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2011年11月12日 (土)

飴村行「粘膜人間」角川ホラー文庫

 「雷太を殺そう」
 村の中学校からの帰り道、農道の途中にある弁天神社の前で兄の利一が言った。

【どんな本?】

 瀬名秀明や貴志祐介を輩出した日本ホラー小説大賞の、第15回(2008年)長編賞受賞作「粘膜人間の見る夢」を改稿したスプラッタ・ホラー長編。戦前・戦中の日本の田舎を思わせる世界を舞台に、肉欲と衝動に突き動かされ、野卑かつエネルギッシュに暴れまわる者たちを描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年10月25日初版発行。文庫本で縦一段組み、本文約242頁+池上冬樹の解説6頁+選評5頁(荒俣宏・高橋克彦・林真理子)。8.5ポイント40字×16行×242頁=154,880字、400字詰め原稿用紙で約388頁。長編小説としては短め。文章には独特のクセがあり、拙さも感じるものの、ホラー小説としてはソレがいい味を出している。

【どんな話?】

 中学生の年子の兄弟、利一と祐二は、弟の雷太の殺害を決意した。雷太は11歳の子供だが、身長195cm体重105kgの巨体で、ここ一ヶ月ほどで極端に横暴になり、ついには父親まで殴りはじめたのだ。年下とはいえ相手は巨体で怪力、ふたりがかりでも、まともに戦ったら勝てない。そこで助っ人を頼もうと考え…

【感想は?】

 なんとも巧いタイトルだ。見事に内容を表現してる。

 著者は「受賞の言葉」で「十歳の子供になる夢」から発想を得て書いた物語、と語っている。まさしく、想像力豊かな子供が考えそうなストーリーだ。奇抜で荒唐無稽、野蛮で残酷。ホラーとはいえ小説としては無茶な筋書きなのだが、独特の文体が巧く読者をノせる効果を出している。

 というのも、意図的なのか癖なのか、いかにも子供が作り話を語るような文章で、「こういう語りならこんな話もアリだよなあ」と思わせる文章なのだ。一見拙いように思える文章だが、それでいて舞台背景や情景などはキッチリ伝わってくるので、これは意図的なものなんだろう、たぶん。

 出てくる固有名詞や造語が、これまた巧く雰囲気を出している。「ベカやん」「キチタロウ」「モモ太」「ジッ太」「ズッ太」など、いかにも小学生が語る法螺話風だが、同時にこの作品世界によくマッチしている。

 冒頭から殺人の話で始まることでもわかるように、この小説の内容は殺伐としたものだ。出てくる者たちは、それぞれ自分の感情と都合で動き回る。殺人の助っ人を頼むにしても、代償が必要だ。その代償というのが、これまた酷い。戦前または戦中の日本の田舎、という舞台設定が、ここで活きてくる。

 変な所に変に拘るのも、この作品の特徴。「処刑前の罪人には必ず蕎麦を恵与すべし」って、なんだそりゃ。こういう、いかにも馬鹿っぽい拘りが、この作品世界を盛り上げる。

 物語は三部構成で、尻上がりに面白くなる。第一部のクライマックスもなかなかスプラッタしているが、第二部のエンディングにも唖然。これだけ唖然とさせておいて、第三部の無茶っぷりも酷い。第二部では単に陵辱される対象として肉体が描かれるが、第三部では完全に肉体が「モノ」的な扱いになっていく。

 「田舎の子供がいきあたりばったりで語る恐怖物語」なテイストの作品。語りこそ一見拙さを感じさせるものの、だからこそ出鱈目な展開が説得力を持つ。

 とはいえ、やっぱりスプラッタは苦手です、はい。

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