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2011年7月 8日 (金)

下野康史「運転 アシモからジャンボジェットまで」小学館

「ほかの鉄道会社からきたベテランのかたなんですけど、ATO(自動列車運転装置)で走っていたら、お客さんに“なんだ、ここの運転手、坐ってるだけじゃないか”って言われたらしいんです。カチンときて、無線でこれからATC(自動列車制御装置)でやりますって連絡して、次の駅でピタッと見事に電車を停止位置に止めた、なんて話もあります」  ――モノレールの運転

どんな本?

 書名どおり、あらゆる乗り物や機械の運転や操作について、その道のプロにインタビューしたルポルタージュ。多くの場合はインタビューに留まらず、同乗して運転の様子を見学し、時には実際に著者自らが運転する場面もある。対象は電車・ジャンボジェット・巨大タンカーなど知られたものから、雪上車・ホバークラフト・競艇ボートなど特殊なもの、胃カメラ・馬・アシモなど運転というより操作に近いものまで多岐に渡る。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 二玄社の雑誌「NAVI」に1999年8月号から2002年6月号に連載の記事から選択・加筆したもの。2003年3月1日初版発行。ハードカバー縦一段組み、本文約218頁+あとがき3頁。9ポイント42字×23行×218頁=210,588字、400字詰め原稿用紙で約527枚だが、各記事6~8頁の扉は見出頁をとっているので、実際にはその6/7程度、つまり原稿用紙450枚程度の分量。

 雑誌の連載記事だけあって、文章は現代的で読みやすい。多くの記事では「ATO」や「ワッチ」などの専門用語が出てくるが、大抵は記事内で解説がある。ただ、車雑誌の連載記事だけあって、「ベルト駆動」や「ストラット」など、乗り物一般に使われる言葉は解説なしで出てくる。

構成は?

電車の運転(以下、「の運転」は略す)/ジャンボジェット/潜水艦/都営バス/ヘリコプター/胃カメラ/SL/キョダイタンカー/シーカヤック/軽飛行機/スキージャンプ/雪上車/ジェットフォイル/地下鉄/ヨット/産業用ラジコンヘリ/ホバークラフト/自家用ホバークラフト/馬/トロリーバス/「保津川下り」和船/モノレール/熱気球/競艇ボート/車いすレーサー/アシモ/馬運車/グライダー/都電/リニアモーターカー
あとがき

 各記事は6~8頁で独立しているので、気になった所だけ拾い読みしてもいい。大抵の記事は先頭の扉にコクピットか乗り物自身のモノクロ写真がつく。

感想は?

 「お金をもらって色んな乗り物に乗れるなんて、ズルいぞ羨ましいぞ」というのが正直な感想。ガキっぽいのはわかってるけど、やっぱり乗り物ってのはワクワクしてしまう。しかもモノによっては著者が運転までしている。なんと羨ましい。

 こう素直に言えるのも、インタビューに登場する人の多くが、その仕事を楽しんでいるのが伝わってくるため。例えばジェットフォイル(水中翼船)に登場する山城一志船長。

「きのう来るとよかったですねえ。3メートルぐらいのいい波があったんですよ。今日くらい(波高1.5~2m)だと、港を出てからほとんど操作しなくてもいいですから」

 波乗りかい。実際、憧れてその仕事につく人も多いようで、地下鉄の運転士T氏は「子供のころからの夢だった」と語る。客にとって満員電車は窮屈なもんだが、運転士には腕のみせどころだそうで、「朝は満員だったんですけどねえ……」と、取材で自慢の腕を見せられないのを残念がっている。

 やっぱり乗り物はスピードを出す時が楽しいようで、電車でも「急行の運転は別格」で「そりゃあブッ飛ばせますから(笑)」だし、潜水艦も「水中を全速で走っているときは、気持ちがいいです」。潜水艦はスピード感だけでなく、「スピード出してると、コワイくらいに舵が利きます」と、応答速度の向上が嬉しい模様。

 逆に応答性が悪い代表は巨大タンカー。

約30km/hのナビゲーション・フルで航行中、アスタンを使って急減速をかけても(全速逆回転)、完全に停船するまでは実に7~8kmを要する。目指す港にアプローチする場合でも、15km手前から少しづつ減速していくのだという。

 運転の感覚で面白そうなのが、ホバークラフト。取材対象は大分ホバーフェリー(株)。大分空港の航走路はS字型に曲がっていて、ここを抜ける際は横滑り、つまりドリフト走行で走り抜ける。その理由もラリーカーと同じで、「いちばん速くあのS字を抜けるためのライン取り」だとか。

 そのホバークラフトを自家用にしちゃったのが、ホクセイ(株)の山下三男氏。音がすさまじく「一旦エンジンがかかったら、もう隣とは話せない」。逆に静かなのがグライダー。ただ、静穏かというとそうでもなくて、アクロバット飛行をされた著者は悲鳴をあげている。落下する感覚に弱いのかしらん。

 とても「運転」とは言えそうもないモノの記事も興味深い。読みどころが多かったのが、アシモ。「そもそも“運転する”ようなモノなのだろうか」と著者も当初は疑問を呈していたけど、答えはイエス。プレイステーションのコントローラーに似た、ただし大きさは倍ぐらいの携帯コントローラーがあって、中央部の一対のジョイスティックで指令を出します。

 自律性が高いのも良し悪しで、広瀬真人エグゼクティブ・チーフエンジニアにカメラマンが肩を組んでもらうように頼んでも断られている。「荷重の変化に反応して勝手にグニャグニャ動く」そうで。時期ネタで「原発作業に使えるか」みたいな疑問があるけど、それはできない模様。「地図情報に基づいたマップを事前にインプットしておかなければならない」。平常時ならともかく、今回みたいなケースじゃ、アチコチに崩落した落下物で障害物だらけになってるはずだし。

 「ああ、都会っ子だなあ」と感じたのが、馬。「手綱を引けば曲がってくれるし、止まってくれる。横腹を足で叩けば、動いてくれる」と、一応は乗り方の基礎を身につけながらも、「それすら果たして本当にこっちの指令によるものなのか、その確証がまったくもてない」と不安を告白している。なんとなくわかる気がする。

 この手の職業人へのインタビューによくある、自分の職業への誇りが伝わってくるのもいい。冒頭の引用は、「ボタン押し係」と揶揄されたモノレール運転士が腕を見せ付けたエピソード。ちなみに「緊急時に備えた技量維持」のため、「一日に一度、ATC(自動列車制御装置)に切り替えて、必ず手動運転をする」そうです。

 以下、余談。

 80年代にインドを旅行した時の話。初めての海外旅行とあって、ガイドブックを必死に読み漁って出かけた。「地球の歩き方」に曰く、「インドではSLが現役で走っているが、勝手に撮影してはいけない。列車も国力を測る要素の一つとして、軍事機密扱いとなっている」、と脅されビビっていた。

 西方のジャイサルメールへ向かう乗換駅でホームに入ってきたのが、期待のSL.。「おお、いいモンがきた、ぜひ近くで観察しなくては、でも捕まったら困るしなあ」などと興味シンシンで機関車を見ていたら、運転席近くで男が手招きしている。「げ、俺は捕まるのか?」と恐々よっていくと、その男、運転席の近くで喜色満面でポーズを取っている。「写真を取れ」と言言いたいらしい。

 結局、数枚の写真を取らせてもらった。今思えば、彼は運転士という職業に強い誇りを抱いていたんだろう。だから、憧れの目で見ていた私にファン・サービスしてくれたわけだ。あの国だと、乗り物の運転士の社会的地位が日本とは違うんだろう。ジャイプールでも、「俺は昔ミグ17を操縦していた」と言う男に世話になった。

 どうにも人ってのは、乗り物を運転するのに喜びと誇りを感じる生きものらしい。日本の物語に登場するロボットの多くが、パイロットが乗り込んで操縦する形態なのも、そのせいなんだろうか…などと強引にまとめてみた。

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