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2012年1月 4日 (水)

デイヴィッド・ハルバースタム「ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争 下」文藝春秋 山田耕介・山田侑平訳

老兵は死なず。ただ消え行くのみ。

【どんな本?】

 「ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争 下」から続く。

 上巻は開戦前夜から北朝鮮軍の快進撃、釜山で国連軍が持ちこたえて仁川での大逆転、そして無謀な北進へと続く。下巻は中国軍の集結・参戦と国連軍の壊走で始まり、リッジウェイ登場で反撃開始、マッカーサーとトルーマンの対決を経て、朝鮮戦争後の米国政界の動きと、ベトナムへの道を軽くおさらいして終わる。

【感想は?】

 下巻の前半は、中国の人民解放軍が無敵の強さを発揮する。姿を見せずに移動し、いつのまにか米軍を包囲し、突然大軍で攻撃してくる。武装こそせいぜい機関銃と迫撃砲と貧弱なものの、神出鬼没の機動力は怖い。ただしコレにはタネがあって。

かれらが多用したのは主力部隊を背後のよく準備された陣地に待機させてから、国府軍を正面攻撃すると見せかけ、おびえて退却する同軍部隊に情け容赦ないはげしい銃砲撃を浴びせることだった。

 要は待ち伏せ。見つからずに移動できたのは、主に夜間に移動したのに加え、「白いアノラックを着ていて、たまに米軍機が上空に飛んでくると、腹ばいになって動かない」から。他にも木を体にくくりつけて並木を偽装したり、賢さは相当なもの。

 大軍を潜ませる中国に対し、マッカーサーはひたすら北進を命じる。北に行くほど山岳地帯が多く幅も広がる朝鮮半島、各隊の間隔は広がり部隊は細切れになる。素人の私でも戦場地図を見ればマッカーサーの作戦の稚拙さがよくわかる。

 長津湖近辺の海兵隊は、連隊~中隊ごとに島のように人民解放軍の中に埋まっている。隊ごとの連携が効かず、歩兵は長距離砲の支援を得られず、砲兵部隊は歩兵の護衛を受けられない。道は山間の一本道で、補給もままらなない、どころか街道の両側じゃ人民解放軍が待ち伏せしてるって寸法で、敗走するにも工夫がいる。

道路は米軍部隊に身近な存在で、身近なものは安心感を与えてくれた。(略)何人かの兵士が隊を離れて道路に向かって行ったが、すぐさま中国軍の銃撃にあった。(略)楽そうに見える道路の誘惑に抗しながら尾根を進み、ついに生還することができた。

 道なき山間部を隠れて動かにゃならんわけです。精神的にも体力的にもこれはキツい。
 第二師団が敗走する中、知恵を見せたのが第23連隊のポール・フリーマン連隊長。

フリーマンは砲兵将校と一緒に過ごす時間が多かった。(略)それには十分な理由があった。他の通信形態が全部だめになっているときでも、砲兵隊には最高の通信手段が確保されていたからである。砲兵隊にはそれが不可欠だった。さもなければ味方の部隊を砲撃する危険がある。そのためかれらは独自の偵察機を持っており、戦場からの報告も的確だった。

 10日間で200km近く敗走したマッカーサーは、中国本土への空襲を要求しはじめる。たまりかねた米国政府はマッカーサーに変え、マシュー・リッジウェイを送り込む。中国軍の戦術を調べたリッジウェイ、根本的に戦術を変更する。空挺部隊出身らしく、「補給路を断たれてもその場に留まる」方針だ。

「戦車で水原に行ってくれ」とリッジウェイはいった。
「分かりました。向うへ行くのは簡単です。戻ってくるのはもっと難しいでしょう。相手[中国軍]はいつでも後ろから道を塞いでしまいますから」
「だれが戻ってくるなどと言った?向うで24時間持ちこたえれば、こちらから一個師団送る。その師団が24時間持ってくれれば、今度は軍団を送る」

 戦略的に土地(面)を支配しようとしたマッカーサーに対し、リッジウェイは戦術的に陣地を確保して、人民解放軍を殺す方針に切り替えたわけ。補給?空輸すればいい。対する人民解放軍の補給は、重大な弱点だった。

12月にかれの手元にあった補給用のトラックは300台ほどだった。(略)中国側の兵站支援の大半はトラックではなく、運搬人足によって行われた。(略)38度線に近づくにつれて、飢餓水準をわずかに上回る食料で満足しなければならなかった。

 結果、いくつかの欠点が明らかになる。

中国軍は二日間、あるいはせいぜい三日間は強烈に戦うことができた。しかし、弾薬、食料、医療支援、そして純然たる肉体的持久力の限界――それに巨大な米空軍力――のために、有効な条件や局面突破があっても有効に活用できず、挫折や敗北が増幅されることだった。

 戦闘開始から三日間持ちこたえれば勝てる、というわけ。他にも指揮系統が硬直してるため、行軍中に空襲を受けても行動を変えられず、バタバタと倒される、なんて場面もある。こういう対地攻撃では、一撃離脱のジェット機より、滞空時間のながいプロペラ機の方が効果的だったとか。

 マッカーサーの解任、リッジウェイの反撃の後、戦線は膠着状態にもつれ込む。中国は戦術を改良し、トンネル網を作って国連軍の砲撃と空襲をかわす。長距離砲も山の裏側の洞窟に隠し、撃つ時に引き出し、すぐに穴の中に隠れる。後にこのトンネル戦術はベトナムでより効果的に使われる…どころか、今でもガザで似た手法を使ってるねえ。

 国際情勢ではソ連に加え中国が大国としての一歩を歩み始めた事を世界に示し、毛沢東が狂王の片鱗を見せた戦争であり、戦略・戦術的には現在でもアフガニスタンなどで使われている「毛沢東の戦略」が明確な姿を現した朝鮮戦争。そういえばアフガニスタンは地形的にも山がちで朝鮮半島に似てるよなあ、でもタリバンの戦術は一撃離脱(または自爆)で朝鮮半島より洗練されてるよなあ、などと考えると、暗い気分にあるから止めよう。

 最後は現代の明るい側面を一つ。朝鮮で戦った将兵たち、米国では「忘れられた戦争」として冷遇されてきたけど、インターネットが彼らの役に立っているそうな。

 そこで彼らが共有したのはこの大きな絆だった。互いに語り合うことができて、そこにいたものならつねに理解してくれる絆だった。彼らは電話と手紙で連絡を保ち、晩年には魔法のようなインターネットを使うようになった。それは歳月の経過で行方が分からなくなっていた古い戦友を探し出す素晴らしい手段だった。

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