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2011年7月16日 (土)

エリザベス・アボット「砂糖の歴史」河出書房新社 樋口幸子訳

19世紀のある評者は、砂糖プランテーションの畑奴隷の平均余命は7年で、彼らは「酷使されて疲れきった馬」のように死んでいくと嘆いている。

どんな本?

 書名どおり砂糖の歴史を綴った本。生産・精製・流通・加工・消費と砂糖にまつわる全体を扱っている。中でも、多数の奴隷を酷使してサイトウキビを栽培する西インド諸島の砂糖プランテーションの様子と、砂糖資本が支配する社会の変転に多くの頁を割き、甜菜やアジアのサトウキビについては控えめ。消費終盤近くで、欧米、特にアメリカの菓子産業の発達に触れていて、全体的に苦味が利いた中で、ちょっとしたデザートの風味を出している。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 原書は Sugar - A bittersweet history, by Elizabeth Abbot, 2008。日本語版は2011年5月30日初版発行。A5ハードカバー縦一段組みで本文約490頁+訳者あとがき4頁+参考文献10頁。9.5ポイント46字×20行×490頁=450,800字、400字詰め原稿用紙で約1127枚の大著。学者ではなくジャーナリストが書いた本だけに、内容のわりに文章は読みやすい。ただ、量が多いのと悲惨な場面が延々と続くのとで、さすがに胸焼けがするかも。

構成は?

  序章
 第1部 西洋を征服した東洋の美味
  第1章 「砂糖」王の台頭
  第2章 砂糖の大衆化
 第2部 黒い砂糖
  第3章 アフリカ化されたサトウキビ畑
  第4章 白人が創り出した世界
  第5章 砂糖が世界を動かす
 第3部 抵抗と奴隷制廃止
  第6章 人種差別、抵抗、反乱、そして革命
  第7章 血まみれの砂糖――奴隷貿易廃止運動
  第8章 怪物退治――奴隷制と年季奉公
  第9章 キューバとルイジアナ――北アメリカ向けの砂糖
 第4章 甘くなる世界
  第10章 砂糖農園の出稼ぎ移民たち
  第11章 セントルイスへ来て、見て、食べて!
  第12章 砂糖の遺産と将来
  謝辞
  訳者あとがき
  参考文献

 比較的甘いのは第1章・第2章・第11章・第12章で、それ以外の章はひたすら苦く酸っぱい。

感想は?

 嫌な本だ。と評しても、貶めることにはなるまい。明らかに著者は読者にそういう感想を抱かせようとしている。

 というのも。この本の大半を占めるのは、西インド諸島のプランテーションで酷使される奴隷の話題だからだ。サトウキビ栽培と奴隷制について、こう書いている。

四世紀にわたって、国際的奴隷貿易は少なくとも1300万人のアフリカ人をその家庭から引き離し、200万人以上を殺した。奴隷として海外に輸送された1100万人のうち、600万人が砂糖農園に送り込まれた。これは群を抜いて多い数字である。

 というわけで、中盤は鞭打たれ酷使され強姦される奴隷のエピソードが延々と続く。「機械でも大事に長く使ったほうが得なんだから、奴隷もちったあ大事に扱ったほうがいいんじゃね?」とも思うのだが…

18世紀中頃のバイア(ブラジル東部)のある農園主は、一人の奴隷を三年半働かせれば、その購入価格と年間維持費に見合うと計算している。

 使い潰したほうが得なのね。酷い話だ。

 さて。中東や欧米の歌や詩じゃ蜂蜜がよくでてくるけど、これは砂糖がなかった頃の甘味料の代表が蜂蜜だったため。今でも中東では蜂蜜は大人気だそうで。

ウサマ・ビン・ラディンの重要な資金源は、中東一帯に展開する蜂蜜のチェーン店なのだという。さらに、ビン・ラディンとアルカイダの中間たちは蜂蜜の中に麻薬や武器、現金などを隠して輸送していた。あるアメリカ政府関係者によれば、「検査官もあの商品は調べたがらない。ベタベタして始末におえないからだ」という。

 サトウキビの面白い点は切り株から栽培できること。「最初の植え付けから成熟するまでに12ヶ月から18ヶ月かかる」が、一旦成熟すれば刈り株をのこして収穫すれば、また発芽する。ただ、「段々に砂糖の含有量が少なくなるため、しまいには新しく植えつけるほうが経済的」だとか。

 サトウキビのもう一つの製品が、ラム酒。これは糖蜜の加工品で。

「ラム」という言葉は17世紀にバルバドス島で生まれた。別名「悪魔殺し」とも呼ばれ、1650年頃に同島を訪れた旅行者は、「強烈で、地獄のような、ものすごい酒」と書いている

 日本酒でも「鬼殺し」なんてのがあるけど、強烈な酒ってのはどこでも似たような名前になるんだなあ。
 奴隷制の廃止には様々な人の努力があったけど、この本では、少なくともイギリスの奴隷廃止運動の初期の功労者はクエーカー教徒だ、としている。

 1783年に(略)奴隷貿易廃止を掲げたクエーカー教徒の団体が創設され、そして四年後、この団体は「奴隷貿易廃止促進協会」となった。協会は特定宗教との結びつきはなかったが、クエーカー教徒が優位を占め、キリスト教福音派に賛同者が多かった。

 最近読んだ「ファージング」でクエーカー教徒が重要な役を果たしてたのには、こういう背景があったとは。ところが砂糖資本も対抗して熱心にロビー活動を繰り広げ、奴隷制はすんなりとは廃止にならない。この辺は読んでて実に不愉快な気分になる。

 さて、終盤では消費面が取り上げられる。独特の味で有名なドクター・ペッパー、なんとコカ・コーラよりも歴史が古い。

1885年にはテキサス州ウェイコで、薬剤師チャールズ・アルダートンが、いかにも効能あらたかそうな響きのドクター・ペッパーを発売した。その一年後に、ジョン・スティス・ペンバートンが、頭痛と二日酔いの治療薬としてコカ・コーラを開発した。

コーラも当初は薬として売られたわけです。実際、暫く炭酸飲料を飲まないと、あの味って薬っぽく感じるから不思議。飲料と並んで代表的なお菓子といえばチョコレート。19世紀には「耐えがたいほどに苦かった」のが、ミルクを入れて甘くなったとか。有名なハーシー社は…

最も格の高い製品は、豪華な包装で、「ル・シャ・ノワール(黒猫)」や「ル・ロワ・ド・ショコラ(チョコレートの王様)」といったフランス語の名前が付けられた。

 お菓子にフランス語の名前がつくと、なんか高級に感じるのは日本人も同じ。音感のせいなんだろうか。軍事関係だとドイツ語が強そうに感じるんだよね。ルフトバッフェとか。

 砂糖プランテーションの影響は現代にも強く残っている。末尾近くでブラジルがアルコール燃料車を普及させたカラクリを解き明かしている。つまりは砂糖産業が格好の市場を見つけた、というわけ。

 食べ物関係の本は好きだけど、この本は書名のわりに甘くなかった。まあ、それでもコーヒーにはたっぷり砂糖を入れて飲むんだけどね。なんでカフェインと砂糖って、こんなに相性がいいんだろ。

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