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2011年7月11日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 北海道独立 4」電撃文庫

「待て、待ってくれ! 俺はもう組織から……」
「抜けることは許されん」

どんな本?

 2000年9月28日発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」のノベライズも、もうすぐ10年目。冊数にして29冊目(ガンパレード・オーケストラを入れると32冊目)の長期シリーズ。レーベルが「電撃文庫」ではなく実は「電撃ゲーム文庫」であるため、広報では不利な立場であるにも関わらず、安定した人気を保っている模様。もちっとファンの期待に応えてくださいメディアワークスさん。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2011年7月10日初版発行。文庫本で縦一段組み約280頁は、ほぼ前巻と同じ。職人芸ですな。8ポイント42字×17行×280頁=199920字、400字詰め原稿用紙で約500枚。相変わらず解説・あとがきはなし。きむらじゅんこ氏の挿絵も増えてきた。今作は「北海道独立」シリーズの完結編だけに、根室・釧路近辺で激しい戦闘が展開する。好きな人は GoogleMap などを参考にしながら読むと面白いかも。

 人物は5121小隊の面々が中心ではあるものの、「もうひとつの撤退戦」以降で増えた小説オリジナルの登場人物も曲者が多い。特にこの巻はシリーズ全体を通しての設定を再確認する場面も幾つかあるので、読むなら素直に「5121小隊の日常」から読み始めよう。連作短編集なので味見には最適です。

どんなお話?

 独立を宣言した北海道共和国だが、市民生活は今までと大きく変わらず、通貨も日本の紙幣が流通していた。襲来した幻獣を迎え撃つ自衛軍に対し、ロシア軍はシコルスキーの命令に従い自衛軍を撃つ部隊と、自衛軍に投降する部隊に分かれる。再び現れた白銀の巨人を迎え撃つ壬生屋に下りた指令は…

感想は?

 表紙は血染めカトラス二刀流の未央ちゃん。北海道独立シリーズは、戦場の美少女ってテーマなのか、凛々しい表情の女性陣で統一してる。

 榊さん、PSP でリプレイしたのか、原作のコアなファンを喜ばせるシーンが随所に見える。またはゲームアーカイブスで獲得した新規ファンを意識したのかな。神威が出た時点でラボ関係が絡むのは当然とはいえ、他にも維新以来のガンパレ世界の歴史や、芝村関係の話がちょろちょろと。奴が狩と料理以外で真面目な顔をするのは初めてじゃなかろか。原さんにナイフ与えちゃらめぇ。

 例えば「元気に走り回る子」とか言われてる新井木。ゲーム中で彼女に話しかけるの、ちょっと大変なんだよね。他の小隊メンバーは普通の速さで歩いてるんだけど、彼女だけは常に走ってるから、なかなか捕まえられない。まあ「交換しない?」ぐらいしか役立つコマンドを持ってないから、あまり困らないんだけど←をい

 野間集落で壊滅したシンジケートも相当に回復した模様。阿漕な恐喝も駆使して常に獲物を追う姿勢は忘れない。が、意外な刺客が。果たして地なのかつながってるのか。いろいろと謎の多い人です。にも関わらず、容赦なく新兵を徴集するあたりはさすがというか。ギャルソーン以外はちと忠誠心に問題があるが。

 北海道独立ではいつもの役目を萌に奪われた彼女も、ちゃんと登場場面が用意されてる。あの職業って相当なハードワークのせいか、豪快な人が多いって印象が強いけど、彼女ならちゃんと勤められそう。

 滝川と森の地味カップルも相変わらず。森さんのいじけ方が可愛いったらない。「ひと~つ、ふた~つ」って感じかな。滝川は良き師に恵まれたようで、早速実行に移すあたりが素直でよろしい。内容は…取材の成果だろうか。階級的に滝川は彼の下になるだろうし、将来は優れたコンビになると思うんだけど、どうなんでしょうねえ。

 小説オリジナルの人物では、私のご贔屓の桜沢レイちゃんの登場場面が多いのが嬉しい。初対面じゃあれだけいじめられたのに、今じゃちゃっかりカスタムして貰うとは、流石レイちゃんくじけない。こういう「勢いだけが取り得なのを自覚してる人」って、どうにも憎めないんだよなあ。

 災難なのが植村中佐。ついに呼び方までアレで定着した模様。拘ってそうなったんだから、本望なんだろうか。しかしその自慢が徒になったのか、ツいていたのか。やっぱりねえ、とりあえず目立つ所に撃っちゃうよねえ。

 戦闘場面では、ロシア軍との共同戦闘なのが趣を添えてる。やっぱりねえ、あの軍はこういう戦い方が似合うというか、ハマりすぎというか。Al Stewart の Roads to Moscow でもかけながらお読みくださいな(→Youtube)。

 この巻の最大の衝撃は、最後の一行。うおおお!て感じ。健康にお気をつけ下さい、榊さん。

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