成要素は三種類しかなかった。大地から資源をなんとか搾り取ろうとする村人、彼らを食い物にしようという空賊、そしてその食べ零しをなんとか拾い集めて食いつないでいるカムロギたちのような落穂拾いだ。

【どんな本?】

 SFとホラーを得意とする小林泰三による、一見ファンタジックでありながら、実は具体的な数字に至るまで科学的に練られた世界を舞台とする、長編冒険SF。SFマガジン編集部編「このSFが読みたい!2012年版」でもベストSF2011国内編10位にランクイン。遠未来の奇妙な世界を舞台に、超兵器を手に入れた貧しい者達が、伝説の楽園を目指す冒険の旅を描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 短編集「海を見る人」収録の短編「天獄と地国」を長編化し、SFマガジンに連載した作品に加筆・訂正したもの。SFマガジン掲載は2006年8月号・2008年11月号~2011年2月号。文庫本は2011年4月25日発行。縦一段組みで本文約425頁、9ポイント41字×18行×425頁=313,650字、400字詰め原稿用紙で約785枚。長編としてはやや長め。

 実は綿密な力学計算に基づくサイエンス・フィクションだが、心配ご無用。科学的な部分は、人工衛星が地面に落っこちない理由や、円筒型のスペース・コロニーが自転している理由がわかれば、充分に理解できる。

【どんな話?】

 天に大地があり、地には虚空が広がる世界。虚空に落ちた物は、永遠に落下していく。水はおろか空気すらないため、人々は徹底したリサイクルと節約で日々を凌いでいた。村人は天にしがみつき、僅かな地熱を頼りに定住生活を送るが、略奪目的の空賊に襲われればひとたまりもない。更に惨めなのが落穂拾いで、空賊の略奪後の火事場泥棒で食いつないでいた。

 落穂拾いのカムロギら四人は、幸運にも豊かな村の廃墟を発見し、潜り込む。水も空気もたっぷりあり、部屋も10個が生きている。真空被爆で死にかけたカムロギの療養を兼ね、とりあえず四人は一ヶ月ほど滞在を決め込むが、唯一の女性カリティは、コンピュータにしがみついて地国の伝説を漁っていた。かつて人は球形の世界に住み、重力で地面を踏みしめて歩いてた、という。

【感想は?】

 なんといっても、最大の魅力は、天と地が逆転した異様な世界観。天に地面があり、地は虚空。天から離れた物は、地に向かい限りなく落ちていく。「それじゃ空気が虚空に散逸しちゃうじゃん」と思われるだろうが、その通り。基本的に世界は真空。天の岩盤にしがみ付いた建物の中で、村人は暮らしている。

 なにせ虚空の世界だ。社会は貧しい。物質とエネルギーは貴重で、徹底したリサイクルが染み付いている。冒頭からして、カムロギたちの貧しさがひしひしと伝わってくる。

「ところで、『風呂』ってなんだ?」
「風呂ってのは、入って体を洗ったり、温まったりする湯のことだ」
「なんだか知らんが、豪勢な風習だな」

 などと貧しいわりに、宇宙船はあるし、宇宙服は着たきり雀で生きていけるほど高度なリサイクル機能を持っている。なんで着たきりなのかというと、船内を満たすほどの空気がないから。悲惨。

 つまりは、かつて高度な科学力を誇っていた者達の末裔が、この世界の登場人物たちである事をうかがわせる。まあ、その科学力も今は衰えているらしく、カムロギが不調な宇宙服を無理やり使う場面で、「結局人間そのものはあまし進歩してないなあ」などと変に関心しちゃったりする。やっぱりね。不調な機械は、とりあえず叩いてみるもんでしょ。

 貧しさの極地が、メンバーの一人ナタの生い立ちを語る一幕。いやねえ、いくらなんでも、とは思うけど、生まれた時からそうだと、ソレが普通だと思い込んじゃうのかなあ。この一幕の結末は、そうなるんだろうなあ、と判ってはいても、なかなかショッキング。

 などと徹底した貧しさの中でも、戦いがなくならないのが人類。この物語も、ほぼ全編が戦闘で構成されていると言っていい。特に中盤はスペースオペラや怪獣映画・ロボットアニメ好きにはたまらない展開。奇想天外なシロモノ同士が、智恵と秘密兵器を駆使して凄まじいバトルを繰り広げます。乞うご期待。

 そんなロボットアニメでは欠かせないのが、搭乗シーン。これがまた酷いというかなんというか。パイルダー・オンとか、普通はもっとカッコいいモンだろうに、なんだこれは。いやまあ、キチンと考証すればこうなっちゃうんだろうけど、こんな酷い搭乗シーンも滅多にあるまい。先に読んだ「約束の方舟」の、心地よさそうなシンクと好対照をなしてる…というか、出来れば比べたくない。こんなので爆笑してしまう自分が哀しい。設計者出て来い。

 爆笑シーンはまだまだ続く。なんで巨大ロボットが必殺技を使う際、いちいち決め台詞とポーズをつけるのか。あれには、重要な理由があるんだと、キッチリ教えてくれる。そうか、そうだったのか。

 やはり大笑いなのが、序盤から登場するウインナー村長老のサビタンの秘密。あれだけ大袈裟で感動的な物語を語っといて、これかよ。某田中の悪い影響でも受けたんだろうか。こんなので笑ってしまう自分が(以下略)。

 SFマガジン連載時には、とびとびに読んだんで、いまいちピンとこなかった世界だが、まとめて読むとクッキリと見えてくる。世界の謎については、こちらで詳しい計算をしている人がいる。ネタバレなので、未読の方は要注意。

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