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2012年1月 8日 (日)

中村武久・中須賀常雄「マングローブ入門 海に生える緑の森」めこん

 マングローブ林は熱帯や亜熱帯の沿岸地域に、根元が海水に浸かって繁っている森林である。その姿や生態は、われわれが普段見ている陸の森林とはかなり違っている。

【どんな本?】

 熱帯の海岸の風景としてお馴染みになったマングローブ。普通の木や草は塩水を嫌うが、なぜか海水に浸かる地域に根を張り繁殖する不思議な樹木だ。マングローブの研究者が、マングローブの生態や種類、そしてマングローブが現在おかれている状況と、その保護と育成に必要な事柄を語る。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 1998年4月16日初版第一刷発行。発行は「株式会社めこん」だが、企画は「財団法人オイスカ」となっている。NGOオイスカの広報用書籍と見ていいだろう。ハードカバー縦一段組みで本文約220頁、9ポイント45字×19行×220頁=188,100字、400字詰め原稿用紙で約471枚。写真や図版も多数掲載しているので、正味の文字量は2~3割少ない。小説なら標準的な長編の分量。

 研究者の書いた本だが、文章は意外と親しみやすかった。

【構成は?】

はじめに
第一章 マングローブ入門
第二章 マングローブと人間のかかわり
第三章 地球環境とマングローブ
第四章 未来へ残そうマングローブ
第五章 世界のマングローブ植物
おわりに

 第五章はマングローブ植物の図鑑。枝や花・果実のイラストが載っている。のはいいが、贅沢を言えば樹木の全体像も入れて欲しかった。

【感想は?】

 マングローブそのものの生物学的な側面は控えめで、「人間とのかかわり」が多くを占める。構成でわかるように、植物学・生物学的なのは第一章と第五章で、第二章・第三章・第四章はマングローブの利用・環境との関係・マングローブの育成・保護の実態と注意点に充てられている。

 しかも、「なぜ海水中でも育つのか」「なぜ根が地上に出ているのか」などの疑問には、「よくわからない」と書いている。正直で誠実ではあるが、ちと残念。それでも、種によっては塩分を濾過しているのは事実らしく…

ほぼ塩分3%の海水で育っているオオバヒルギの導管から吸収水を引き出して、塩分計で計ったところ1%以下であった。またその胎生種子をすりつぶして内部の塩分を計ったところ、そこは1.4%から1.8%と、淡水よりはるかに濃度が高かった。

 海岸近辺に育つ植物だが、別に塩分が必須というわけでもなく、著者は実際に温室で「8種のマングローブ植物を栽培している」。オヒルギは花をつけ実もなるようになったとか。
 この実が独特で、胎生種子という奇妙なシロモノになる。

花は種子が出来る前に、直接根のもとになる担根体というものをつくり、母樹についたまま若木にまで成長させてしまう。まるで卵を生んで子孫を増やす魚類や鳥類などと、おなかの中で育て、出産する哺乳類の違いのようである。

 根も独特で、うねうねと地表を広く這うだけでなく、所々垂直ににょっきり筍や膝のような呼吸根が生える。だもんで、樹の周囲は無数のナイフが突き刺さっているように見える。こりゃ観察も大変だろうなあ。変なのは見た目だけでなく、光合成までしている、というから驚き。

 そのマングローブの利用、タイでは炭が多くて、「南部や半島部で使用される炭のほとんどはマングローブ炭」。「かたくて重く、火力が強く長持ちするので今日でも重宝がられている」。また、防災林としての意味もあり、「バングラデシュはサイクロンの常襲地で(略)1991年のサイクロンの被害は甚大で(略)マングローブ(ヒルギダマシ)のある地域はない所に比べて人命や家屋の被害が少ない」。

 だけでなく、豊かな生態系としての役割も大きい。

各生態系の1haあたりの年間平均生産量は、熱帯雨林で20トン、日本の森林である温帯常緑林で13トン、農耕地で6.5トン、湿原で25トン、一方、海洋では外洋が1.3トン、大陸棚で3.6トン、海藻群落・サンゴ礁で20トン、河口で18トン、マングローブ域で25トンと、マングローブ域の生産力は湿地と並んで高くなっている(吉良竜夫調べ、1976年)。

 ちなみに「生産力」とは「学問的に言うと、単位時間につくられる、水分を抜いた乾物量のことである」。バイオマスの事かな?河口とか湿地とか、海と陸の境目が豊かなのね。四大文明が大河のほとりで生まれたのも、このためかしらん。
 環境に関心が高まったのはいいが、意外と観光もマングローブ林に負荷をかけるようで、西表島では…

観光客の増加により、高速・大型で馬力の強いボートが、大きな波を蹴立てて何度も疾走するようになってきた。そのため、土砂の堆積で出来た河岸は容易に侵食され、その上に育成していたオヒルギやヤエヤマヒルギは、根元を洗われて倒れたり枯れたりしている。

 こういうフィーバー的な環境保護熱に著者は批判的な模様で、「植林よりその後の手入れが大変なんだよ」とか「所構わず植林せず、地元の人にちゃんと話を聞こうよ」などと苦言を呈している。

 進化的には海岸で進化したのではなく、内陸から次第に海に進出したのではないか、などの考察も交え、謎が解けるどころか、読めば読むほどますます謎が増えてしまう本であった。

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