梶尾真治「ムーンライト・ラブコール」光文社文庫
映画好き同士ということで加塩は清太郎に好意を持っていたのだろう。この男は卒業後、実家の熊本に帰り家業を継ぐことになる。同名で下手なSFを書く作家がいるが、まさかこの加塩が文章を書くような奴には見えないから多分別人だろうと清太郎は思っていた。 ――1967空間
【どんな本?】
「黄泉がえり」でブレイクしたベテランSF作家、梶尾真治。長編ばかりが注目される昨今だが、SF者は知っている。彼が短編の名手であり、甘いロマンス物から抱腹絶倒のドタバタ・ギャグまで、広い芸幅を誇っていることを。やや懐かしい雰囲気の親しみやすい短編を、過去の作品集から集めた短編アンソロジー。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2007年4月20日初版第1刷発行。文庫本縦一段組で292頁+尾之上浩司による22頁のカジシン作品ガイドつき。8.5ポイント41字×17行×292頁=203,524字、400字詰め原稿用紙で約509枚。標準的な長編の分量。ベテラン作家だけあって、文章の読みやすさは抜群でスイスイ読めるけど、涙腺の弱い人は電車の中で読まないように。
【収録作は?】
- ムーンライト・ラブコール
- ヨーコ・Kのおばあちゃんは、重力生理学の研究者だ。おばあちゃんとおじいちゃんは、大ロマンスの末に結ばれたらしい。大学生の頃は、二人とも学業熱心な分、色恋沙汰には奥手だった。なかなか進まぬ二人が結ばれるには、長い時間が必要で…
日ごろおとなしい人間を追い詰めると、往々にしてとんでもない真似をやらかすもんで。ある意味マッド・サイエンティスト物なのかな。パーティー券は誰かの陰謀じゃないかと思うんだが、あなた、どう思いますか。 - アニヴァーサリィ
- 長い間連れ添った老夫婦の仙太とまり江。だがまり江は病で倒れ、仙太は看病に専念していた。クリスマス・イヴは二人の結婚記念日であり、仙太はこの日を大事にしていた。だが、この年、仙太には用事ができてしまった。
これぞカジシンの真骨頂。最後の一行が泣かせる泣かせる。 - ヴェールマンの末裔たち
- 行き詰った中年男三人、鉄工所の資金繰りが苦しい栄ちゃん、特殊撮影のプロダクションをクビになったしっちゃん、婿養子に行った先の舅に叩き出された研究者のガリビーは、小学校の同窓会で、かつてのマドンナ美紀ちゃんと再会する。
追い詰められヤケクソになったオッサン三人組が、「この際だからデッカイ事をやろう」とロクでもない事を企むお話。とはいえ行き詰るような連中だから…。 - 夢の閃光・刹那の夏
- ワイン合成公社に勤め、2年後に定年を控えた竜介。彼には、定年後の予定があった。一人で惑星ベグ・ハー・パードンへ赴き、なすべき事があるのだ。だが、思わぬ事態が持ち上がる。ベグ・ハー・パードンの母星ルイテン892が膨張を始め、ベグ・ハー・パードンの全居住者は脱出する事になった。
- ファース・オブ・フローズン・ピクルス
- 惑星<フローズン・ピクルス>は、採掘惑星だ。住んでいるのは5人だけ。祖父、父、母、妹、そしてぼく。ぼくと妹は、ここで生まれ、育ったため、ここ以外の世界を知らない。ある時、父は宇宙船で二ヶ月かかる<ポーカーフェイス・ボギー>に買出しに行った。「お前の嫁を探して連れてきてやる」と言って。
舞台こそ未来だけど、お話の雰囲気は懐かしの西部の馬鹿話。何かの映画を下敷きにしてると思うんだが… - メモリアル・スター
- 惑星<メモリアル・スター>は、殺伐とした殺風景な星だ。有名なものは二つ、凶暴で知られるリッ蜂と、「泥場」。泥場を訪れる観光客が増えるに従い、リッ蜂は駆除され、すでに絶滅したと言われている。だが私の目的は、観光ではない。
- ローラ・スコイネルの怪物 ――B級怪獣映画ファンたちへ
- 1981年、飛行中のボーイング727が高度八千メートルで空中分解し、たった一人の少女、ローラ・スコイネルだけが生き残った。彼女への取材に成功したわしが引き出したのは、奇妙な言葉だった。「ブロッコミリーのせいです。私が、ロサンゼルスの大学に行くことを知って追っかけてきたんです」
サブタイトルでだいたいの流れが分かると思う。やっぱり怪獣映画には可憐な女性が不可欠だよねえ。 - 1967空間
- 大学時代は映研に入り映画にのめり込んでいた清太郎だが、最近はめっきり見なくなった。妻の代志子も近頃は嫌味ばかり。なんとなく学生時代に通いつめたスナック「ヤング・ラスカル」を訪れた清太郎は…
カジシン、やりたい放題。加塩でやっと仕掛けがわかった。後で袋叩きにされたんじゃなかろかw - 解説:尾之上浩司
- 解説といいつつ、中身は梶尾真治の読書ガイド。やっぱりクロノス・ジョウンターは人気あるんだなあ。
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