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2011年9月 1日 (木)

坂口恭平「TOKYO 0円ハウス0円生活」大和書房

「工夫するのが好きなのよ。そしてこの生活は工夫すればするほど面白くなっていくわけよ」

どんな本?

 東京の路上生活者の、「家」と暮らしのルポルタージュ。隅田川沿いに立ち並ぶブルーシート・ハウスの中はどうなっているのか、それはどう作るのか、居心地はどうか、家財道具は何があり、どうやって調達しているのか。そこに住む人は、どうやって収入を得て、どんなスケジュールで生活しているのか。我々の目の前にある、意外性に満ちた生活を追う。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2008年1月25日初版発行。私が読んだのは2008年4月5日の第二刷。評判は上々の様子。ソフトカバー縦一段組みで本文約274頁+3頁の「おわりに」、冒頭にカラー写真が4頁。9.5ポイント45字×17行×274頁=209,610字、400字詰め原稿用紙で約525枚。標準的な長編の長さ。

 著者は著作が専門ではないようだが、それが逆に気取りのない読みやすく親しみやすい文章を生み出している。内容の面白さも手伝って、特に前半はサクサク読める。要所に手書きのイラストや地図があり、これが著者の人柄を効果的に伝えている。

構成は?

 はじめに
第1章 総工費0円の家
第2章 0円生活の方法
第3章 ブルーの民家
第4章 建築しない建築
第5章 路上の家の調査
第6章 理想の家の探求
 おわりに

大きく分けて2つの部分からなる。前半、第1章から第3章までは、この本の主人公である、鈴木さんのルポルタージュ。後半の第4章から第6章は、著者である坂口氏の半生記。

感想は?

 「路上生活者のルポルタージュ」と聞けば、辛気臭い社会系の内容を想像するかもしれない。が、とんでもない。これは、偉大なハッカー、それも Wizard を超え Guru の域に達しつつある賢人の記録だ。または、今ここに既に存在しているサイバーパンクな世界のレポートでもある。

 ハッカーとは何か。私は、「工夫をするのが大好きな人」という意味でハッカーという言葉を使う。この本の前半に登場する鈴木さんは、まさしくハッカーそのものだ。

 路上生活者、いわゆるホームレス。ところが、ここに登場する鈴木さんはちゃんと「家」がある。隅田川の河川敷遊歩道に、廃棄物を使って自分で家を作り、そこで寝泊りしている。とすると、ホームレスという言葉は適切ではない。

 この「家」が見事で、廃材・段ボール・ビニールシートを組み合わせ、すべて0円で調達したものでできている。「ここにあるものは酒と食べ物以外、全部拾ったものです」。例えばビニールシートは、隅田川の花火大会で捨てられた物を拾った。釘も「新品でも落ちているし、道具箱ごと捨てられているのもあるもんね」。

 ちゃんと電気もある。自動車用のバッテリーを使い、ラジカセやテレビを使っている。バッテリーの調達法も見事だし、廃棄までキチンと考えている。「12ボルトで大体の電化製品は動くんだよ、実は」。煮炊きもする。朝食のメニューは「白米、味噌汁、納豆、おしんこ」だ。煮炊きは拾った保温鍋を使う。ご飯の炊き方も見事。

 ご飯は炊飯器を使って炊く。といっても、市販の炊飯器は家庭用の電源でしか動かない。それでどうするかというと、炊飯器の中の釜をそのままカセットコンロで直火にかけて炊くのだ。そして炊き上がった釜はそのまま炊飯器に入れる。これで電源を付けなくても十分保温されるそうだ。

 今度、試してみよう。
 路上生活者は不潔という印象があるが、少なくとも鈴木さんは違う。家には風呂もあるのだ。台所・物置・玄関・収納兼用だけど。「週に一回ぐらいは銭湯に行くけどね。銭湯は天国だよ」だそうなので、結構な頻度で入浴している勘定になる。

 住み心地もちゃんと考えている。床下に隙間を作り、「夏は下から上に風が抜けるよ」。冬は「この隙間に綺麗に新聞紙をかぶせていくと…」「あ、全く風を通しませんね」。

 ところがこの家、月に一度国交省の手入れがあって、定期的に撤去しなきゃいけない。が、そこも考えたもので、この家、ちゃんと分解・移動・再構築可能になっている。「釘が甘く入っているだけなので分解が可能」。撤去に3時間、再構築に2時間。しかもついでに掃除するから、清潔でもある。

 鈴木さんの凄い所は、こういった工夫を周囲の人に惜しげもなく分け与える点にもある。路上生活を始めた当初は「みんな、冷たい水ばかり飲んでいるんだ」。その後カセットコンロを路上で見つけ、コーヒーを作って周囲にふるまった。

 「そしたら、すごいことが起きたわけよ」
 「うちにお湯を求めて仲間たちがたくさん集まった」
 「そして、うちらが住んでいるところには、コーヒーや紅茶、日本茶、いろんなものを持った人たちが列を作って並んだんだよ。しかも、うわさを聞きつけた知らない人たちも集まってきて…」

 「食べる人類誌」にもあったけど、人は火に集まる習性があるのかも。かくして情報のハブとなった鈴木さん、知識を交換し知恵を分け合い、暮らしを便利にしていく。

 仕事もしている、。アルミ缶の収集だ。自動販売機を回るわけではない。ちゃんとゴミ出しの日時に合わせ、毎日コースを巡回するのだ。黙って持ってくるのではない。予め、ちゃんとゴミを出す人に事情を話しておく。

 「全部正直に言うわけよ。私はこれで生計を立てていますので、もしよろしかったら、ここのアルミ缶を毎回ください、って」
 それで、オバちゃんはどう返してくるのか?
 「毎週出すから来なさい、だよ」

 商品知識もある。缶コーヒーは鉄なので使えない。「缶コーヒーにはたくさんの糖分が入っているため、アルミニウムだと金属が溶けてしまうらしいんだよ」「最近出ているブラックコーヒーはアルミの缶だよ」。当然、仕事の後のゴミ袋は綺麗に結びなおす。

 後半に出てくるオジサンも驚き。なんと、ソーラーパネルで発電している。欲しいものはコンピューターだそうで、何に使うのかというと…

 「電気量の確認や、ソーラーパネルの角度調整、周りの天候、気温などの調査、とまぁ、この家の脳味噌のような感じで使いたいのです」

 それ、インテリジェント・ビルそのものですぜ。どころか…

「それで、最終的には人間の脳とも接続して、家と人間の両方をコンピューターで制御したりしてみたいんだよねー」

 後半は著者の半生記なのだが、この著者も相当に独特の人だ。子供のころ、ファミコンに興味を持って考えたのが、「ファミコンの中になりたかった」。で、何をしたのか、とういうと。今で言うテーブルトークRPGをゼロから創りだし、ゲームマスターを勤めている。本人は気がついてないけど。

 最後は鈴木さんが夢を語るシーンで終わる。なんというか、つくづく凄いことを考える人だ。
 Hack が好きな人は必読。のほほんとした文体だが、内容は驚きと感動に満ちている。

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