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2011年8月 9日 (火)

藤田和男監修「トコトンやさしい石炭の本」日刊工業新聞社B&Tブックス

オーストラリアから輸出されてる石炭の大部分は、炭鉱から積出港まで主に鉄道で運ばれています。(略)
最新鋭の貨車の一輌あたりの積載量は約90トン、一列車は約100輌の貨車で構成されており、全長は約2キロを越え、一旦踏み切りで引っかかると20分程度遮断機は上がりません。

どんな本?

 日刊工業新聞社のB&Tブックス「今日からモノ知り」シリーズの一冊で、「石油の本」「天然ガスの本」とエネルギー三部作を構成する最終巻。石炭の生成・エネルギー源としての性質・採掘・主な利用法など科学・技術・産業面が充実しているのが特徴だが、市場動向や価格決定のしくみなど社会的・経済的な側面も軽く触れている。

 なお、この本は多くの人が著者として参加している。監修は藤田和男、編著は秋元明光・島村常男・藤岡昌司・島田荘平・鷹觜利公・牧野英一郎、著者は石原紀夫・大賀光太郎・海保守・小柳伸洋・斎藤郁夫・佐藤信也・鈴木祐一郎・田中一哉・田丸和博・富田新二・浪岡直希・古川博文・牧野啓二・牧野尚夫・三田真己・宮入崇彦・森下佳代子・吉澤徳子。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2009年4月30日初版第一刷発行。ソフトカバーで縦二段組で本文約146頁だが、独特のレイアウトなので実質的な文章量はその半分と考えていい。9.5ポイント25字×17行×2段×146頁/2=62,050字、400字詰め原稿用紙で約156枚。

 産業系の内容を、その道の第一人者が素人向けに解説するこのシリーズには、大きな特徴が二つある。第一は著者で、一般に「知識と経験は豊富だが素人向けの著作には慣れていない」人が多いため、内容は充実しているが文章はやや不親切になりがち。第二の特徴は、それをカバーするため徹底して親しみやすさに配慮した編集。

 まず、全体の構成。原則として見開きの2頁で完結した記事を集めた形になっていて、読者は気になった部分だけを拾い読みできる。各記事のレイアウトも決まっていて、右頁に文章をおき、左頁に写真・表・グラフ・図解などのビジュアル要素を配置。また、右頁の下には「要点BOX」として40~60字程度の「まとめ」をつけている。Twitter の「つぶやき」みたいな感じ。更に、各章の間にはちょっとしたトリビアを紹介する短いコラムを入れ読者を惹きつける努力をしている。

 またフォントはゴチック体を使ってポップな雰囲気を出し、二段組で行長を短くして「とっつきやすさ」を増す工夫もしている。この辺は日刊工業新聞社という、新聞で培ったノウハウの賜物だろうか。

構成は?

第1章 石炭っていったいどんなものだろう
第2章 石炭の探査・採掘・輸送・貯蔵
第3章 石炭を上手に使うプロセス
第4章 石炭を利用した発電とは?
第5章 発電以外に石炭を利用する技術
第6章 環境にやさしい石炭資源の使い方
第7章 石炭をとりまく国際情勢
第8章 石炭の将来はどうなるのか
 おわりに
 参考文献
 索引

 一般にエネルギー関係の本は、価格や国際情勢など社会的な面に偏りがちなのに対し、この本は科学・技術・産業面に大きな比重を置いているのが特徴。

感想は?

 かつてダルマストーブで暖をとった世代なので、一応は石炭を見て触った経験はある。だ、既に石炭は過去のモノと思っていたが、意外と使われている、どころか今でも新技術の開発が進められているのが驚き。

 主な需要は発電で、2006年度で日本の電力の24.5%を担っている。これもダルマストーブや蒸気機関車の印象とは大きく違う。あの石ころのまま燃やすのではなく、ミルで挽いて50ミクロン(0.05mm)の粉にして燃やす。まあ、その後、熱した蒸気でタービンを回すのは蒸気機関車と同じだけど。

 この蒸気温度と圧力が1950年代は450℃40気圧なのが、今じゃ620℃310気圧、しかも2020年の実現を目指し蒸気温度700℃のユニットの開発がスタートしている。この蒸気温度、上がるほど発電効率がよくなり、二酸化炭素排出量が減るという面白い性質がある。

 資源が豊富で比較的価格も安定している反面、石油に取って代わられたのには理由がある。個体なのでパイプラインが使えない。貯蔵も広い面積が必要で、自然発火の危険や風で粉塵が舞うため散水の必要があり、燃やすとSOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)が出る。

 自然発火は炭鉱でも問題で、換気が重要な問題になる。これは粉塵に加えメタンガスが坑道に出てくるため。「メタンって天然ガスでしょ?勿体無くね?」と思ったら、ちゃんと後にCBM(Coal Bed Methane)を採掘する技術が出てた。普通の油井とかのボーリングは垂直に真っ直ぐなんだけど、この場合は炭鉱層で穴が90度まがり水平に掘り進む。従来のボーリング機械は軸ごと回るのに対し、これはビット(刃先)だけが回る。

 炭田の探索方法はまさしく山師で、地図を見て「川沿いや沢あるいは道路沿いなどの露頭が見つかりそうな地表を歩いて探します」「沢などを調査していて、石炭のかけらを見つけた場合には、その周辺あるいは沢の上流部で石炭層が見つかる可能性があります」。

 「確かボッシュが石炭から合成石油を作ってたよなあ」と思ってたら、今でもちゃんとそのアイデアは生き延びている模様。CTL(Coal To Loquid)として、「例えば南アフリカのサソール社のセクンダ工場では石炭から1日16万バレルの合成油を製造しています」。日本じゃ石炭をガス化した発電技術も開発してて、既に試験運転中。

 時代遅れに思われていた石炭、実は発電や製鉄で重要な役割を担っているのでありました。にしても2007年あたりから価格がハネ上がってるんだよなあ。

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