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2011年10月24日 (月)

交通研究協会発行 牧野光雄「交通ブックス308 飛行船の歴史と技術」成山堂書店

 ツェッペリン硬式飛行船は総数130隻が設計されたが、実際に建造されたのは第一次世界大戦前25隻、大戦中88隻、大戦後6隻の都合119隻の多数に及んだ。

【どんな本?】

 大空を悠々と遊弋する飛行船の歴史を、モンゴルフィエの熱気球から頂点を極めたグラーフ・ツェッペリン、そして今また関東の空を遊弋しているツェッペリンNTまで辿ると共に、その飛行原理から内部構造、姿勢制御技術や基本設計の変遷・操縦方法など技術的な面を明らかにし、また輸送機関としての特徴を挙げ将来性を模索する。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2010年8月8日発行。ソフトカバーで幅広の新書サイズ。横組みで約190頁。9ポイント29字×25行×190頁=137,750字、400字詰め原稿用紙で約345枚。小説なら短い長編の分量だが、図版や写真を多数収録しているので、正味の文字量は7割ほど。

 著者は元日本大学理工学部航空宇宙工学科教授だが、この本は素人向けに書かれていて、理工系の教授の著作にしてはかなり読みやすい。80年代のブルーバックスの工学系のシリーズより、親しみやすさは上だ。後半に数式が出てくるが、ほぼ無視して構わない。

【構成は?】

 まえがき
第1章 飛行船序論
第2章 飛行船前史
第3章 ツェッペリン飛行船の成功
第4章 飛行船黄金時代
第5章 イギリス・アメリカにおける硬式飛行船
第6章 日本における飛行船史
第7章 第2次世界大戦跡の活躍
第8章 飛行船の操縦・離着陸・格納
第9章 飛行船の構造と推進装置
第10章 飛行船の有用性と将来性
 付録 飛行船の浮揚力・空気抵抗
 あとがき/参考図書/索引

 前半の第7章までは飛行船の歴史で、第8章以降が科学・工学・産業的な内容。序盤は冷静に記述していた著者が、後半に進むに従い飛行船への熱い思いが漏れ出し、第10章では著者の夢が炸裂するのが楽しい。

【感想は?】

 カッコいいよね、飛行船。アニメじゃ秘密組織とかの必須アイテムだし。特にツェッペリン型の大型硬式飛行船は様になる。なんたってLZ127グラーフ・ツェッペリン、全長235.5m,最大直径30.5m。大きさがハンパない。

 ところが肝心のツェッペリン伯、実はグラーフ・ツェッペリンを見ず、1917年3月8日に肺炎で没している(グラーフ・ツェッペリンの就航は1928年)。伯でわかるように裕福な貴族の生まれで、生涯の前半は陸軍に勤務しつつ飛行船建造の野望に燃え、皇帝ヴィルヘルム2世に飛行船建造を進言したりしている。

 だが皇帝にも軍にも理解を得られず退役、以降はすべてを飛行船に捧げ七転び八起きの人生。私財を投げ打って第1号LZ1を建造し市民の注目を集めるが、船体が折れ曲がり15分ほどで湖に墜落。執念で修理し3回の試験飛行に成功するが「狂人伯爵」と叩かれ資金を使い果たし会社は解散。

 寄付と宝くじで資金を集めLZ2を建造するも初飛行後、格納庫内で嵐により破損。めげないツェッペリン伯、皇帝からの支援と宝くじでLZ3を建造、45回の試験飛行の末に陸軍に買われる。以後、成功と事故を繰り返しながら国民的英雄となり、第一次世界大戦に突入。「搭載量と航続距離の大きさは当時の飛行機には遠く及ぶところではなかった」そうな。

 そのグラーフ・ツェッペリン、画期的な設計上の工夫がある。燃料を使えば飛行船は軽くなる。従来は釣り合いを取るためガス(水素)を放出していたが…

これを解決する方法の一つとして燃料にブラウガスを用いることが考えられた。(略)空気とほぼ同じ密度(空気の1.05倍)のため消費したあとを空気で補えば飛行船の全重量は変わらないので浮揚ガスを放出せすにすむ。

 そう、飛行船は重さの釣り合いを取るために浮揚ガスを放出するわけ。これは他にも理由があって、高空だと気圧が低くなりエンベロープ(ガスを入れる袋)にかかる力が大きくなるし、太陽熱であったまっても圧力が高まる。だからガスを放出して圧力を逃がしてる。逃がすのはいいが、今度は低空に戻ったときエンベロープが萎んでしまう。硬式はともかく軟式はまずい。これを解決するため…

エンベロープ内にバロネットと称する空気袋を設けて浮揚ガスの代わりにこの中の空気を出し入れする。

 軟式飛行船のデッカイ風船、中は二重になってるそうな。しかもバロネットは前後に二つあって、姿勢制御にも使ってる。この辺、形状だけでなく設計思想も潜水艦に似てるなあ。飛行船は他にもエンジン排気から水を回収して重さのバランスを取る工夫もある。そのエンジン、最近は向きを変えるティルト機構も常識だとか。

 飛行船の特徴であるガス嚢、今はヘリウムが入ってる。水素とヘリウム、それぞれどの程度の浮力があるかというと。

空気は地上(15℃、1気圧)において1㎥の重さが約1.225kgである(略)水素1㎥の重さは約0.085kg、ヘリウムのそれは約0.169㎥であるから、各ガス1㎥に生じる地上での正味の浮力は
  水素では    1.225-0.085=1.040kg
  ヘリウムでは  1.225-0.169=1.056kg
(略)ヘリウムは水素の場合より総浮力が約8%減ることがわかる。

 いずれも1㎥で約1kgの浮力がある。にしても水素とヘリウムの差がたったの8%とは。
 さて、現実に飛行船を作るには幾つか問題があって。

(a)爆発炎上の危険性があった。
(b)速度や運動性、機動性において飛行機に遠く及ばない。
(c)船体が大きい。したがって地上での取り扱いの労力が大きい。
(d)風に弱い。悪天候により遭難することが多かった。

 (a)は水素をヘリウムに変え解決するけど、最大の問題は(d)。これは著者も「天気予報が発達したんだから逃げればいいじゃん」と苦しい言い訳している。意外と見落としがちなのが(c)。

 硬式飛行船の着陸になると、これを人力により地上に降ろすには大勢(たとえば数百人)の地上支援員の労力と支援長の経験的技術が必要であった。

 飛行船からロープを下ろし、ロープを引っ張って引き回すわけ。今なら自動車でやれるだろうけど、それでも好きなところに着陸ってわけにはいかない。ブルジョアな乗り物なんです。

 以下、余談。

 実は3つほど、かねてから飛行船の阿呆な設計案(というより妄想)があったんで、垂れ流しておこう。

  1. 熱飛行船:熱気球があるんだから、熱飛行船があってもいいじゃないか。暖めた空気をエンベロープに入れれば浮かぶでしょ。燃費は酷く悪そうだけど。
  2. プラズマ飛行船:もっと熱してプラズマにしちゃえば浮力を稼げるよね。燃費に加え構造材も調達できないけどさ。
  3. 真空飛行船:いっそエンベロープ内を真空にすりゃヘリウム不要になる。エンベロープは炭素素材とかの硬い素材にする。この場合、圧力の加わり方は従来と逆で、むしろ潜水艦同様に外から中にかかる形になる。けど素材が今は見つかりそうにないなあ。

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