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2011年9月12日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 5121暗殺」電撃文庫

「サムライじゃのー、加藤は。そんなことしたら、俺ら全員、南鳥島に島流しぞ。来る日も来る日も太平洋の荒波を眺めて暮らさにゃならん。それでもよかね?俺は覚悟はできとる。原さん親衛隊の若宮は幸福のあまり死ぬかもしれん」

どんな本?

 オリジナルは2000年9月28日発売の SONY PlayStation 用ゲーム、「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。昨年PSPのゲーム・アーカイブで再発売されたが、それまでは中古市場でも販売価格が¥4,000程度(新品は¥4,800)を維持し続けたなど、多くの伝説を誇る化け物ゲーム。

 そのノベライズとして2001年12月に始まったこのシリーズも、もうすぐ10年目で30冊目(ガンパレード・オーケストラを含めると33冊目)。作家の榊氏も息切れするかと思いきや、むしろ年を追うに従い刊行ペースが増し、今年始まった「ガンパレード・マーチ2K」シリーズは既に5冊目。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2011年9月11日初版発行。文庫本で縦一段組み約280頁も前巻とほぼ同じ、安定してるなあ。8ポイント42字×17行×280頁=199920字、400字詰め原稿用紙で約500枚。テーマが戦争で登場人物の多くが軍人や政治家だけにお堅い言い回しは多いが、あくまでライトノベルとしての可読性は充分に維持している。

 とまれ、長いシリーズだけに小説独自の登場人物も多く、5121小隊の面々にもオリジナルの属性が付加されている。これから読む人は素直に「5121小隊の日常」から入る事を薦めます。

どんな話?

 北海道動乱にもカタがつき、やっと平和になった日本。とはいえ軍も政府も機能を停止したわけではなく、むしろ予算の取り合いは活発になっている。南方の資源地帯回復のための海兵増強を主張する善行、シベリア居留地の開発を優先すべきとする山川と牧島。その会議を終えた善行は、何者かに拉致される。

感想は?

 桜沢レイちゃん、大活躍。一番美味しい場面で一番美味しい所をさらっていきます。トレードマークの黄色い工事用ヘルメットはそのまま、今回は真紅のミニ・スーツ。テレビ新東京のローテンシュトルムとでも言いますか。そのうちファッション誌が特集するかも。「魅惑のヘルメット特集、デキる女はツバ有りアメリカン!」とか。しかし久萬はブレないw

 そのレイちゃんスペシャル久遠をデザインした原さん、片手間にやったのかと思ったら、案外と丹精こめて仕事した模様。初対面じゃあれだけイジめたのに、めげない人にはちゃんと目をかけるのね。この二人が並んでTVに映るシーンがあったら、オヂサンたち大喜びだろうなあ。

 肝心のお話はというと、皆さんの想像通り。北海道にもちょっかいを出そうとした海の向こうの某国が、アレコレと触手をのばしてくる、という筋書き。今まで謎に包まれていたアチラの状況が、少しづつ見えてくるのもこの巻の読みどころ。近年の現実の政治状況を反映してか、結構ヤバい感じに仕上がってます。

 ヤバいといえば、巻を追うごとにアブなくなってきた森さん、今は広島の壬生屋家に居候中。どちらも無愛想で不器用で生真面目でブラコンだから、相性はいいんだろうなあ。この二人の化粧品談義とか、どうなるんだろう。分子式を持ち出す森に頭痛を訴える未央ちゃんって感じかな?

 肝心の士魂号、今回はほとんど登場シーンなし。いや一部で出てくるんだけど、この配役と舞台は酷いw もう少しカッコつけさせてやれって。なんというか、隠密行動がトコトン似合わないやっちゃ。

 さて、表紙に出てくるのは裏方代表の加藤と新井木。整備の連中は相変わらずで、特にイワッチはここでもマイペース。平穏に安んじないというか、常に常識では対応不能な状況を作り出してる。狩谷と中村の対立も通常通り。微妙に担当機の性格を反映してるのも面白い所。滝川が本能で戦術を編み出し、森が日本語に翻訳し、茜が理論化し、狩谷と加藤が整備と補給を含めた運用体制をマニュアル化すれば、自衛軍が汎用的に使えるモノになると思うんだけど、それが彼らの幸福につながるかといえば、うーん。

 ちょいと真面目な話、大きく頷いたのがこの辺。この巻では文部省が絡んで若年層の教育方針がテーマのひとつになってるんだけど、それについて。

 「…なぜ、日本自衛軍が本土決戦に勝ち続けたかを我々も分析しました。それは、兵が自らの頭で判断ができる、ということです…」

 兵器の稼働率は整備兵の教育レベルに比例するんだよね。中東戦争がいいサンプル。その稼働率に大きな問題を抱える二足歩行戦車部隊の一員として、舞ちゃんも果敢に教師役にチャレンジ。担当教科は、ご想像のとおり。まあ彼女に「生活」や「生物」なんかやらせたら、大変な事になるのは目に見えてるけど。統率力はあるんだから、案外と適正はあるのかも。しかし親分と対面できなかったのは、無念だろうなあ。

 帯には「2Kシリーズ完結」とあるけど、今回もあとがきも解説もなし。ナニやら舞台を含め大きく動き出しそうな状況でこの巻は終わってるけど、また暫くヤキモキさせられるんだろうなあ。いやホント、広報体制なんとか考えて下さいなメディアワークスさん。

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