外交・軍事的対立の三段階 その2
今読んでるのが、草森紳一の「中国文化大革命の大宣伝」。A5版で上巻592頁・下巻600頁の大ボリュームな上に、読み進めるのがシンドイ。どうシンドイかは追って書評に書くとして、このペースだと今週中に読了できるかどうか怪しい。
さて、昔「外交・軍事的対立の三段階」なんて記事を書いた。今読むと気取りまくりで自分でも何が言いたいのかよくわからない記事だったりするが、それはさておき。「もう一つは民主主義国家は強大な軍事力を持てるって点なんだけど、それはまたの機会に」とか言って放置してたんで、続きを。
「民主主義国家は強大な軍事力を持てる」って、わざと難しく言ってるみたいな言い回しだなあ。普通に「民主主義国家の軍は強い」って言えばいいのに。まあいい、その理由を三つ挙げよう。
- 全軍事力を外敵に集中できる。
- 大規模な軍事行動に慣れている。
- 前線部隊が現場の裁量で動ける。
では、それぞれ詳細を述べよう。
- 1.全軍事力を外敵に集中できる
日本が徳川と島津に分かれ、互いに武装しているとする。戦力は徳川6・島津4で、合計10。そこに黒船が押し寄せてきた。黒船の戦力は3とする。とりあえず徳川が黒船に対応するけど、島津が徳川の背中を狙ってるんで、島津を牽制する戦力も残さないといけない。とすると、徳川の全戦力6から、島津と同程度の4を差し引いて、残りの戦力2で黒船に対応する羽目になる。
日本の全戦力は10あるのに、外敵に差し向けられるのは2だけ。効率悪いよね。実際、今のパレスチナとかは、こういう状況だったりする。ハマスとファタハが独自に武装して、互いに争ってる。第一次中東戦争後、粛清も辞さず迅速に軍の組織を整えたイスラエルとは見事な対照。
これが民主主義国家だと、統一した軍が政府の指揮下に入るんで、持つ全戦力を外敵に差し向けられる。まあ、現実には外敵が一つじゃないんで、本当に全部ってわけにはいかないけど、内部対立がある場合に比べれば、遥かに効率がいい。
- 2.大規模な軍事行動に慣れている
というか、むしろ逆に、「独裁的・専制的な政権下の軍は、大規模な軍事行動に慣れていない」が適切。一般的に専制的な体制の統治者は、軍の反乱を恐れる。だから、旅団や師団規模の演習は滅多にやらない。だもんで、参謀本部や将兵も大規模な軍事行動に慣れず、補給などで支障をきたす。第一次~第四次中東戦争での、エジプト軍が好例。
また、指揮系統も硬直していて、陸軍と空軍の共同作戦ができない。イラン・イラク戦争でのイラク軍がいい例で、空軍が偵察で得た索敵情報が、なかなか隣にいる陸軍部隊に届かなかった。イラク軍の情報の流れが制限されていて、空軍が得た情報はいったんバクダットを通して陸軍に流れる組織になっていたため。
ま、いずれも、「権力者が軍の反乱を恐れた」ゆえの結果なんだけどね。民主主義国家なら、せいぜい失脚で済むけど、独裁国家じゃ命が危ないからねえ。
- 3.前線部隊が現場の裁量で動ける
イスラエル軍がエジプト軍を評して曰く「彼らが築陣している時、正面からの攻撃には粘り強く戦うが、側面や背後に回り込まれると一気に崩れる」。予想外の事態が起きたとき、各自が自分で判断して動けないんですな。
どんな国でも軍は規律を重んじるけど、同時に適度な権限の委任もある。首都の将軍は、前線の指揮官に部隊指揮の権限を委ねるわけ。ところが、専制国家で下手にコレをやると、前線の指揮官が反乱を起こしかねない。だもんで、全般的に権限を委任せず、細かいところまでイチイチ口を出す。前線の指揮官が命令がないのに部隊を動かすと、粛清されかねない。
こういう体質は上から下に伝染するもんで、独裁者は将軍に委任しないし、将軍は大佐に委任せず、大佐は大尉に委任せず…ってな感じで、小隊長は勝手に持ち場を離れると中隊長にドヤされる。だもんで、側面から攻撃を受けると、動くに動けないわけ。「自分で考えて行動するのに慣れてない」ってのもあるけど、組織的な体質の問題もあったりする。
…なんだけど、ここでも「あれ?ロシアと中国は?」と突っ込まれると苦しいんだよなあ。中国は地方が軍閥化してるって噂もあって、最近海軍に力を入れてるのはそのせいかな、とか思ったりするんだけど(一般に海軍は反乱を起こしにくい;ロシア革命の反例もあるけどね)、ロシアはその辺も巧くやってるっぽいし。逆にアメリカは州が武装してるし、ねえ。
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