「G・ガモフ コレクション 2 太陽と月と地球と」白揚社 白井俊明・市井三郎訳 その1
…単独のものはすべての星の約三分の一にすぎず、残りの三分の二は連星または三重連星、ときには四重連星として存在している。これはアメリカ合衆国の男女の約5分の一が独身なのとよく似ているといえよう。
【どんな本?】
ロシアに生まれアメリカで活躍した20世紀の理論物理学者、ジョージ・ガモフ(→Wikipedia)による、一般向け科学啓蒙書シリーズの一冊。教科書ほど無味乾燥ではないが、アイザック・アシモフやスティーヴン・ジェイ・グールドの科学エッセイよりは科学的に突っ込んだ話が出てくるのが特徴。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
この本は日本独自に編集されたもので、元は白揚社刊「ガモフ全集」(全16巻)中、以下三冊の合本。
- A Star Called The Sun, 1964 / 第11巻「続・太陽の誕生と死」白井俊明訳
- The Moon, 1959 / 第9巻「月」市井三郎訳
- A Planet Called Earth, 1963 / 第3巻「地球の伝説」白井俊明訳
日本語版は1991年11月20日第一版第一刷発行。ハードカバー縦二段組で、それぞれ本文約147頁・約85頁・約191頁の計423頁に加え、解説「ガモフ以後の太陽・月・地球」桜井邦朋15頁がつく。8.5ポイント28字×22行×2段×(147+85+191)=521,136字、400字詰め原稿用紙で約1303枚。そこらの長編小説なら2冊ちょいの分量だが、図版や写真も多く掲載しているので、実際の文字量はその8~9割。
上で「教科書と科学エッセイの中間ぐらい」と評したが、読みやすさもそんな感じ。科学エッセイよりは覚悟が必要。要所で数式・化学式も少し出てくるが、読み飛ばしても大きな問題はない。というか、私は読み飛ばした。すんません。読み飛ばす覚悟があれば、中学卒業程度の理科・数学の素養でなんとか読み下せる…って、自分の理科と数学の素養を告白してるようなもんだな。
数式は指数・対数が分かれば充分で、微分方程式や行列式は出てこない。ただしグラフは対数メモリのグラフが多いので、その程度は覚悟しよう。
【構成は?】
Ⅰ 太陽という名の星
第1章 どのくらい遠く、どのくらい大きく、どのくらい熱いか?
第2章 原子とそのスペクトル
第3章 渦まく太陽の表面
第4章 高温の星の内部
第5章 原子核とそのエネルギー
第6章 太陽の仲間
第7章 星が死ぬとき
Ⅱ 月
第1章 月を運ぶ人、チャンドラセカール
第2章 月とリンゴとニュートン
第3章 月の誕生
第4章 月理学
第5章 月への投射体=一つの夢
第6章 月ロケット=一つの現実
Ⅲ 地球という惑星
第1章 地球誕生す
第2章 忠実な月
第3章 惑星の家族
第4章 足下の地獄
第5章 地球表面の形
第6章 気象と気候
第7章 頭上の地獄
第8章 生命の本質と起源
第9章 生命の進化
第10章 地球の将来
解説:ガモフ以後の太陽と月と地球…桜井邦朋
【感想は?】
アシモフのエッセイやブルーバックスのつもりで読み始めたら、痛い目を見た。存外と本格的な本だ。そこらの科学解説書なら、「太陽の表面温度は6千度ですよ」で終わるところを、この本は、それをどうやって計測し、どうやって計算し、なぜ6千度で、6千度だとどういう状態になっているか…と、どんどん深く細かい所まで突っ込んでいく。
お陰で、三角測量からメンデレーエフの周期表、そして量子力学の基礎までおさらいする羽目になった。なんだって太陽の表面温度を知るのに量子力学が必要なのかというと、話せば長いことながら…と誤魔化しておこう。
いや最終的には核反応なんだけど。なぜ核反応が起きるのか、なぜエネルギーが出るのか、どの程度のエネルギーがどんな形で出るのか、を知るには、原子の性質が重要な意味を担ってるわけで、となると量子力学が必要になる、というのが、この本を読むと否応無しに納得できるようになっている。
原書の出版が50年代から60年代と古いため、最新の科学の成果こそ盛り込まれていないが、現代科学の基礎を再確認するには格好の一冊だろう。
ということで、内容の詳細は次の記事に続く。
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