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2011年8月21日 (日)

月村了衛「機龍警察」ハヤカワ文庫JA

「ギャラの出所が税金であろうと裏金であろうと、契約は履行しますよ。この仕事は信用が第一ですから」

どんな本?

 アニメの脚本で活躍した著者による、近未来の日本を舞台としたハードボイルド警察SF長編。SFマガジン編集部編「このSFが読みたい! 2011年版」のベストSF2010国内編で13位にランクイン。二足歩行型軍用有人兵器「龍機兵(ドラグーン)」を擁してテロリストに対抗する警察の嫌われ者部隊、警視庁特捜部 SIPD の活躍を描く。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2010年3月25日発行。文庫本縦一段組みで本文約346頁。9ポイント41字×18行×346頁=255,348字、400字詰め原稿用紙で約639枚。標準的な長編の分量。

 文章そのものは充分に読みやすい。ひっかかりそうな部分は三つ。

  1. まず、警察官の階級や組織について、ある程度知っていた方が楽しめる。警察庁と警視庁の違い、警部より警視の方が偉い、とか。
  2. 二つ目は銃器、それも対物ライフルや重機関銃のクラス。私はよく知らないんで読み飛ばしたけど←をい。
  3. 最後は龍機兵関係で「エンゲージ」だの「リコイル」だのといったカタカナ言葉が出てくる。これを「よくわからんがカッコイイ」と思うか、「わけわかんない」と思うかで、評価は分かれるだろう…といっても、「わけわかんない」と感じる人は、最初から手に取らないだろうけど。

どんな話?

 「不振な外国人の出入り」という通報を受け現場に向かった二人の警官は、突然出現した3体の二足歩行型軍用有人兵器・機甲兵装に虐殺された。暴走する3体は地下鉄千石駅に立てこもり、列車の乗客を人質にする。SAT が出動した現場に、3機の「龍機兵(ドラグーン)」を擁する警視庁特捜部 SIPD が割り込んでくる。

感想は?

 パトレイバーかと思ったら照柿+ワイルド7だった。「いや、それ無茶でしょ」と思うだろうけど、その無茶を巧く融合させてる。

 タイトルが「機龍警察」で、出てくるのが二足歩行型軍用有人兵器「龍機兵(ドラグーン)」とくれば、ロボット・アクション物…と思うし、実際ドラグーンは魅力的なんだけど、活躍する場面は少ない。いやちゃんと活躍するんだけど、4クールの特撮物シリーズの第一回みたいな感じで、トコトン読者をじらせる。

 このドラグーンがなかなか個性豊かで魅力的。大きさが身長2~3mで、パトレイバーというより「宇宙の戦士」のパワード・スーツに近い。テロリストや SAT も機甲兵装を持ってるんだけど、こっちは「量産型」って感じ。対するドラグーンは3体で、それぞれ仕様が違う。

 戦場が似合いそうなダーク・カーキのフィアボルグ。漆黒で筋肉質のバーゲスト。そして純白で優美なバンシー。特別仕様とか試作品とか、そういう感じ。「いや普通は試作品の兵器なんてロクなモンじゃないし」とか野暮いっちゃいけません。

 これに乗り込む連中も、クセの強い奴ばかりで、しかも警視庁から見れば臨時雇いの「外人部隊」。フィアボルグに乗るの姿俊之はヘラヘラした若白髪。バーゲストには寡黙で頑なな白人のユーリ・オズノフ。そしてバンシーは若い女性ながら陰鬱な雰囲気を漂わす「テロ対策のスペシャリスト」ライザ・ラードナー。

 警察の外人部隊といえばワイルド7が有名。ワイルド7の隊長草波も冷血な曲者だったけど、特捜部を率いる沖津警視長も相当なもの。「何を考えているかわからない」底の深さと鋭い頭脳を持ち、警察官すら呆れさせる情報網を持つ。上の三人をスカウトしたのも沖津だ。押しが強いわけではないが、人を言いくるめる話術もある。何より異様なのはその経歴で…

 経歴が異様なのは上の三人も同じで、それぞれ日本の警察とは縁のない、だが物騒な経歴を持つ。この三人の経歴が明かされていく過程もなかなかの読みどころ。もちろん、「因縁の対決」もご期待通り。

 特捜部がワイルド7と大きく違うのが、捜査班を持つ点。中盤では捜査班を率いる夏川警部補と由紀谷警部補が活躍する。どちらも警察の生え抜きで、沖津にスカウトされた敏腕。色黒で快活な脳筋の夏川と、色白で少し陰のある由紀谷。どちらも職務に忠実な警官でありながら、特捜部所属のため色々と苦労している。

 というのも、警察内での特捜部の位置づけが特異なため。「外人部隊」の起用や横紙破りが常道の沖津により、特捜部が警察内でどう見られるか。そういった組織内の軋轢が、この物語の大きな読み所となる。

 登場人物の造形が、極めて明瞭で印象深いのも、この作品の特徴。この巻では姿俊之が主役として活躍するんだけど、ユーリとライザ、そして沖津の経歴は仄めかされるだけ。長いシリーズを予定しているんだろうなあ。でないと困る。最低でも5巻ぐらいまでは続けてもらわないと。

 なんたって、肝心のドラグーンの活躍場面が少ない。いやあ、正体不明の新鋭有人二足歩行兵器といえば、いやっぱり山田正紀の機神兵団を思い出すでしょ。それぞれ個性を持った3体で、独立愚連隊的な立場も同じだし。出動場面もハッタリが効いてゾクゾクするし。って事で、次はライザちゃんとバンシーによる蹂躙戦を是非。ええ、もちろん、よこしまな期待で言ってます。

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