SFマガジン2011年12月号
今月も280頁の標準サイズ。ここ3ヶ月ほど海外作品の紹介がなかったのが、今月は5作品の大盤振る舞い。
トップはサイコロ本作家のアリステア・レナルズ「トロイカ」。舞台はソビエトが復活した近未来。突然太陽系に現れ12年周期の楕円軌道に乗った謎の人工物「マトリョーシカ」と、ソビエトの3人の宇宙飛行士のファースト・コンタクトを描く。マトリョーシカの構造が斬新。
続くハンヌ・ライアニエミ「懐かしき主人の声」の語り手は犬。奪われたご主人を奪回するため奮闘する犬と猫のコンビ。気まぐれでツンデレな猫が可愛い。
N・K・ジェミシン「可能性はゼロじゃない」は、近未来のニューヨークを舞台にしたファンタジー。主人公はアフリカ系とアイルランド系のハーフの女性、アデル。「偶然」が頻発し、宝くじの当選が出やすく、同時に不幸な事故も増える奇妙な現象に覆われたニューヨーク。宗教団体が騒ぎ出し、逃げ出す人も多い中、一人暮らしのアデルは今日も仕事に出かける。
ジョン・スコルジー「ハリーの災難」は、「老人と宇宙」シリーズの外伝。コロニー防衛軍の技術者、ハリー・ウィルスン中尉は、重大な外交問題を賭けてコルバ族と一騎打ちをする羽目に…。ハリーとハート・シュミットの掛け合い漫才が楽しいコミカルな短編。地球生まれの老人が志願して入隊するコロニー防衛軍。老人は処置で若返ると共に、肉体も強化される、という背景を知っておこう。
最後のイアン・マクドナルド「小さき女神」は、未来のネパールが舞台。主役は、なんとクマリ(生神、→Wikipedia)の少女。マクドナルドらしく「見た目はファンタジー、中身はSF」な仕掛けが盛りだくさんながら、それ以上にクマリの生活がやたら面白い。彼女が選ばれる過程、求められる特徴、宮殿の中での生活。「ほほ笑むことも、感情を顔に出すことも、なさいませんように」。山田ミネコの短編「着陸」を思い出した。
地味に続いてた「おまかせレスキュー」。このネタは「狐と踊れ」か?あのアンソロジーに採録したら…いや、浮きまくりだなw
金子隆一氏のコラムはCERNが「光より速いニュートリノを観測した」というネタ。10月号ではホーガンを Disってたのに、ちゃっかり「未来からのホットライン」を宣伝してる。結局、好きなんでしょ。
今月は Kindle のネタが多い。大野典宏・堺三保・編集後記と、Kindleづくめ。中で気になったのが、「電子書籍の自動更新に読者困惑」というニュース。ニール・スティーヴンスンの新刊に誤字があったので差し替えたが、読者が記入したメモやブックマークが消えてしまった、というもの。ダイヤモンド・エイジのスティーヴンスンってのが、皮肉だねえ。
何が気になったといって、Kindle のデータ構造。恐らく HTML や PDF のようなタグ付きテキストなんだろうけど、問題はメモやブックマークの保存方法。パッと思いつくデータ構造は二つ。1)元データ内にメモを埋め込む、2)元データとは別の所にメモを保存する。読者のデータが消えたって事は、1) の可能性が高い。これ防ぐとすると、システムの大幅な改編が必要かも。
2)ならメモも保存できるけど、実装が面倒になる。保存するメモには、a)メモの開始位置、b)メモの内容 の二つの情報が必要になる。メモの開始位置は、元データのx文字目の後、みたいな形になるだろう。表示の際に、元データとメモを併合して端末に表示するわけだ。
けど、これ、誤字脱字の修正などで元データをアップデートした際、メモもアップデートしないと、メモの位置がズレてしまう。その調整アルゴリズムは…などと考えてると、眠れなくなるからこの辺にしよう。
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