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2011年12月22日 (木)

ドューガル・ディクソン&ジョン・アダムス「フューチャー・イズ・ワイルド」ダイヤモンド社 松井孝典監修 土屋昌子訳

 すべての大陸が集まって一つの大きな超大陸になっている世界。本書は、そこに現れる8トンもの巨大イカが地上をのし歩く様子を描いている。また、カンガルーのように跳ぶカタツムリ、森の中をチョウのように飛ぶ魚、4枚の翼をもった鳥も登場する。

【どんな本?】

 地球の気候は常に変動している。周期的に氷河期が来るし、大陸の移動は密林を砂漠に変え海底を山脈に押し上げる。現在、判っている変動要因から、500万年後・1億年後・2億年後の地球の気候を科学的に推測し、そこに住むであろう生物の姿と生態を、豊富なイラスト(CG)を交えて紹介する。

 科学・生物学ファンのみならず、珍獣・UMA・怪獣を愛する人も図鑑のように眺めて楽しめる、ちょっと変わった科学啓蒙書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は the FUTURE is WILD, A Future Is Wild Book, by Dougal Dixion & John Adams, 2003。日本語版は副題に「驚異の進化を遂げた2億年後の生命世界」とあり、2004年1月8日第1刷発行。私が読んだのは同年1月28日の第2刷。ハードカバー縦一段組みで本文約264頁。9ポイント42字×18行×264頁=199,584字、400字詰め原稿用紙で約499枚、小説なら一般的な長編の分量だが、イラストや図版を多数収録しているので、正味の文字量は400枚分ぐらい。

 同著者の前作「アフターマン」に比べると、だいぶ文章はこなれてきた感がある。が、それより、本書の魅力は奇妙奇天烈な生物のイラストなので、そっちをじっくり楽しもう。同じモデルを使いまわしてたりするのは、まあご愛嬌ってことで。

【構成は?】

 序文
 刊行によせて――第一線の科学者たちが描く地球の未来
第一章 進化する地球
 生きている地球
 生命のサイクル
第二章 500万年後の世界
 氷河時代
 北ヨーロッパ平原
 地中海盆地
 アマゾン平原
 北アメリカ砂漠
 一つの時代の終焉
第三章 1億年後の世界
 温室の地球
 大浅海地
 ベンガル沼地
 南極森林地
 グレートプラトー
 大量絶滅
第四章 2億年後の世界
 第二パンゲア
 中央砂漠
 地球海
 レインシャドー砂漠
 北部森林地
    事項索引/地名索引/動植物名索引

【感想は?】

 前の「アフターマン」は哺乳類が中心だったので珍獣図鑑的な雰囲気があった。今度は鳥類・魚類・昆虫類、そして環状生物が大活躍。われわれ人類とは徹底的に異なるデザインの生物が中心なため、もはや珍獣というより怪獣・怪生物図鑑といった趣がある。水上・水中生物を多く紹介しているのも生物デザインの幅を広げている。

 シナリオとしては、間もなく氷河期が来て人類は絶滅、500万年後は寒冷化した地球でげっ歯類が繁栄する。その後、次第に温暖化して海面が上昇、1億年後は浅い海で海洋生物が大繁殖する。が、火山活動が活発化して大絶滅が発生。2億年後にはすべての大陸がくっついて第二パンゲアとなり、中央は砂漠になる、という筋書き。

 500万年後の寒冷化した世界は全般的にモノトーンで、正直イマイチ迫力に欠ける。面白いのは「身長2メートル超の飛べない猛禽カラキラー」。走る姿のイラストがあるんだが、逞しい後足と短い前足で前傾姿勢は、まるきし肉食恐竜。二足で走る肉食動物としては、洗練されたデザインだんだろうなあ。

 1億年後の温暖化した世界は、海洋生物が楽しい。アザラシほどの大きさになったウミウシの子孫リーフグラーダー、海から這い出したタコのスワンパスもいいが、やはり異様さが際立つのはオーシャンファントム。見た目は帆つきの筏というか平べったいクラゲというか。しかも体内に「戦闘機」を隠し持つ「空母」みたいな生態。

 こういうのを見ると、人間の想像力ってなんだろうなあ、などと考えてしまう。科学という厳しい制約を基に考えた生物が、純粋な想像より遥かに異様なんだもんなあ。

 もうひとつ、この世界で活躍しているのが昆虫。30cm超のハチとか、おっかねえ。なんで大型化するのか、というか、なんで今は大型化しないか、というと、理由は二つ。1)外骨格を支えるには多くの筋肉が必要 2)肺がないので酸素を体の奥に運べない。ところが温暖化で酸素濃度が上がったんで、大型化できた、という理屈。

 2億年後は海水の酸性度が増して硬骨魚が死に絶えるが、一部は空中に活路を見出す。軟骨魚のサメは案外と既にデザインが完成してるらしく、2億年後も今とあまり変わらないのが興味ぶかい。

 そして、陸上の王者となるのが、なんとイカ。身長8メートル超だが太い8本の脚でノシノシ歩く。変温動物なために燃費が良く、「同じサイズの恒温動物、例えば、現代のアフリカゾウが一日に必要とする食事量の10分の1ぐらいで十分だ」。哺乳類ってのは、燃費が悪いんですな。

 他にも体内に藻を共生させてるガーデンワーム、運搬アリ以外は脚が退化したテラバイツ、巨大カメのトラトンなど奇妙奇天烈な生き物がいっぱい。

 逆に「おお、カッコいい!」と思ったのが、グレートブルーウインドライナー。「4枚の翼をもつ鳥」と紹介してる。上から見たイラストが載ってるんだが、これ、尾翼の大きい最近の戦闘機っぽいシルエットだったりする。

 哺乳類が中心の「アフターマン」に比べ、生デザインの幅が大きく広がり、生物としての親近感は減ったものの、異様さは大きくグレードアップしている。スティーヴン・ジェイグールドの「ワンダフル・ライフ」が好きな人にはお勧めの一冊。

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