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2011年6月22日 (水)

恒川光太郎「夜市」角川ホラー文庫

 今宵は、夜市が開かれる。
 夕闇の迫る空にそう告げたのは、学校蝙蝠だった。学校蝙蝠は小学校や中学校の屋根や壁の隙間に住んでいる生き物で、夜になると虫を食べに空を飛びまわるのだ。  ――夜市

どんな本?

 第12回(2005年)日本ホラー小説大賞受賞作の「夜市」と、それに続く受賞第一作「風の古道」を収録した処女作品集。いずれも、日常から少し逸れた世界に迷い込んでしまった少年の目を通して、この世界とは異なった道理が働く、異形と怪異に満ちた、だが少し懐かしい雰囲気の世界と、そこで生きる者たちを語る。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 初出は野性時代2005年7月号。2005年10月に角川書店より単行本で刊行。私が読んだのは角川文庫版で2008年5月25日発行。文庫本縦一段組みで本文約204頁。9ポイント40字×16行×204頁=130,560字、400字詰め原稿用紙で約327枚。文庫本としても軽い部類。

 文章の読みやすさは抜群。「学校蝙蝠」など不思議な言葉は出てくるものの、この人の手にかかると妙に聞きなれた言葉になってしまうから不思議。

収録作は?

 「夜市」と「風の古道」の二作を収録している。いずれも長めの短編というか、短めの中篇というか。

夜市(よいち)
 大学二年のいずみは、元同級生の裕司に誘われて、夜市に出かけた。岬の公園の奥、森の細い林道に向こう、ほのかに光る青い光の中で、夜市が開かれていた。そこには静かに無数の店が並び、奇妙なものばかりが売られていた。
 出だしの「学校蝙蝠」が、この作家の特徴を巧く現している。幼い頃に友達と交わした「不思議な物語」、いわゆる都市伝説に触れた時の感触を、鮮かに思い出す。口裂け女とか、あの手のシロモノ。文庫本で90頁ちょいの短い作品にも関わらず、そういった「奇妙な人物・ものごと」のエピソードが、ぎっしり詰まっている。
 ホラーと銘打つだけあって、夜市に出る店も奇妙な品揃えばかり。いきなり「岩に突き刺さった何でも切れる剣」なんてのが出てきて、「ははあ、こりゃエクスカリバーの類か」などと思ったら…。このヒネり具合には脱帽。
 「こりゃ油断できんわい、たしかに露店って胡散臭いよね」などと思って読み進めると、物語はとんでもない方向へと進んでいく。語り口こそ静かで朴訥な感すらあるものの、読後感は壮大で爽快。
風の古道
 私は7歳の時、父につられ小金井公園に花見に行った時、はぐれてその古道に迷い込んだ。その道は舗装もされておらず、両側に家が立ち並んでいるものの、どの家の玄関も道に面していない。電信柱も郵便ポストも駐車場もなく、人気もなかった。
 前作の「夜市」同様、異世界に迷い込んだ者の物語。やはり前作同様に登場人物は再び同じ世界に足を踏み入れ、その怪異に触れる。微妙にこの世界と接触を保ち共存しつつ、だが密かに存在を続ける「古道」。
 この作品でも、古道の中で、または関わりながら生きている者たちの物語が豊かに語られる。未舗装であることでわかるように、この世界と共存しつつも、微妙にノスタルジックな雰囲気の世界だ…と思ったら、微妙に「夜市」の世界とリンクしている模様。

 いずれも軽く読み通せるものの、物語は二転三転し、スポットを浴びる人物も移り変わっていく。または千一夜物語のように、入れ子構造で物語が語られる。かと言って決してややこしい構造をしているわけではない。幼い頃、興奮と少しの恐怖が混ざった気持ちで夜店よ冷やかした、あの気持ちが甦ってくる。

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