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2012年1月18日 (水)

エレナ・ジョリー聞き書き「カラシニコフ自伝 世界一有名な銃を創った男」朝日新書 山本知子訳

 要するに「AK」は、私とカーチャの最初の愛の結晶なのだ……

【どんな本?】

 正規軍からテロリストまで世界中で使われ、その数は一億丁とまで言われる傑作自動小銃、AK(Avtomat Kalachnikova)ことカラシニコフ。そのAKを産み出した技術者ミハイル・カラシニコフにフランス人ジャーナリストがインタビューし、その生涯を綴るとともに、彼が生き抜いた20世紀のソ連とロシアの社会背景を明らかにしてゆく。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は MA VIE EN RAFALES ; Mikhaïl Kalachnikov,  Elèna Joly, 2003。日本語版は2008年4月30日第1刷発行。新書で縦一段組み本文約238頁。9ポイント42字×16行×238頁=159,936字、400字詰め原稿用紙で約400枚。小説なら軽めの長編の分量。「星々の蝶」を訳した人だから読みやすかろう、と思ったら期待通りやっぱり読みやすかった。

【構成は?】

 地図/凡例
 はじめに――恐怖と栄光の日々
第一章 隠された悲劇
第二章 一介の兵士から銃器設計者へ
第三章 AKの誕生
第四章 唯一の銃器
第五章 ソ連・ロシアの指導者たち
第六章 祖国と外国
第七章 雑記
 訳者あとがき/カラシニコフ略歴

 基本的に少年期から現在まで時系列に話は進むが、テーマごとに章わけしているため、多少前後する。各章の冒頭で、当時のソ連/ロシアの社会状況を開設してくれるのはありがたい。自伝なのに著者がいるのは、カラシニコフ氏にエレナ・ジョリーがインタビューし、それをエレナがテーマごとに整理して成立した本のため。アレックス・ヘイリー著「マルコムX自伝」と同じ手法だね。

【感想は?】

 カラシニコフ老自身は、ありがちな仕事中毒のエンジニアという印象。83歳になった今でも朝の5時に起きて週に4日働いてる、と誇らしげに語るあたり、「勤労は美徳」という日本人と同じ道徳観の持ち主らしい。根っから機械いじりが好きらしく、自宅の芝刈り機を設計し、モグラ捕り器も作ってる。

 というのも、ヴイクトル(息子さん)が私の誕生日にとても高価なモグラ捕り器をプレゼントしてくれたのだが、これがずいぶんと使い勝手の悪い代物だったのだ。ロシア人がドイツ人からモグラ捕り器を輸入するのはけしからんと思い、性能がずっとよい罠を自ら発案したのだ。特許を取るよう勧められもしたが、「カラシニコフのモグラ捕り器」なんてピンとこないだろう?だからこの提案を断り、この装置は貴重な一点物となった。

 特許はともかく商標登録すればブランド効果で抜群の売れ行きだと思うんだけど。上の引用でわかるように、結構気さくでユーモアに溢れた人であり、また先の戦争の影響でドイツには拘りを持っている。まあ、仕方ないやね。従軍したのは38年、戦車の操縦士兼整備兵。古参兵に睨まれ彼をモデルにした漫画コンクールまで開催される。それに、なんと彼自身が作品を寄せて好評を博し、上官に気に入られる。ユーモアのセンスがある人なんだなあ。

 幼い頃に一家揃ってシベリア送りになるが、二度の脱走を企てる、元々手先が器用だったのか、二度目の脱走では友人と組んで通行証の偽造までしてる。自分たちの分だけでなく、ちゃっかり人の分も作って売りさばき、旅費の足しにするしたたかさも。智恵に加え行動力もあるんだなあ。

 このシベリア脱走は当時のソ連じゃ彼の弱点となり、以後は自分なりに「公け」の経歴をデtッチあげている。AKの仕事を評価されソビエト連邦最高会議の代議員となってからも、クレムリンの門をくぐる際、衛兵に脱走の件を咎められる恐れを抱きビクビクしていた、というから笑うべきか悲しむべきか。

 肝心のAK、製造が容易で構造が単純、使いやすく頑丈で信頼性抜群なだけでなく、小さい部品があっちゃいけない。整備の際に見落としかねないからだ。これは盲点。ちなみに弾薬は「7.62ミリの口径の方が優れていると確信している」。

 脱走でわかるように結構図太い神経も持っているようで、突撃銃をコンペに出す際、実は審査用件に違反してるのを承知で出してる。「銃身の長さを500ミリから420ミリに変えた」。が、それがバレたのは優秀な成績が実証された後だったため、警告だけで済んだそうな。

 彼が銃設計の道を決意した環境が面白い。前線で負傷して入院した病院の図書室にはウラジミール・グリゴリエヴィッチ・フョードロフの「火器の変遷」があった上に、戦車兵・砲兵・歩兵・工兵などあらゆる兵科の将兵がいた。自分の身でニーズを痛感した状態で優れた教科書と現場のユーザに囲まれりゃエンジニア魂に火がつく。早速、短機関銃の設計に熱中したとか。

 ソビエト社会の奇妙さも本書の魅力。コンペは「設計者の名前に影響されずに、審査委員会が客観的な判断を下すため 」偽名で行う。意外と効率的な部分もあるのね。

 笑っちゃうのが、1972年に初めてアメリカの武器史家エドワード・エゼルからはがきで取材の打診を受けたとき。仰天した彼はKGBに赴き判断を仰ぐ。ところが「党(共産党)に聞け」と言われ、党に出向くと「KGBに聞け」と言われる。典型的なたらい回し。「そのKGBから来たんだよ」と文句を言うと党曰く「暫く様子を見よう」。ってんで放置してたら、一年後に外務省から返事の催促が来たそうな。結局、インタビューが実現したのは17年後というから、エゼルの執念も凄い。

 エゼルの招待でアメリカに渡った彼はユージン・ストーナーやビル・ルガー、ウジール・ガルなど他の高名な銃の設計者と出会い意気投合する。「ストーナーは自家用飛行機やヘリを持ってるけど勲章は一個も貰ってない、私はカラシニコフで1コペイカも儲けてないけど勲章は沢山貰った、ストーナーは私の勲章をしげしげと見てたよ」と誇らしげ。

 農民出身のためか医者嫌いで、医者にかからず腎結石を排出し、「英雄称号を二度も授けられたる者、肉体の不調も己の力で克服しなければならないのだ」なんてくだりは爆笑物。

 最後に、技術者としての信条を吐露する彼の言葉で終えよう。

「技術とはすべて改良することができるし、また改良されなければならない。よい結果を得るためには、つねに明確で具体的な目標を設定しなければならないのだ」
「発明家がまったく新しいものを発案することはもはや不可能だと思っている。発明品とは既存の要素をベースにして初めて得られるものだからだ」
「真の発明家は、決して探求の道で立ち止まることはない。どんな場面においてもつねに考えているものである」
「改良するという行為には、終わりがない」

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