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2012年2月の12件の記事

2012年2月27日 (月)

「G・ガモフ コレクション 2 太陽と月と地球と」白揚社 白井俊明・市井三郎訳 その2

 ということで、前の記事から続く。

【Ⅰ 太陽という名の星】

 …この電波を出すために原子軌道にある電子のエネルギーはしだいに費やされていくであろうということである。その結果として、電子はらせん状の軌道を描き、だんだん落ちていって、10-8秒で原子核に落ちこんでしまうことになる。

 話は紀元前四三四年から始まる。ギリシャの哲学者アナクサゴラスが太陽までの距離を計算し、約6400kmという解を出した。「地図を作ったひとびと」に出てくるエラトステネスの約200年前。実は計算方法も計算に使った数字もエラトステネスと同じで、計算結果は地球の半径とほぼ同じ。何を間違ったのかというと、モデル。彼は地表が平らで、太陽が天空を巡っていると考えたわけ。

 …ってな感じに、「太陽までの距離はこうですよ」と素直に解を示さず、「こうやって測り、こう計算したら、こういう結果になりました」と順を追って説明しているのが、この本の特徴。この後に続くのが地球の重力の測定方法、キャベンディッシュの装置。要は大質量の物質が他の物をひきつける力を測ってるんだけど、なかなか巧妙。

 この後、太陽の表面温度を測る話が出てくる。これがなかなかエキサイティング。必要な法則は三つ。

  1. シュテファン-ボルツマンの法則:高温の物体の表面の単位面積から単位時間に放射されるエネルギーの全量は、そのものの絶対温度の四乗に比例する
  2. ウィーンの法則:絶対温度Tのある高温体から出るスペクトルのうち、最多のエネルギーを持つ波長はTに逆比例する
  3. 放射は距離の二乗で減る

 そして必要な数字は以下3つ。

  1. 地球軌道上で一平方センチあたり受ける太陽の熱量:毎分1.94カロリー
  2. 地球と太陽の距離:1億4945km
  3. 太陽の表面積:太陽の半径69万5300kmから計算

 これで太陽の単位面積あたりが放射する熱の量が計算できる。結果、約5800度。ちなみに太陽光線のエネルギー極大の波長は緑色だとか。植物の葉が緑色なのは、そのためかしらん。

 この辺まではついていけたんだけど、量子力学が入ってくるとついていけなくなった。それでも写真や絵はそれなりに面白くて、最も衝撃的だったのが太陽表面の写真。つぶつぶになってる。これが黒点付近だと中身も見えて、つぶつぶが実は長い毛足みたいなもんだ、と分かる。毛足ったってそれぞれの毛が数百キロメートルの太さなんだけど。

 黒点については昔から疑問があった。「黒点は温度が低いのに、黒点が多い時は太陽活動が活発と言われる。なんで?」という疑問、太陽内部の構造で氷解。太陽中央に反応帯、その外に対流帯、更に外に伝導帯があり、対流帯と伝導帯の境界で出来た渦が、表面に浮いてできるのが黒点。盛んに対流が起きてれば渦も多い、というわけ。

 なお黒点が11年程度の周期で増減してるのは有名。これと経済活動の関係、あながちオカルトでもなく、黒点の数が少ないと小麦の育ちが悪く小麦価格が高くなるそうな。

 他の恒星の話も出てきて、興味深かったのが赤色巨星の話。齢経た恒星が赤色巨星になるのは知ってたが、その原因は知らなかった。中央に燃えカスのヘリウムが溜まり、周囲を水素の層が包む。両者の境界で核反応が起き、核反応が起きる境界が次第に外へ移動していく。

 今まで結論だけを聞いてなんとなく「そういうものだ」で納得していた事柄が、「こういう手順で判明してきたのね」とわかる、というのは、けっこう気持ちがいい。なんか賢くなった気になるし。まあ、私は読んですぐ忘れるんだけど。

【Ⅱ 月】

 …毎秒11キロメートルの初速をもつ投射体をつくりまして、それを月の方向に向かわせますと、その投射体はかならずつきに到達するのであります。  ――ジュール・ヴェルヌ「月世界旅行」

 お次は月。残念ながら1959年とアポロの月着陸の前に書かれた本だけに、やや内容が古いのは仕方がない。とはいえ、後1/3程度を月まで行くロケットの話しに割いているのは嬉しい。いえ個人的に科学より技術/工学の話が好きなんで。

 やはり前から疑問に思ってたのが、日食で皆既日食と金環食がある理由。解は単純で、地球も月も公転軌道が楕円だから。SF的にネタになると思ったのが、月から見た日食、地球から見た月食。「観測結果によれば、このさいには一時間の間に、160度Fからマイナス110度Fまで(69℃からマイナス79℃まで)急降下するのである!」

 月が昼夜で温度が大きく違うのは知ってたけど、その温度変化は2週間ほどかけてゆっくり起きる。ところがたった1時間でこれだけ違うとなると、月に恒久的な基地を作る際には、大きな問題になるかも。月の裏側に作ればいいのかな?

 地上でわかる月の重力作用といえば潮汐。「パーフェクト・ストーム」に漁師が月の満ち欠けと取れる魚の関係を語るシーンがあったように、海に関係する人には重大問題。意外なのが、実は地殻も満ち欠けしてる、という話。毎日2回、約0.3mほど上下してるとか。

 さて、ロケットの話。いきなりドイツのV2ロケットの燃料、液体酸素はわかるとして、反応剤が「75パーセント・エチル・アルコールと25パーセントの水の混合物」ってのが意外。燃料とロケットの空重量の比と、噴射高温ガスの速度の関係もSF者としては便利。

 もし燃料の重量がロケットの空重量の二倍であれば、それが到達する最高速度は、噴射高温ガスの速度に等しくなる。(略)八対一であるようなロケットは、噴射ガスのスピードの二倍の速度(略)、死荷重1ポンドにつき20ポンドの燃料を携行するようなロケットは、それは三倍の速度で飛ぶのである。

 ってんで、多段ロケットが今の適正解なんだが、ロケット好きには有名なオライオンのアイデアも出てる。

U・スタン博士によって、ある簡単な提案がなされている。(略)原子爆弾を後部の開放口から、一つずつ押し出して、ロケットの後方、ある一定の距離で爆発させるのである。(略)ロケットは前方に蹴り出され、(略)一ダースか二ダースの原子爆弾をこのように爆発させれば、地球重力を克服するのに十分なスピードをロケットに与えることができる…

 よいこはまねをしてはいけません。他にも「月の表面で原爆を爆発させて舞い上がった破片を採取すれば着陸しないでもいいよ」とか、けっこう無茶な話をしているのだった。

【Ⅲ 地球という惑星】

 水蒸気は陽電気を帯びた空気の粒よりも陰電気を帯びた粒のほうによく凝集するということである。すなわち、雨とともに陰電気が降ってきて、陽電気は上空に残ることになる。そのため電位差はどんどん大きくなり、ついに雲と雲のあいだや雲と地面のあいだで雷が落ちるということになる。

 ここでも、いきなり昔からの疑問が氷解した。「海って昔から塩辛かったの?」解はNO。次第に塩分が濃くなってきたそうな。といいうか、海の塩分濃度で海の年齢を計算した人もいて、数十億年という結果になったとか。

 ここでは、まず、「惑星はどうやってできたか?」という話から始まる。ここでは「太陽の残りカスが凝集したんじゃね?」的な解を示してる。面白いのが「月にもし海があったら」というイラスト。月の地球側と反対側に大きな大陸があって、海の帯が二つの大陸を分かつ形になるそうな。でも月の岩石から酸素は取れるんだけど、水素がないから、大量の水はできそうにない。残念。

 ちと古いな、と思ったのが水星の記述。「一つの半球だけがいつも太陽の光を受けている」とあるけど、たしか少し公転周期とズレてる筈…と思ってWikipediaを見たら、やっぱりそうだった。ラリイ・ニーヴンが短編「いちばん寒い場所」を発表したとたんにこの事実がわかって、彼が「発表してすぐに時代遅れになってしまった」と泣いたって話で覚えていた。

 意外なのが、丸いつやつやした石の正体。ワイオミングで見つかる、おもに花崗岩の直径数センチメートルの石。卵形でつやつやに磨かれている。海岸の石よりつやつや。これ、恐竜の胃石だそうで。鳥の砂嚢と同様、消化を助けるために飲み込んだそうな。

 温暖化云々で噂の二酸化炭素と植物の関係。植物が吸収する二酸化炭素は5千億トンで、大気中の二酸化炭素の1/3。問題は、どの植物が吸収するのか。陸上植物は1/10程度で、「9/10が海中の海草によるものである」。

 生命の話も扱っている。面白いのがアメリカの生化学者フランクリン・コンクラートとロブリー・ウイリアムスの実験。タバコ・モザイク・ウイルスを、中の核酸と皮のタンパク質に、一旦分離する。この二つの溶液を混ぜると、「タンパク質分子はアミノ酸分子のまわりをとりまきはじめ、それからしばらくすると典型的なタバコ・モザイク・ウイルスの存在を電子顕微鏡が示してくれる」。ウイルスの生命力凄い。ウイルスが生命と言えるのか、という疑問は置いて。

 ここでは人間の遺伝子改造の話も出てきて、ガモフ先生は肯定的。「もし科学がこれを可能にすれば、地上の人類は未来永劫に栄えるかもしれない」。とりあえず私の毛母細胞を復活させてくれ。

【解説:ガモフ以後の太陽と月と地球…桜井邦朋】

 ここでは、ガモフの著作以降の発見をいくつか補足している。興味深いのが「太陽ニュートリノ問題」。

長いあいだにわたって得られたフラックス値の平均は、太陽の内部構造から理論的に予想される値に比べて、三分の一以下にしか達しない。

 ほほう、と思って Wikipedia を見たら「現在は、ニュートリノの世代によって質量が存在することやこれまで考えられていた核融合よりも複雑な反応が起こっているという研究成果の発表があり、現在の太陽の主系列理論にあまり影響を与えていない」。冒頭のアナクサゴラス同様、計算はあってたけどモデルが間違ってた、という話かしらん。

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2012年2月25日 (土)

「G・ガモフ コレクション 2 太陽と月と地球と」白揚社 白井俊明・市井三郎訳 その1

…単独のものはすべての星の約三分の一にすぎず、残りの三分の二は連星または三重連星、ときには四重連星として存在している。これはアメリカ合衆国の男女の約5分の一が独身なのとよく似ているといえよう。

【どんな本?】

 ロシアに生まれアメリカで活躍した20世紀の理論物理学者、ジョージ・ガモフ(→Wikipedia)による、一般向け科学啓蒙書シリーズの一冊。教科書ほど無味乾燥ではないが、アイザック・アシモフやスティーヴン・ジェイ・グールドの科学エッセイよりは科学的に突っ込んだ話が出てくるのが特徴。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 この本は日本独自に編集されたもので、元は白揚社刊「ガモフ全集」(全16巻)中、以下三冊の合本。

  1. A Star Called The Sun, 1964 / 第11巻「続・太陽の誕生と死」白井俊明訳
  2. The Moon, 1959 / 第9巻「月」市井三郎訳
  3. A Planet Called Earth, 1963 / 第3巻「地球の伝説」白井俊明訳

 日本語版は1991年11月20日第一版第一刷発行。ハードカバー縦二段組で、それぞれ本文約147頁・約85頁・約191頁の計423頁に加え、解説「ガモフ以後の太陽・月・地球」桜井邦朋15頁がつく。8.5ポイント28字×22行×2段×(147+85+191)=521,136字、400字詰め原稿用紙で約1303枚。そこらの長編小説なら2冊ちょいの分量だが、図版や写真も多く掲載しているので、実際の文字量はその8~9割。

 上で「教科書と科学エッセイの中間ぐらい」と評したが、読みやすさもそんな感じ。科学エッセイよりは覚悟が必要。要所で数式・化学式も少し出てくるが、読み飛ばしても大きな問題はない。というか、私は読み飛ばした。すんません。読み飛ばす覚悟があれば、中学卒業程度の理科・数学の素養でなんとか読み下せる…って、自分の理科と数学の素養を告白してるようなもんだな。

 数式は指数・対数が分かれば充分で、微分方程式や行列式は出てこない。ただしグラフは対数メモリのグラフが多いので、その程度は覚悟しよう。

【構成は?】

Ⅰ 太陽という名の星
 第1章 どのくらい遠く、どのくらい大きく、どのくらい熱いか?
 第2章 原子とそのスペクトル
 第3章 渦まく太陽の表面
 第4章 高温の星の内部
 第5章 原子核とそのエネルギー
 第6章 太陽の仲間
 第7章 星が死ぬとき
Ⅱ 月
 第1章 月を運ぶ人、チャンドラセカール
 第2章 月とリンゴとニュートン
 第3章 月の誕生
 第4章 月理学
 第5章 月への投射体=一つの夢
 第6章 月ロケット=一つの現実
Ⅲ 地球という惑星
 第1章 地球誕生す
 第2章 忠実な月
 第3章 惑星の家族
 第4章 足下の地獄
 第5章 地球表面の形
 第6章 気象と気候
 第7章 頭上の地獄
 第8章 生命の本質と起源
 第9章 生命の進化
 第10章 地球の将来
  解説:ガモフ以後の太陽と月と地球…桜井邦朋

【感想は?】

 アシモフのエッセイやブルーバックスのつもりで読み始めたら、痛い目を見た。存外と本格的な本だ。そこらの科学解説書なら、「太陽の表面温度は6千度ですよ」で終わるところを、この本は、それをどうやって計測し、どうやって計算し、なぜ6千度で、6千度だとどういう状態になっているか…と、どんどん深く細かい所まで突っ込んでいく。

 お陰で、三角測量からメンデレーエフの周期表、そして量子力学の基礎までおさらいする羽目になった。なんだって太陽の表面温度を知るのに量子力学が必要なのかというと、話せば長いことながら…と誤魔化しておこう。

 いや最終的には核反応なんだけど。なぜ核反応が起きるのか、なぜエネルギーが出るのか、どの程度のエネルギーがどんな形で出るのか、を知るには、原子の性質が重要な意味を担ってるわけで、となると量子力学が必要になる、というのが、この本を読むと否応無しに納得できるようになっている。

 原書の出版が50年代から60年代と古いため、最新の科学の成果こそ盛り込まれていないが、現代科学の基礎を再確認するには格好の一冊だろう。

 ということで、内容の詳細は次の記事に続く。

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2012年2月22日 (水)

瀬名秀明「希望」ハヤカワ文庫JA

 少年は立ち上がり、小鳥の飛び交う空を仰いだ。言葉を交わせたのだからきっといつか自分も飛べると少年は思った。きっといつか鳥のように飛べると。  ――鶫と鷚

【どんな本?】

 SFと科学/技術ドキュメント双方の領域で活発に活躍している瀬名秀明の第一短編集。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2012年版」のベストSF2011国内編でも堂々の二位に輝き、「SFマガジン読者が選ぶベストSF2011」国内編ではトップをもぎ取っている。

 全般に近未来を舞台に最先端の科学ニュースや技術を絡めた作品が多く、同時に「SFだからこそ書ける文学」を、かつてのニューウェーヴとは全く違った形で、だが真正面から全力で取り組んだ作品がギッシリと詰まっており、それぞれの作品の読了後は、暫く呆けてしまうだろう。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2011年7月15日発行。発表年は「For a breath I tarry」と「鶫と鷚」が2008年なのを除き、2010年。最近、短編づいてるなあ。文庫本の縦一段組みで本文約359頁。9ポイント40字×17行×359頁=244,120字、400字詰め原稿用紙で約611枚。普通の長編小説の分量。

 文章そのものは読みやすいが、最近の科学や技術の動向を多少知らないと辛いかも。とはいえイーガンのようにむき出しでネタにするのではなく、むしろ哲学的な考察を通じて使うスタイルなので、アレルギーがなければなんとかなる…と、思う、たぶん。

 それより、「小説」としての濃度が極めて濃く、注意深く読まないと大事な部分を読み逃してしまう上に、収録作品すべてが深く考えさせられる内容なので、「軽く読み飛ばす」読書には向かない。腰をすえてじっくり読み、各編読了後はお茶を飲んで気分転換するなど、充分に体制を整えて取り組もう。

【収録作は?】

魔法
 マジシャン活動の傍ら、カルチャースクールでマジックを教えている理英は、生徒の本多から筧伊知郎の近況を聞く。七年前、25歳の筧は世界中のマジシャンに知られる大会FISMのマニピュレーション部門で一位を浚い、将来を有望視されていた筧だが…

 いきなり濃い。マジックと先端技術を絡め、人間と技術、そして魔術が人に与える感動を追及した作品…と言ってしまえば簡単だが、作品世界を構成するための取材量が半端じゃない。マジックそのものに加え、日本のマジシャン社会の現状について、著者らしく誠実かつ徹底した描写がなされている。これだけでも充分なセンス・オブ・ワンダーなのに、加えて最新技術のネタを織り込み、人に与える「感動」の謎に迫ろうとする。ある意味、ボーかロイドが呼び起こす波紋にも通じる、まさしく今語られるべき物語。
静かな恋の物語
 eiπ+1=0。リチャード・ファインマンが「私たちの至宝」と呼ぶ、オイラーの等式。理学部で理論物理学を専攻する真弓は「エレガントな式」と評し、「宇宙はシンプルで美しい数式で成り立っている」と主張する。しかし、生命科学を目指す一紀は反発して…

 エレガントで単純な美しさを追求する数学・物理学と、個体ごとのばらつきという大量の「雑音」から逃れられない生命科学。二つの価値観・感性の違いを対比させつつ、恋を絡めた綺麗な作品…かと思ってたら。
ロボ
 晩秋のウィニペクに潜む自然史家の小屋にたどり着いたのは、日が暮れる頃だった。彼の小屋には、ロボットを描いた古雑誌の表紙やイラストと共に、かつて一世を風靡した犬型ロボットもあった。当時はロボットブームで、愛玩用ロボットの所有者は「ロボットには心がある」と主張し議論を巻き起こした。

 これもまた贅沢な短編。著者お得意のロボットと人間というテーマに加え、シートン動物記の狼王ロボをシャッフルし、更に…。人が感じる愛着の正体を、ギリギリの距離感で描く緊張感溢れる短編。
For a breath I tarry
 百貨店の八階で催された望月海の個展。その入り口は二枚の絵が塞ぎ、左右どちらかから回り込んで入らなければならない。大抵の展示会には順路が設定されているものだが、これではどっちが順路なのかわからない。迷ったぼくと琉美は、それぞれ入り口と思う方向を指差しあうが…

 この短編集で繰り返される、生命と機械というテーマを凝縮した短編。人の中にあるロボット的な性質、ロボットと人間の認識の間にある決定的な断絶。A.E.ハウスマンの詩「シュロップシャーの若者」を題材に、悠久の時と今この時を対比させ、幻想的な物語が展開する。
鶫(つぐみ)と鷚(ひばり)
 20世紀初頭、フランスは新規航空航路開拓に邁進していた。アフリカと南米を結ぶ野望の難関として立ちはだかるのは、三千キロにも及ぶ太平洋。指揮を執るディディエ・ドーラは、信頼するアンリ・ギヨメを新たなる挑戦に送り出す。

 戯曲を模して語る、航空機の曙。郵便航路で活用が始まり、南米やアフリカなどで活発に新規航路開拓が行われていた冒険の時代。となれば野卑な男たちの世界になると思いきや、端役でサン・テグジュベリが出演する事でわかるように、希望とロマンチシズムと悲哀が交錯する、幻想的な一編。
光の栞
 ギリシア出張中に生まれた娘に、父は栞と名づけた。読みかけの本に挟む、あの栞だ。彼女は喉頭に異常があり、生まれつき声を失っていた。裕福な家庭に育った栞は、周囲の暖かいサポートもあり、素直に育った。結婚して二人の息子を授かったが、研究者としての仕事は続けた。ある日、息子の一人が語りかけた一言が、新しい挑戦の扉をあけた。「ママ、本が壊れちゃった」

 本を愛する者は多いが、あまりこういう世界は語られる機会がない。ある意味下世話で見逃されがちな世界ではあるが、今でも着実に進歩を重ねつつ、博物館などで古の技術を継承する試みもなされている。日本じゃアレステア・レナルズや京極夏彦とかが難問を突きつけ、現場では外国人労働者なしじゃ立ち行かなくなってたりする。まあ、このお話はもっと職人的なレベルの話で、大量生産の世界ではないけど。
希望
 10歳のとき、やっと本棚のグレアム・グリーン全集に手が届いた。最初に読んだのは第二十一巻の『神・人・悪魔』。「極めつけの悪はこの世に横行しているが、至高なる善は二度と現れることはない。人はただ運命の振り子によって、最後は神の裁きを成就することを信ずるだけだ」

 重い。ズッシリと、重い。質量や重力の正体という現代物理学の最先端の話題に加え、日本の科学研究政策の現状など生臭い話題、そしてエレガントさを求める科学の根本的な性質にまで切り込む。かと思えば科学や技術の変化が人の価値観にもたらす変化なんてSFの王道テーマまで盛り込み、もうおなか一杯。
解説/風野春樹

 こりゃ文句なしに重量級の作品集。最新の科学や技術の成果を存分に盛り込みつつ、人間の本質に迫る…といえばグレッグ・イーガンを思わせるが、語り口はむしろシオドア・スタージョンばりの繊細さ。どうしようもなくSFでありながら、同時に普遍的な文学の緻密さも備えている。語り口は平易でちゃんとストーリーがあるものの、読者に細心の注意を要求する。カルピスの原液をペットボトルで飲んだ、そんな気分だ。SFの枠を超え、小説として高く評価されて欲しい。

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2012年2月21日 (火)

サム・ウェラー「ブラッドベリ年代記」河出書房新社 中村融訳

「わたしをしあわせな気分にしてくれるのは、いまから二百年後、火星でわたしの本が読まれると知っていることだ。大気のない死んだ火星に、わたしの本は存在するだろう。そして深夜、懐中電灯を持った小さな男の子が、毛布をかぶって『火星年代記』を読むだろう」

【どんな本?】

 SF・ファンタジー・ホラーそして主流文学すべての分野の読者にこよなく愛される作家、レイ・ブラッドベリ。この偉大な作家の誕生から少年時代、著作に目覚めた青年時代から名声を得た今日まで、煌びやかな交友関係や数々の名作の創作秘話も交え、彼の熱烈なファンが綿密な取材と深い愛情を込めて綴る、レイ・ブラッドベリの半生記。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Bradbury Chronicles - The Life of Ray Bradbury, by Sam Weller, 2005。日本語版は2011年3月30日初版発行。ハードカバー縦二段組で本文約362頁。9ポイント25字×21行×2段×362頁=380,100字、400字詰め原稿用紙で約951枚。長編小説2冊分ぐらい。

 翻訳物の伝記としては読みやすい方だろう。50年以前のアメリカのポップ・カルチャーに詳しければ、更に楽しめる。

【構成は?】

 序文
過去のものを思い出す/善き魔女グリンダ/進化論/魔法使いの弟子/やあ、お帰り、世界へ/ニュー・フロンティア/ハリウッド万歳/跳び方を習う/フューチュリア・ファンタジア/パルプの英雄たち/パルプの詩人/メキシコ旅行/闇のカーニヴァル/愛と結婚/赤い惑星/刺青の男/太陽の黄金の林檎/華氏451度/白鯨/グリーン・タウンへ帰る/何かが道を/アメリカの旅/未来を思いだす/何かが道を、ふたたび/陰極線/去りゆく時
 謝辞/訳者あとがき/読書案内/ブラッドベリ作品名リスト/参考文献/原註/索引

 基本的に時系列で話は進む。巻末の「読書案内」は、邦訳作品を訳者がリストアップしたもの。短編が多く日本独自で編集された本も多いブラッドベリだけに、これはとても便利。

【感想は?】

 評価は簡単。面白さは、今まであなたが読んだブラッドベリの作品数に比例する。ただ、彼の作品に溢れる詩情は少なめで、その分、ヨーモアがたっぷり詰まってる。

 6歳まで哺乳瓶を放さなかった甘えっ子。SF作家のくせに62歳まで飛行機に乗れなかった飛行機恐怖症。ド近眼の兵役失格者。内気と自称しつつ、ここぞという時は押しの強さを発揮するちゃっかり屋。ハロウィン大好きなアイスクリーム中毒の甘党。ちやほやされるのが好きで、しゃべり出したら止まらない。そして何より、元祖オタクで90過ぎた今でも少年時代の憧れを卒業できない永遠の少年。

 まず、目を惹くのが各章の冒頭にある著名人のブラッドベリ評。勿論絶賛ばかりなんだが、メンバーが凄い。映画監督スティーヴン・スピルバーグ、宇宙飛行士バズ・オルドリン、アップル社創業者スティーヴ・ウォズニアク、作家アーシュラ・K・ル・グイン、アーサー・C・クラーク、ニール・ゲイマン、スティ-ヴン・キング、KISSのエース・フレイリー、プレイボーイ創刊者ヒュー・ヘフナー…。ゴージャスだよねえ。

 ブラッドベリの作品の基調をなすアメリカの田舎の空気、あれは少年時代に過ごしたイリノイ州ウォーキガンの風景。9歳の少年はこの頃、大きな試練を乗り越える。新聞に載っていた連載漫画「二十五世紀のパック・ロジャース」への愛情を「子供っぽい」と友人に笑われた彼は、大事なコレクションを廃棄し、その絶望と悲嘆が彼に大きな決意を促す。「愛と夢を捨ててはならない」。オタクとして開き直ったのである。それでもさすがに“女の子の本“《ナンシー・ドルー》を図書館で借りるの時は、こっそり借りたけど。

 図書館が彼の人生に与えた影響は大きく、ハイスクール卒業後も図書館に通い詰め、独学で学問を身につけている。2000年の全米図書賞授賞式でのスピーチは感動的だ。

 「図書館はわたしの人生の中心でした。わたしはカレッジへ行ったことがありません。ハイスクールを卒業したとき、図書館通いをはじめました。十年間、毎週三日か四日、図書館に通い、二十八のとき図書館を卒業しました」

 ユーモアもたっぷり。爆笑したのは、新婚時代のエピソード。当時は珍しい共働き。ある日、勤めから帰った奥さんのマギー、「レイを呼んだけど、返事がなかったの」。彼女が居間を通り抜け狭い寝室に入り、クローゼットのドアを開けると…ここは是非読んで欲しい、大声上げて笑ってもいい状態で。

 新婚時代のエピソードは創作秘話もてんこもり。「死ぬときはひとりぼっち」の主人公が使っていた公衆電話、あのアイディアはレイの実生活に基づくものだったそうで。それなりのキャリアはあっても懐は寂しいレイ、電話を引く余裕はないがプロっぽく振舞うため、通りの向かいのガソリン・スタンドの屋外公衆電話を使っていたとか。

 その「死ぬときはひとりぼっち」、三部作とは知らなかった。今は文芸春秋から「黄泉からの旅人」と「さよなら、コンスタンス」が出てる。

 作家を目指す若者へのアドバイスも気が利いてる。ブラッドベリはプロを目指し始めてから、毎週かならず一遍の短編を書き続けているそうな。「題名や小説の粗筋を思いついたら、物語の冒頭だけを書き、そのあとファイリング・キャビネットに放り込み、将来にそなえる」とかは、しがないブログ書きにも使える。一番気に入ったのが、これ。

 「その一、来る日も来る日も書くこと。その二、外へ出て、おなじような境遇の人々をさがすこと――いうなれば、特別あつらえの教会を見つけるわけだ」

 徴兵検査で味わうド近眼の悲哀も身に染みた。裸眼で視力検査を受けたレイ、「あの表を読んで」と言われて答える。「表が見えません」。いや本当、近視が酷いと、眼科検診で医者が使う指し棒も見えないんだよね。

 SFとの立ち位置はカート・ヴォネガットと似ていて、ダブルデイから「刺青の男」を出版する際にはタイトルからサイエンス・フィクションのロゴを外させている。SFってラベルがつくと、市場が限られてしまうから、と。この辺の事情は今も変わってないよなあ、悲しいことに。

 他にもスタインベックが「火星年代記」に与えた影響、華氏451度というタイトルにまつわる話、初めて飛行機に乗った時の爆笑エピソード、「白鯨」や「何かが道をやってくる」など映画関係のエピソード、短編集を編纂する際のクセ、赤狩りへの反発、初めてのSF大会、暗闇への恐怖、そして魔術師への憧れ…。彼のファンなら、たまらない話が盛りだくさん。

 どうでもいいけど、日本で出版されてる彼の作品、タイトルがやたらいいんだよね。「何かが道をやってくる」とか「二人がここにいる不思議」とか「十月はたそがれの国」とか「とうに夜半をすぎて」とか。やっぱり出版関係の人にもファンが多いんだろうなあ。

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2012年2月18日 (土)

小林泰三「天獄と地国」ハヤカワ文庫JA

 この世界は単純だった。
 カムロギが認識している世界の人的構成要素は三種類しかなかった。大地から資源をなんとか搾り取ろうとする村人、彼らを食い物にしようという空賊、そしてその食べ零しをなんとか拾い集めて食いつないでいるカムロギたちのような落穂拾いだ。

【どんな本?】

 SFとホラーを得意とする小林泰三による、一見ファンタジックでありながら、実は具体的な数字に至るまで科学的に練られた世界を舞台とする、長編冒険SF。SFマガジン編集部編「このSFが読みたい!2012年版」でもベストSF2011国内編10位にランクイン。遠未来の奇妙な世界を舞台に、超兵器を手に入れた貧しい者達が、伝説の楽園を目指す冒険の旅を描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 短編集「海を見る人」収録の短編「天獄と地国」を長編化し、SFマガジンに連載した作品に加筆・訂正したもの。SFマガジン掲載は2006年8月号・2008年11月号~2011年2月号。文庫本は2011年4月25日発行。縦一段組みで本文約425頁、9ポイント41字×18行×425頁=313,650字、400字詰め原稿用紙で約785枚。長編としてはやや長め。

 実は綿密な力学計算に基づくサイエンス・フィクションだが、心配ご無用。科学的な部分は、人工衛星が地面に落っこちない理由や、円筒型のスペース・コロニーが自転している理由がわかれば、充分に理解できる。

【どんな話?】

 天に大地があり、地には虚空が広がる世界。虚空に落ちた物は、永遠に落下していく。水はおろか空気すらないため、人々は徹底したリサイクルと節約で日々を凌いでいた。村人は天にしがみつき、僅かな地熱を頼りに定住生活を送るが、略奪目的の空賊に襲われればひとたまりもない。更に惨めなのが落穂拾いで、空賊の略奪後の火事場泥棒で食いつないでいた。

 落穂拾いのカムロギら四人は、幸運にも豊かな村の廃墟を発見し、潜り込む。水も空気もたっぷりあり、部屋も10個が生きている。真空被爆で死にかけたカムロギの療養を兼ね、とりあえず四人は一ヶ月ほど滞在を決め込むが、唯一の女性カリティは、コンピュータにしがみついて地国の伝説を漁っていた。かつて人は球形の世界に住み、重力で地面を踏みしめて歩いてた、という。

【感想は?】

 なんといっても、最大の魅力は、天と地が逆転した異様な世界観。天に地面があり、地は虚空。天から離れた物は、地に向かい限りなく落ちていく。「それじゃ空気が虚空に散逸しちゃうじゃん」と思われるだろうが、その通り。基本的に世界は真空。天の岩盤にしがみ付いた建物の中で、村人は暮らしている。

 なにせ虚空の世界だ。社会は貧しい。物質とエネルギーは貴重で、徹底したリサイクルが染み付いている。冒頭からして、カムロギたちの貧しさがひしひしと伝わってくる。

「ところで、『風呂』ってなんだ?」
「風呂ってのは、入って体を洗ったり、温まったりする湯のことだ」
「なんだか知らんが、豪勢な風習だな」

 などと貧しいわりに、宇宙船はあるし、宇宙服は着たきり雀で生きていけるほど高度なリサイクル機能を持っている。なんで着たきりなのかというと、船内を満たすほどの空気がないから。悲惨。

 つまりは、かつて高度な科学力を誇っていた者達の末裔が、この世界の登場人物たちである事をうかがわせる。まあ、その科学力も今は衰えているらしく、カムロギが不調な宇宙服を無理やり使う場面で、「結局人間そのものはあまし進歩してないなあ」などと変に関心しちゃったりする。やっぱりね。不調な機械は、とりあえず叩いてみるもんでしょ。

 貧しさの極地が、メンバーの一人ナタの生い立ちを語る一幕。いやねえ、いくらなんでも、とは思うけど、生まれた時からそうだと、ソレが普通だと思い込んじゃうのかなあ。この一幕の結末は、そうなるんだろうなあ、と判ってはいても、なかなかショッキング。

 などと徹底した貧しさの中でも、戦いがなくならないのが人類。この物語も、ほぼ全編が戦闘で構成されていると言っていい。特に中盤はスペースオペラや怪獣映画・ロボットアニメ好きにはたまらない展開。奇想天外なシロモノ同士が、智恵と秘密兵器を駆使して凄まじいバトルを繰り広げます。乞うご期待。

 そんなロボットアニメでは欠かせないのが、搭乗シーン。これがまた酷いというかなんというか。パイルダー・オンとか、普通はもっとカッコいいモンだろうに、なんだこれは。いやまあ、キチンと考証すればこうなっちゃうんだろうけど、こんな酷い搭乗シーンも滅多にあるまい。先に読んだ「約束の方舟」の、心地よさそうなシンクと好対照をなしてる…というか、出来れば比べたくない。こんなので爆笑してしまう自分が哀しい。設計者出て来い。

 爆笑シーンはまだまだ続く。なんで巨大ロボットが必殺技を使う際、いちいち決め台詞とポーズをつけるのか。あれには、重要な理由があるんだと、キッチリ教えてくれる。そうか、そうだったのか。

 やはり大笑いなのが、序盤から登場するウインナー村長老のサビタンの秘密。あれだけ大袈裟で感動的な物語を語っといて、これかよ。某田中の悪い影響でも受けたんだろうか。こんなので笑ってしまう自分が(以下略)。

 SFマガジン連載時には、とびとびに読んだんで、いまいちピンとこなかった世界だが、まとめて読むとクッキリと見えてくる。世界の謎については、こちらで詳しい計算をしている人がいる。ネタバレなので、未読の方は要注意。

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2012年2月16日 (木)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2012年版」早川書房

 携帯電話が出てくるような小説は文学ではない、なんてことが絶対起こり得ないとはいえなくて、わりとありうるんじゃないのかという気がしてるんですよ。  ――円城塔

 SFマガジン編集部が、2011年の日本のSF状況を総括するムック。というと堅苦しそうだが、最近のSF関連コンテンツの中でも面白そうなモノにスポットをあてた冊子だと思って結構。というか、私はブックガイドとして使ってます、はい。対象は2010年11月1日から2011年10月31日に出た作品。

 昨年に続き今年も国内編のトップ10は全部読んでなかった。トップは円城塔の「これはペンです」。芥川賞に続く栄誉だなあ。世間の注目度は全く違うけど。「各作品の獲得点数を見てみると、一位の点数は過去五年で最小、そして二十位の点数は同最高」の大混戦だとかで、なら「シンギュラリテイ・コンクェスト」が圏外なのも納得しよう。というか、その山口優を始め、私が知らない作家が沢山ランクインしてるのが面白い。もしかして、優れた若手SF作家が続々と登場してる日本SFの春なんだろうか。

 海外編はイーガンの「プランク・ダイヴ」とバチガルピの「ねじまき少女」が大接戦。こっちはバチガルピを除くとビッグネームが揃ってる。やっぱり「ダールグレン」は話題なんだなあ。気になるのがウィリアム・コッツウィンクル「ドクター・ラット」。「アクが強く読者を選び」とか言われると、つい挑戦したくなるじゃないか。

 芥川賞の受賞インタビュウでは常識人を装ってた円城塔、こちらのインタビュウ「変動するSFの立ち位置」ではかなり挑発的な発言を連発してる。なお、このインタビュウは芥川賞発表前日。文学界での自分の位置を「捨扶持をもらいながら、暮らしてる武家の三男坊」などと傍流を意識しつつ、「切り込み要員」と自分を表現している。鷹の団なら特攻隊長ガッツですか。なお、このインタビュウで今後の予定を聞かれ「まあ…ないですね」などと答えつつ、自ら註で伊藤計劃の「屍者の帝国」を引き継ぐ由を発表している。期待してまっせ。今年中に河出書房新社から出る予定。

 続く山岸真インタビュウでは、イーガンの言葉が印象的。大意だけど。

地動説が最初に提唱されたときに人々が感じただろうような驚きを、最新の科学の成果――時空や心の構造といった問題――を追及することで読者にあたえたい

 うんうん、そうなのよ、そーゆーのを期待してます。山田正紀の「想像できないことを想像する」にも通じる、SFの醍醐味なんだよなあ。

 もう一つ、これは「仙台文学館トークイベント採録」として瀬名秀明×巽孝之×小谷真理の対談「科学と文学の境界を越えて」。これで面白かったのがパラサイト・イヴ英訳の経緯。ゲーム版パラサイト・イヴにハマった理系の学生タイラン・グリロが、日本語を独学で学んで全訳し、出版社に持ち込んだそうな。ってことは、アニメ化されたライトノベルも、近く米国本土進攻が始まるかも。

 海外文学では相変わらずジョルジュ・ペレックを贔屓してる牧眞司。面白そうなのがM・バルガス=リョサの「チボの狂宴」。「独裁者トゥルヒーリョの暗殺というドミニカの史実に基づいた、空想的な要素のないリアリズム文学」「時間も視点も多元化する大胆な叙述テクニック」って、どういうんだろ。ラピエール&コリンズみたいな感じかしらん。

 近く新☆ハヤカワ・SF・シリーズから出るパオロ・バチガルピの「第六ポンプ」、SFマガジンで紹介済みの短編を集めたのかと思ったら、なんと「全十編のうち半分が新訳」。カロリーマンは衝撃的だったなあ。

 「SF出版各社2012年の刊行予定」では、久しぶりに菅浩江がJコレクションに登場。山本弘「輝きの七日間」も出るというから、連載は佳境に入ってるのか。神林長平の「敵は海賊」にも期待。国書刊行会が「出せる可能性の高い順から…」と弱気なのが可笑しい。眉村卓「引き潮の時」は東京創元社から出るそうな。何かあったのかしらん。

 21世紀SF必読書100では、「マルドゥック・スクランブル」の刊行秘話が衝撃的。当初のタイトルが「事件屋稼業」だった、というのも面白いが、複数の出版社に刊行を断られた、というのも意外。結果として最も相応しい出版社から出たんだから、まあいいじゃないですか。

 ところでSFアニメのベスト10、「魔乳秘剣帖」と「時計仕掛けの哀女神」がないのはおかしい(けっこう本気)。

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2012年2月15日 (水)

ライトノベルの定義ってなんだろう

 最近読んだ「約束の方舟」、とりあえずカテゴリは「SF/日本」にしたけど、もしかしたら「ライトノベル」でもよかったかな、などと思いつつ。

 ライトノベルって言葉は定着してるけど、その定義は明確じゃない。たぶん一般的な印象は、こんな所だろうか。

  1. アニメ/漫画っぽい表紙で、本文中にも多くの挿絵がある。
  2. 主な読者として10代~20代の若者を意識している。
  3. 主な登場人物は10代の少年少女だ。

 極論すれば「可愛い女の子(またはカッコいい男の子)さえ出てくれば何でもアリ」というフリーダムな世界で、それが幸いして笹本祐一や野尻抱介・菅浩江なんてSF作家が生き延びたわけで、それはそれで結構な話…アレ?「猫の地球儀」は…ま、いっか。

 それとは別の定義だと、「そういうレーベルから出ている作品」というのもあるけど、「じゃ十二国記はどうなの?」となる。あれ、ホワイトハート版と講談社文庫版が出てるから。でも、続きは出るのかしらん。

 私の分類はいい加減で、はっきり言って気分次第。挿絵もなければ主要登場人物はみな20歳を越えてる「図書館戦争」をライトノベル扱いしてる反面、実は萌えが一杯詰まってる「約束の方舟」や「シンギュラリティ・コンクェスト」を「SF/日本」としてる。SF分の濃い・薄いで区別してるわけでもなく、それなら「紫色のクオリア」がSF扱いでないのはおかしい。だいたい「歩行戦闘車両ダブルオー」には萌え要素皆無…ってわけでもないか。

 まあ、元々が、書籍を「分類」する、って所に無茶があるんだよね。例えば「地図を作った人びと」とかは、歴史の要素と科学の要素を併せ持ってる。これを「どっちか一つに決めろ」ってのが、無茶な話。

 とまれ、図書を分類する必要性というのは、確かにあるわけで。図書館に本を置くとき、どの書棚に置くか、という問題。こういう切実で現実的な需要がある以上、分類は必要になってくる。これは図書に限らず、CDなどでも言える話で、ジェフ・ベックやヤン・ハマーはロックの棚に、アル・ディメオラはジャズ・フュージョンの棚に置く、というお約束になっている。

 これが電子化が進むと、別の可能性が出てくる。例えば先の「地図を作った人びと」は、歴史と科学、両方の属性を持たせて、どちらからでも引けるようにすればいい。こういう時、電子化って便利だよなあ。プログラマっぽく言うと、「図書」クラスの「分類」変数は、スカラじゃなくリストにしましょう、みたいな。

 幸いココログだと、一つの記事が複数のカテゴリーに入れるんで、「地図を作った人びと」は「歴史/地理」と「科学/技術」の両方のカテゴリに入れた。この仕様はココログのヒットだと思う。

 こんな風に、今までは「分類」で、一つのモノは一つのカテゴリにしか入らない、と思ってたのが、実は「属性」として、一つのモノが複数の属性を持てるんだ、みたいな発想の転換は、アチコチで出てきそうな気がする。流石に性別は一つだろうと思ってたら、「男の娘」なんてのも登場してきたし←イヤそれ違う

 …ってんで今気がついたけど、「約束の方舟」、「SF/日本」と「ライトノベル」、両方のカテゴリに入れればよかったんじゃないか。面倒くさいから直さないけど←をい

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2012年2月14日 (火)

瀬尾つかさ「約束の方舟 上・下」ハヤカ文庫JA

 シンゴがテルに「結婚しよう!」といわれたのは十二歳の誕生日の朝だった。
 食堂からO7(オーセブン)に続く集合住宅街の道、そのど真ん中に立ちふさがった細身の少女は、人目も顧みず、大声で「結婚しよう、シンゴ!」と叫んだ。

【どんな本?】

 ライトノベルで活躍中の瀬尾つかさによる、長編本格SF。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2012年版」のベストSF2011でも国内編13位にランクイン。植民星を目指し航行中の多世代恒星間宇宙船内における、世代間の対立と、少年・少女の成長、そして共生を描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2011年7月25日発行。文庫本で上下巻、縦一段組みで上巻約390頁+下巻約413頁=約803頁。9ポイント41字×18行×(390頁+413頁)=592,614字、400字詰め原稿用紙で約1482枚。上下巻の長編としてはやや長め。

 ライトノベル出身らしく、文章は抜群の読みやすさでスラスラ読める。ただし、終盤の重要な部分は、読者が意識してじっくり読まないと美味しいところを見逃すので要注意。

【どんな話?】

 植民星タカマガハラⅡを目指し100年間の航行を続ける多世代恒星間宇宙船。15年前、船はゼリー型の生命体ベガーに襲われ多くの人が殺されたが、和睦を達成した。多くの区画と機能を失った船は、修復・管理・維持に必要な労働力と宇宙服が不足している。幸い子供たちはベガーと<シンク>して真空中でも活動できるため、労働力として駆り出されている。大人たちはベガーを憎むが、子供たちは相棒となるベガーに強い愛着を持ち、ベガーは両者の対立の焦点となっている。

 タカマガハラⅡへの到着を6年後に控えた日、12歳のシンゴは幼馴染のテルに求婚された。マイペースで行動力に溢れるが、突飛な発想でいきあたりばったりのテル。計画的で着実に事を運ぶシンゴは、いつのまにか危なっかしいテルのお守り役に収まっていた。確かに悲劇で多くの人口を失った船は早産・多産を奨励しているが、テルの本意はそうじゃないだろう。「これはいつものアレだな」と悟ったシンゴは、じっくりテルの話を聞くと…

【感想は?】

 いかにも人類が衰退しそうな表紙だから、「こりゃ軽くてファンタジックでユーモラスな物語だろう」などと甘く見てたら、ガツンとやられた。ハインラインの「宇宙の孤児」やアレクセイ・パンシンの「成長の儀式」に匹敵する、雄大で爽やかな物語だ。「これからSFも読んでみよう」などとお考えの若い人には、格好のお勧め。

 なんといっても、ヒロインのテルがいい。活発で行動的で快活、相棒のベガーであるウィルトトが大好きで、ウィルトトとのコンビネーションも船内ピカ一。問題は発想が常に人の斜め上な点で、これに爆発的なダッシュ力が伴うからたまらない。放置すれば何をしでかすかわからないため、重石が必要な要注意人物。

 そんなテルの相方は、冷静沈着で意図的に「いい子」を演じているシンゴ。いつの間にかテルのお守り役に収まってしまい、本人も「そんなもんか」と諦めている。物語は基本的にシンゴの視点で進む…というと、まるで涼宮ハルヒとキョンの関係だなあ。いえ憂鬱しか読んでないけど。

 もう一人のヒロインはスイレン。彼女は朝倉さんかな。ロングヘアー(きっと黒髪、そうに違いない、私が今決めた)で女子のリーダー格、成績優秀で級長を務める優良児…だが、意外な素顔も。うーん、むしろエヴァの真希波・マリ・イラストリアスかも。いや私の印象だけど。この人の書く女性って、一筋縄じゃいかないんだよなあ。

 この二人の女性陣に加え、男性陣の友人もちゃんといる。スポーツマンでリア充なダイスケ、小太りで頭脳明晰なケン。序盤はこの5人がテルの暴走に巻き込まれ、船内を冒険しながら、未知の世界を切り開いてゆく形で展開する。空間的にも、社会的にも。

 それに加え魅力的なのが、ベガー。ゼリー状の生物で、個体ごとに色が違う上に、個性もあるため、相方となる人間とも相性のよしあしがある。テルの相棒ウィルトトは、ベガーの中でも腕白で呆れられている。火薬に導火線のコンビだね。会話を通じた完全なコミュニケーションは出来ないが、相方とは以心伝心で伝え合える。ああ、私も相方のベガーが欲しい。

 ところが、背景は結構ヘビー。何せ15年前の事件がある。多くの人間がベガーに襲われ命を落としている。そのため、大人たちはベガーを忌み嫌う。まあ嫌い方は人それぞれで、徒党を組み組織的に動く者もいれば、表立って意思表明はしないものの、自分の子供がベガーと仲良くするのは快く思わない者もいる。

 長い航海で船体は疲弊している上に、15年前の事件もあり、船体はガタガタ。人口が激減したために労働力が不足し、ベガーと組めば真空中の作業が可能な子供たちにも労働が課せられる。そのため、船の修復・維持・管理にベガーは欠かせず、大人たちは苦い顔でベガーを容認せざるを得ない。

 などと複雑な情勢の中、目的地であるタカマガハラⅡへの到着を6年後に控え…

 ベガーを嫌う大人たちに、なんとかベガーを認めてもらいたい子供たち。だが、その対応方法は様々だ。着実に実績を積み重ね、ベガーとの共生の利益を実証しようとするシンゴ。余人には理解できぬ発想で一点突破を狙うテル。彼女の発想の出鱈目さには、なんというか、笑っちゃいます。

 などと軽い話では終わらず、中盤以降は15年前の謎も相まって本格的なドラマが展開する。導入部こそライトノベルっぽいくすぐったい展開だが、後半は良質なSFジュブナイルの味わいがてんこ盛り。終盤は怒涛の展開で伏線もキッチリ回収、そしてスケールの大きさを感じさせるエンディング。これぞ王道。

 敢えて文句をつければ、綺麗に終わっちゃってること。シリーズにしてもう少しスイレンと付き合いたかったなあ。ええ、勿論、ハルヒじゃ朝倉さんが一番好きです。

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2012年2月13日 (月)

曽我誉旨生「時刻表世界史 時代を読み解く陸海空143路線」社会評論社

 鉄道紀行作家として有名な故・宮脇俊三氏の代表作ひとつである『時刻表昭和史』にも言えることですが、本来は実用本位の“モノ”でありながら、一方でその裏に様々な人間のドラマが隠れた不思議な存在――それが「時刻表」なのです。

【どんな本?】

 趣味として時刻表を収集してきた著者が、時代にして20世紀初頭から中盤まで、地理的にはロシア・欧州・中近東・南北アメリカそして東南アジアと極東まで、乗り物としては陸上輸送の王者鉄道はもちろんバス・船・航空路まで、あらゆる時刻表・運賃表・パンフレットなどを披露しつつ、多彩なエピソードで背景にある20世紀の歴史や各国家の思惑などを解説する。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年9月25日初版第1刷発行。ソフトカバー横二段組で本文約472頁。8ポイント22字×42行×2段×472頁=872,256字、400字詰め原稿用紙で約2181枚。単純計算ではそこらの長編小説4冊分ぐらいの大容量だが、地図・写真・サンプルなどが豊富に載っているため、正味の文章量は6~7割ほど。

 定職を持ちつつ雑誌などにも寄稿する半プロの人だが、文章はこなれていて親しみやすく読みやすい。また、3~6頁程度の独立した記事を集めた構成なので、気になる所だけを拾い読みしてもいい。ただ、読み通すには案外と時間がかかる。というのも、じっくり味わうには地図や Google Map を参照しながら読む羽目になるからだ。まして個々の時刻表にまで見入ってしまうと、キリがない。

【構成は?】

 世界時刻表カラー・ギャラリー
 まえがき
第一章 欧亜連絡とロシア 旅は極寒の凍土を越えて
第二章 ヨーロッパ 破壊の暗闇から“対立と絆の時代”の夜明けへ
第三章 中近東・アフリカ 民族の闘いに翻弄され続けた現代のキャラバン
第四章 新大陸へ 地球を小さくするものが世界を征する
第五章 太平洋 希望と涙が渡った遥かなる架け橋
第六章 東南アジアとその周辺 植民地からの脱出は勝利なき戦いの幕開けだった
第七章 中国と台湾 流転する四千年の空と大地をゆく
第八章 朝鮮半島 三千里を駆ける鉄馬の誕生と飛翔
第九章 満州の時代 プロパガンダと緊張の狭間に咲いた幻の名優たち
第十章 日本 都市と地方・なつかしき「昨日」
 主要参考文献・ウェブサイト/あとがき

 地理的に十章に分かれている。また、各章は(原則として)更に3~6頁の独立した記事からなっていて、気になった部分だけを拾い読みしてもいい。また、記事や章の合間に、1~4頁のコラムが入って飽きさせない工夫をしている。

【感想は?】

 余人には理解できない趣味を極めたら、誰もが楽しめるモノが出来てしまった、そんな感じ。

 時刻表を見てると楽しい、という気分は、確かによくわかるのだが、だからといって古本屋を回って古い時刻表を集める人は滅多にいない。この人の場合、時刻表から路線図はもちろん、搭乗券やご当地の写真まで関係あるものをひたすら集めている。日本だけならともかく、欧州は勿論アフリカにまで手を広げているのだから恐れ入る。ちなみに収集方法は「企業秘密」だそうだ。

 この人の場合、単に集めるだけでなく、その周辺事情をバッチリ調べ上げた上で、時刻表の背後にある物語を描き出し、それが本書の大きな魅力となっている。

 例えば第一章はヨーロッパとロシアだが、なぜか最初の記事は1915年の東京~敦賀港。え?と思うだろうが、ココが著者の工夫。当時のインフラで日本から欧州に行くにはどうするか、という物語で展開していく。この後、ウラジオストク~ハルピン~満州里、満州里~モスクワ~ベルリンへと続いていく。そう、シベリア鉄道で洋行するわけだ。所要時間は2週間。それでも船だと40日かかった、というから、シベリア鉄道の効果は大きい。ここでいきなり面白いエピソードを紹介してる。

1900年にパリ万博が開催されたとき、ワゴン・リはあるパビリオンを出展してシベリア横断鉄道を宣伝した。それは「シベリア横断鉄道パノラマ館」。入場者は食事をとりながら列車の車窓を移動していく「沿線風景が描かれた絵」を観てモスクワ~北京間の旅を約45分で追体験できるという、今日のシミュレーションの先駆けともいえる出し物だった。

 20世紀初頭の「電車でGO!」かい。
 陸路の乗り物としては鉄道が中心だが、庶民の足はバス。長距離バスのグレイハウンドはもちろん、上海のローカルバスにまで触れている。ネタは1960年の「上海市公共交通手冊」、上海のバス・市電・トロリーバス・渡船の案内冊子で、なんと130頁もある。充実してるなあ。

 陸路の乗り物として凄いのが、台湾の台車。そう、荷物を運ぶのに使う、あの台車。あれの四隅に取っ手をつけ、レールの上を走らせ、山道を走る。動力は、なんと人力。と言っても乗る人が漕ぐわけではなく、四隅の取っ手を人足がして進める。人力車の山岳鉄道版。豪快というか無茶というか。

 かつては栄華を誇った船便。中でも盲点なのが、川を行く船。日本は流れが速い川が多いためか現代は河川の水運は振るわないが、欧州や中国では発達している。例えばライン川では1960年から200人乗りの定期観光船を就航している。隅田川の水上バスなんてチャチなもんじゃない。上り6日/下り4日間の優雅な旅。また、意外と大型河川が多いのがロシア。地図を見ると大きな運河も発達してるんだよね。

 変わったところではドーバー海峡を結んでいたホバークラフト。「SRN4“マウントバッテン”型ホバークラフトは、全長40メートル・幅24メートルの巨体を4個のプロペラで駆動し、250人の乗客と30台の乗用車を載せて時速120キロで航行する」というから凄い。今は双胴型高速フェリーがある上にトンネルも開通したんで引退しちゃったけど。

 日本でもホバークラフトっぽいのがあって、それは1925年に熊野川を走っていた「飛行艇」というか「プロペラ船」。川が浅いんでスクリューが使えない、じゃ空中でプロペラを動かそう、って発想。ところが騒音が酷く、ウォータージェット船に変わられてしまう。

 時勢を反映してるのが、航空路。どこからどうやって手に入れたのか、1943年の東京~ラバウルをつなぐ「臨時陸軍軍用定期航空発着時刻表」なんてのも紹介している。資料上部には「極秘」の文字。当時は日本が支配してたんだよなあ。

 やはり時勢をしみじみ感じるのが、「ベイルート経由 vs テルアヴィヴ経由」。BOAC(英国海外航空)1966年のロンドン→ボンベイの時刻表から、国際情勢を見る。ベイルート経由だと4時間55分、テルアヴィヴ経由は6時間5分。この差は何かというと、イスラエル経由の便はヨルダンやサウジアラビア上空の飛行が許されず、トルコ上空を迂回しなきゃいけなかった。こういう話は随所に出てきて、アパルトヘイトでハブられた南アフリカがえらい苦労してた。

 80年代に日本から欧州に行く際、北周りは速いけど欧州系の高運賃、南回りは時間がかかるけどアジア系の低運賃ってのが相場だったけど、今はどうなんだろ?

 なんてのもあれば、飛行艇が定期運行してた路線もあったり、派手なのだとアポロ17号のミッション・スケジュールが載ってたり。

 二次大戦前はオリエント・エキスプレスが走ってて、ベルリンからイスタンブール・バグダッドを経由してテヘランまで鉄道で行けたんだよなあ。今は寸断されちゃってるけど。釜山からダブリンまで鉄道で旅行できる日は来るんだろうか。

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2012年2月 8日 (水)

ポール・メルコ「天空のリング」ハヤカワ文庫SF 金子浩訳

 ぼくは力担当だ。
 ぼくは賢くない。賢いのはモイラだ。ぼくはメダみたいに話が上手じゃない。クアントみたいに数学が得意じゃないし、マニュエルみたいに手をうまく動かせない。

【どんな本?】

 デビュー長編が対象のローカス賞第一長編部門受賞作。アメリカの新人SF作家ポール・メルコによる、未来の地球を舞台に、シンギュラリティに取り残された人々の異様な社会を、その中で成長する5人の青年の視点で描く冒険SF長編。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Singularity's Ring, by Paul Melko, 2008。日本語版は2010年8月15日発行。文庫本縦一段組で本文約495頁。9ポイント41字×18行×495頁=365,310字、400字詰め原稿用紙で約914枚。長編としては長い方。

 文章そのものは翻訳SFとしちゃ標準的なレベルなんだが、風景描写がやや読みにくいかも。最近のSFの例に漏れず、軌道エレベーターなどのSF的な仕掛けはあまり細かく説明しないので、拘る人には辛いかもしれない。意味が判らなければ、ライトノベルを読む要領で、「よくわからんが、そーゆーもん」ぐらいに流すが吉。ただ、「シンギュラリティ」の概念は本筋に絡んでるんで、一応は頭に入れておこう(→Wikipedia)。

【どんな話?】

 アポロは5人のポッド(小群)だ。筋力と体力に優れるストロム、道徳を司るモイラ、他の人との交渉担当のメダ、直感的に力学と数学を理解するクアント、手足が器用でメカや道具を上手に操るマニュアル。ポッドはフェロモンで情報を交換し、感情と意思を共有する。

 かつて、多くの人類とAIは融合して<共同体>を結成したが、ある日、大半の共同体参加者が死亡する事件が起きた。遺物として赤道の軌道上にある「リング」、そして地表とリングを結ぶ軌道エレベーターがあるが、残された人々は利用できない。

 残った者の中で、秩序を維持したのは、当時少数派だったポッドだ。若いポッドの一つ、アポロは、<裂け目>の向うに向かう宇宙船<コンセンサス>のクルー選抜試験を受けるため、ロッキー山脈で生存試験を受ける。ところが、最初の夜にライバルのポッドのメンバーの一人がパニックを起こして遭難しかかり…

【感想は?】

 珍しく先月はSFを読まなかったんで、SF分補給のために選んだ作品だが、これが大当たり。眩暈するほどのセンス・オブ・ワンダーを味わえた。

 やっぱり、中心となるポッドのアイデアがいい。物語は、冒険の主人公であるアポロの各メンバーの一人称で語られる。それぞれが独立した人格と特徴のある性格を持ちながらも、記憶や視覚をフェロモンで共有する、という絶妙の設定に目が回る。ベルナール・ウェルベルの「」同様に、コミュニケーションの方法によって深さや思考が異なるのも面白い。

 気は優しくて力持ちなストロム君、強力なリーダーシップを発揮するモイラ嬢、数学と物理に秀でながら細部に囚われがちなクアント嬢、感情豊かで突っ走りがちなメダ嬢、すばしっこくて器用なマニュアル君。それぞれの視点がリレー形式で物語が進むが、中でも最も可愛いのがストロム君。いやそういう趣味はないけど、とにかく性格が可愛い。単なる脳筋じゃなく、実は細やかな精神の持ち主なのが序盤で明らかになる。

 幼い頃からポッドとして<共感>してきたメンバーだけに、イザという時は阿吽の呼吸で行動できる…反面、何かの事情でフェロモンの交換が出来なかったり、メンバーが欠けると、途端におバカになってしまうのも可愛いところ。単に思考能力が落ちるだけでなく、感情的にも不安定になっちゃう。こういう深いつながりが、羨ましいような怖いような。危機を切り抜けたストロム君の独白が泣かせる。

ぼくはまた強くなったんだ、とぼくは思う。ぼくはほかのみんなより強いんじゃなく、ぼくたち全員が強いんだ。

 物語は、彼らが冒険の旅をしながら、シンギュラリティ後の人類社会の様子や、彼ら自身の誕生の秘密を探る、という形で進んでいく。ここで見えてくる社会の様子も、なかなかグロテスクで気持ちいい。幼い頃、学級で教師が「はい、5人組を作って」なんて指示を出すけど、余るでしょ、何人か。その余りがどうなるか、というと…。他にも、最初からポッドに入らない人たちもいるし。

 著者は原子核工学エンジニアおよびIT系の職歴があるだけに、科学系の描写もバッチリ。前半では軌道上のシーンもあって、かつてニーヴンが「スモーク・リング」で描いたような、放物線と双曲線の力学の世界が味わえる。軌道エレベーター建設の描写も嬉しいところ。やっぱり問題はケーブルの素材なんだよなあ。

 異質なものとのコミュニケーションも、この作品の魅力。今の時代の人間は地図で位置を認識するけど、立場が違えば地図の認識も違ってくる。私にとって大きな川は障害物だけど、船乗りにとっては重要な道。幼い頃に「宝物の地図」を作って遊んだ経験のある人は、あの辺の描写でゾクゾクするだろう。

 ポッドの異様な感覚、シンギュラリティに取り残されながらも逞しく生きる人々、孤立した研究所でイカれた研究を続けるマッド・サイエンティスト、しつこく迫る刺客、そしてシンギュラリティの秘密。デビュー作品とは思えぬほどの仕掛けたっぷりな冒険物語でありました。

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2012年2月 6日 (月)

テリー・クラウディ「スパイの歴史」東洋書林 日暮雅道訳

 現存する防諜活動についての最古の記録は、ラムセス二世時代の古代エジプトとヒッタイトとのあいだのカデシュの戦い(前1274頃)にまでさかのぼる。間諜の主な任務は情報収集だったが、しばしば、相手を欺くため意図的に情報をばらまいた。ヒッタイトのムワタリ王(在位:前1295~前1272)は、自軍がまだ遠くだとファラオに思い込ませるため、エジプト軍の野営地に脱走兵を装った間諜を送り込んだ。

【どんな本?】

 ラムセス二世や聖書・孫子など古代から、イギリスの有名なスパイ・マスターであるサー・フランシス・ウォルシンガム、高名な女スパイのマタ・ハリ、真珠湾攻撃前のハワイにおける日本の精緻な偵察活動、GRUからKGBに続くロシア・ソ連の諜報機関の歴史、そして現代では勇名を馳せるモサドなど、様々なスパイの育成や活動などを紹介すると共に、暗号や暗殺器具などスパイが使う小道具や、情報を伝達するテクニックも豊富なエピソードで伝える。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Enemy Within, Terry Crowdy, 2006。日本語版は2010年10月31日第1刷発行。ハードカバー縦一段組みで本文約430頁。9ポイント46字×19行×430頁=375,820字、400字詰め原稿用紙で約940枚。小説なら長編2つに少し足りない程度。

 正直言って、ちと読みにくい。文章が云々というより、テーマがテーマだけに、内容がややこしいのだ。「本当は○○なのに欺瞞のため××と言った」とか、二重スパイとか、本名とは別にコードネームがあったり、偽名を使ったり。

【構成は?】

 はじめに
第1章 古代
第2章 暗黒時代
第3章 スパイせよ、ブリタニア
第4章 理性の時代における諜報活動
第5章 革命万歳
第6章 ナポレオンの「秘密の部分」
第7章 影の戦争
第8章 秘密情報のゴッドファーザー
第9章 スパイ・フィーヴァー
第10章 東洋の危機
第11章 二重スパイと無線ゲーム
第12章 アメリカの動向を探る枢軸国スパイ
第13章 ソヴィエト時代のスパイたち
第14章 先の見えない戦い
 訳者あとがき/索引/原註/参考文献

 基本的に古代から現代に向け時系列順に話は進むが、例えばGRU→KGBの歴史など特定テーマを扱う部分では多少前後する。

【感想は?】

 よくもまあ、これだけ調べ上げたなあ、という感じ。

 大昔から情報戦の概念はあったようで、孫子じゃ既に間諜を5種類に分けている。1)郷間:その郷人 2)内間:官人、不満や借金で靡く役人、二重スパイになりかねない 3)死間:敵に捉えさせて偽の情報を与える 4)生間:敵地から生きて戻った間諜 5)反間:二重スパイ。

 暗号も昔からあったようで、その解読法も研究されている。800年ごろのイラクの科学者アブ・ユースフ・アル・キンディは頻度分布を知ってた、というから凄い。頻度分布って、例えば英語だと、アルファベット26文字中、"e" が一番多く出てくるわけ。単純なシーザー暗号ROT13は、これでバレちゃう。

 チンギス・ハーンのモンゴル軍団も商人を装った密偵が活躍してて、「物を売りながら、モンゴル軍団が使える牧草地や現地守備隊の兵力、地域の情報をこつこつと集めていた」。人種が違うから目立つって?大丈夫。ヴェネツィアと秘密協定を結び、情報の見返りに保護、つか中国との独占交易権を与えたから。さすがベニスの商人はあざとい。

 忍者の話も出てるけど、「黒装束はねーだろ」と現実的。「実際は各地を巡り歩いても疑いを持たれない、旅回りの人々に身をやつすというような手段を使ったことだろう」。

 スパイマスター(諜報活動のリーダー)として有名なのが16世紀イギリスでエリザベス女王に仕えたサー・フランシス・ウォルシンガム(1530頃~1590)、国内の敵対勢力の監視もスパイの仕事ってわけで、最初の監視目標はカトリック教会とその手先のスコットランド女王メアリ、そして彼らが差し向ける暗殺者。彼の功績はもう一つ、フランシス・ドレイクのカディス港焼き討ちが載ってる。なんと、スペイン艦隊の大提督サンタクルス候の秘書を抱きこみ、「このフランドル人は、イングランド侵攻に必要な船舶や人員、備品の完全な目録を手に入れた」。

 暗号表の起源はナポレオンの好敵手、ウェリントンかな。

イベリア半島にいたとき、ウェリントンはスコヴェルにイギリス軍独自の暗号をつくるように頼んでいる。(略)彼(スコヴィル)は送り手と受け手のどちらも、同じ辞書を持つという手法を使った。暗号が示すのは辞書内の正確な位置で、たとえば46B6は46頁のB段落6行を意味する。

 軍は機密保持を重んじるけど、困るのはマスコミ。これは電信が導入されたクリミア戦争から頭の痛い問題で、ロシア皇帝曰く「密偵の必要などない。タイムズがある」。

 南北戦争で北軍側について活躍したクレイジー・ベスことエリザベス・ヴァン・ルー(1818~1900)は、人権派の天使のような人。北部出身でバージニア州リッチモンドに住む彼女、父親の死亡後に家の奴隷を解放する。南北戦争中は捕虜脱出組織を運営し、疑われると狂気を装う。諜報網の中心は、彼女の家の元奴隷のメアリ・エリザベス・バウザー。

 戦争の初期、ヴァン・ルーは南部連合大統領ジェファソン・デイヴィスの家での召使いの仕事にバウザーをつかせた。黒人女性の召使いであるバウザーは客たちから無視され、疑われることもない。彼女は注意深く会話を盗み聞き、仕事中にジェファソンの机にある書類を読んだ。

 連絡係もやはり彼女の家の元奴隷の老人で、「黒人の彼はやはり奴隷として見られえるため、花を運ぶという口実で怪しまれることなく行き来することができた」。残念ながら隣人たちはヴァン・ルーを快く思わなかったようで、「それから35年間、裏切り者と軽蔑され、社会ののけ者として生きたのだった」。

 ビスマルクに仕えたヴィルヘルム・シュティーベル(1818~1892)も目の付け所がいい。フランスに諜報網を作る一環として、「ドイツが最も格式の高い国際的ホテルを所有するようにした」。当然、客は各国の賓客だから、従業員に化けた諜報員は大活躍。

 第二次大戦でドイツが使ったエニグマ暗号装置の話も出てる。5個の歯車から三つを選んで装置にセットする。一文字打つごとに第一の歯車が一つ動き、26文字入れると二つ目の歯車が一つ動く。1文字ごとに異なる暗号表を使い、暗号表は全部で1億5千9百万個あるわけ。贅沢な暗号だ。ドイツじゃもうひとつ、海軍提督のカナリスがユダヤ人救出の秘密作戦を支援してたってのは意外。

 太平洋側では日本も頑張って諜報活動してて、訓令の中には「アメリカの政治力、経済力および軍事力を把握せよ」なんてのもあるんだけど、この情報は活かされなかったみたいだなあ。ハワイのオアフ島じゃ立花止(いたる)海軍少佐が綿密な偵察で優れた功績を挙げてるんだけど。航空機の数こそ過大に見積もってたけど、空母の不在は連合艦隊に伝わっていたそうな。

 GPU→KGBの歴史も怖い。1943年、OGPUはNKVD(内務人民委員部)となりゲンリヒ・ヤーゴダがトップに就く。大粛清後、ヤーゴダは解任されニコライ・エジョフが後任になり、ヤーゴダは1938年に銃殺。1938年ラブレンチ・ベリヤがトップに立ち、ヤーゴダは逮捕され、「その最後はベリヤに殺されたらしいこと以外ははっきりしない」。がスターリンが死にフルシチョフが立つとベリヤは逮捕され「1953年12月23日、ベリヤは死刑を宣告され、側近たちと共に銃殺された」。

 「戦闘報告は将軍たちが書くんでセコく見られる密偵は無視されがち、だからクラウゼッツとかは諜報を軽視してる」とかの愚痴も散見して、なかなか歯ごたえのある本でありました。

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2012年2月 1日 (水)

SFマガジン2012年3月号

 ところが、あるとき、頭がおかしくなった人間が出て、にもかかわらずそれがその男の身に起こりうる最良の場合だったことがあった。その男の名はジェフ・ハルバート。彼の話をさせてもらおう。  ――アレン・M・スティール「火星の皇帝」

 280頁の標準サイズ。今月は2011年度英米SF受賞作特集として、ジェフリー・A・ランディス、アレン・M・スティール、ブラッド・R・トージャーセン、レイチェル・スワースキーの短編を収録。また、ヒューゴー賞,ネビュラ賞,ローカス賞のほかブラム・ストーカー賞,世界幻想文学大賞など各賞の受賞作を発表。

 長編部門はコニー・ウイリスの「BlackOut/All Clear」が総なめ。「ドゥームズデイ・ブック」のシリーズ。短編ではテッド・チャンの「ソフトウェア・オブジェクトのライフ・サイクル」が強い。フィリップ・K・ディック賞の特別賞を伊藤計劃の「ハーモニー」が受賞してるのが嬉しい。なお巻頭で「SFマガジン読者賞」も発表。こちらはテッド・チャンの「ソフトウェア・オブジェクトのライフ・サイクル」と飛浩隆の「零號琴」がトップ。

 ジェフリー・A・ランディス「雲海のスルタン」は未来の金星が舞台。火星環境の研究家リア・ハマカワ博士は、金星を支配する大富豪カルロス・フェルナンドから招待され、金星に赴く。厚い大気に包まれた金星では、その濃い大気を利用した一万を越える浮遊都市が栄えていた。面識のないリアを招待したカルロスの目論みは…
 濃密な大気を利用した浮遊都市のビジョンが圧巻。地表は高圧で灼熱地獄の金星だけど、高空なら確かに住みやすそうだわ。軽量で丈夫な素材の開発が必須だけど。

 アレン・M・スティール「火星の皇帝」は、開発途上の火星が舞台。火星での雑役の仕事は、軌道の関係で3年間は現地に縛り付けられる反面、稼ぎもいい。ジェフ・ハルバートは、賃金に惹かれ火星に来た一人だった。そんなジェフに、不幸なニュースが届いた。彼は次第に狂気に蝕まれ…
 こりゃ古参のSF者なら涙すること請け合い。バロウズ,ブラッドベリ、アシモフ,ヴォクトなど懐かしい名前が機関銃のごとく飛び出してくる…ばかりでなく、エンディングが泣かせる。私的には今月号で最大の収穫。

 ブラッド・R・トージャーセン「アウトバウンド」は、いきなり地球滅亡で始まる。太陽系への植民が始まったころ、地球は人類自らの愚行で「炎上」した。11歳のミレックと4歳のイレンカの兄妹は、地球を脱出する宇宙船にギリギリで乗り込む。宇宙船は木星軌道のコロニーを目指すが、過程には全自動軍事衛星が待ち構えている…
 単なるパニック物だと思っていたら、家族の絆や信仰の問題まで絡んでくる、王道でストレートなお話。

 レイチェル・スワースキー「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女」、今回は前編のみ。魔術が存在する世界を舞台にした、本格的ファンタジー。女王イレネーに仕える魔術師ネイヴァは、小人の男アイアンと共に侵略者の偵察に出た。敵の陣を発見し、その全景を女王に魔法で伝えようとするネイヴァの胸に激痛が走り…
 召還される者の一人称、というのも珍しい。いや「ゼロの使い魔」は読んでないけど。ファンタジーには歯が立たないと思ってたけど、これはわかる、わかるぞー。大きなスケールを感じさせる場面転換の所で(次号へつづく)。ああ、次号が待ち遠しい。

 前号はパニック・シーンで終わっていた瀬尾つかさ「ウェイプスウィード」、今月は完結編。なんとか脱出は果たしたものの、今度はヨルが「次はわたしが乗る」などといいだす。まさか少女を一人で送り出すわけにもいかず、ケンガセンは二人で調査に赴くが…
 ウェイプスウィードの正体のみに限らず、他の伏線もキッチリ回収して綺麗に終わっている。濃いわー。これ、長編でもいけるんじゃないかなあ。

 新刊情報は野尻抱介「南極点のピアピア動画」が驚き。パンツ飛ばしてるだけじゃなかったのね。ローカス・ベストセラー・リストはヴァーナー・ヴィンジの The Children of the Sky に喝采。ペーパーバックは相変わらずマーティンが占領してる。T・J・バス逝去はちょっとショック。「神鯨」の三葉虫、可愛かったなあ。

 巽孝之「大西部の夕日――第69回世界SF大会リノヴェーション」では、日本SF作品の英訳が増えた理由が面白い。「アメリカ人英訳翻訳家で使える人材が出てきたのは、ほんとうにここ十年のことであり、それにはやはりマンガやアニメの影響が大きかった」とか。

 山本弘「輝きの七日間」は、意図的に書評を避けてる。この展開だと、ネタバレを避けて紹介するの難しいのよ。ってことで、今後もなるたけ触れないつもり。ちゃんと読んでますってば。

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