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2011年6月28日 (火)

ジョン・エリス「機関銃の社会史」平凡社 越智道雄訳

「これまで、多くの戦争の勝敗を分けてきたのは、士官や兵士たちの突撃と技量、勇敢さだった。しかし、今度の戦いを勝利にみちびいたのは、ケント在住のもの静かな科学に携わる紳氏だ」  ――Maxim, My Life

どんな本?

 現在は多くの軍で歩兵の主要兵器となっている機関銃。だが、意外な事に、機関銃の登場した当初は、ヨーロッパの正規軍は機関銃を冷淡に扱った。それはなぜか。どのような者がどの様に機関銃を作り、誰がどこでどのように機関銃を使ったのか。そして、主要な軍はどの様に機関銃を導入していったのか。産業革命以降の国際社会と軍事の変化を、機関銃を軸として分析する。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 原書の初版は1975年の The Social History of the Machine Gun, bu John Ellis。翻訳は(たぶん)1986年版を元にしてる。日本語版は1993年4月10日初版発行。ハードカバー縦一段組みで本文約282頁。9ポイント44字×17行×282頁=210,936字、400字詰め原稿用紙で約528枚。読むには手頃な分量。

 軍事系の本はお堅い言い回しが多いのだが、これは例外。むしろ軍事に疎い一般人向けに書かれた雰囲気がり、必要な専門知識は最小限で済むようになっている。ただ、私もこの一年ほどでソレナリに軍事系の本を読んできたため、この手の本に慣れたせいかもしれない。必要な知識は、士官と下士官と兵の違い・小隊と大隊と連隊の関係・騎兵と歩兵の違いなど、初歩的なレベルに収まっている。

構成は?

 1986年版への序文
第一章 新たな殺戮法
第二章 産業化された戦争
第三章 士官と紳士
第四章 植民地の拡大
第五章 悪夢――1914~16
第六章 時代の象徴
第七章 新しい戦争の流儀
 訳者あとがき
 原注
 文献補遺
 人名索引

 多忙な人は第一章だけ読めば、この本の主題はわかる。第二章以降は、第一章で述べた概要を豊富なエピソードで詳細化し裏付け、最後の第七章で再び全体を俯瞰する構成となっている。全般的に同じテーマを繰り返す感があり、作者の主張が読者の頭に入りやすい構成となっている。

感想は?

 最初にお断りしておく。私はこの作者にいい印象を持たない。最後の第七章の文が気に入らないからだ。

いまだに技術は人類を救うと信じている者もいるが、こういう楽観主義者たちは、いずれ日没までもがネオン製になっても、それに向かって意気揚々と進んでいくつもりで、実は科学技術によってその日没へと運ばれていく自らを予想するようなものだ。

 だが、読書体験としては相当に刺激的だ。とにかく内容が挑発的だし、先に述べた構成の妙もあり、読書中は大いに感情を動かされる。気に食わないが、面白いのは否応なしに認める。

 全体を通して、同じ主題が繰り返される。それはこんな感じだ。

  • 機関銃が登場した当初、欧州の主要な軍はあまり興味を示さなかった。士官の大部分は産業革命に対し保守的な地主階級の出身者で、将兵の技量や勇敢さ、騎馬突撃や銃剣を重要視していたからだ。
  • 迅速に機関銃を取り入れたのはアメリカ軍。労働者不足を機械で補う文化風土があり、軍も小規模で「頭の固い代々の士官階級」がいないのが幸いした。
  • アメリカでは民間でも機関銃が活躍した。そのひとつはギャングで、今でも映画などではトミーガン(トンプソン短機関銃)がギャングの象徴となっている。もう一つは労働争議。「トミー・ガンの二、三丁もなしで鉱山会社をやっていくのは不可能だ」
  • 欧州の軍でも植民地の征服では機関銃が大活躍した。だが欧州の主要軍はこれも無視した。「野蛮な原住民相手の戦いと、文明的な欧州軍との戦争は別」と考えていた。
  • 欧州軍に過酷な教訓を与えたのが第一次世界大戦。機関銃を効率的に使うドイツ軍に対し、多大な犠牲を払って英仏は少しづつ機関銃の有効性を学んだ。

 主題の個々の段階を、豊富なエピソードで裏打ちしていく。テーマの性質上、多くのエピソードは血生臭い虐殺となる。想像力の豊かな人には耐えられないかも。

 そのエピソードの一つがガトリング銃の発明者、リチャード・ジョーダン・ガトリングの言葉。

もし機械を、機関銃を発明できたら、とね。あの速射性があれば兵士100人分の仕事を一人でまかなえるだろう、大袈裟にいえば、それは大軍の必要性を無用にし、その結果戦禍や疫病にさらされる兵士を大幅に減らすことができるだろう、と考えたのです。

 これ、一般には「戦争の被害を減らすために大量殺戮兵器を作った」愚か者、みたく解釈される事が多いし、著者ももそんな風に解釈してるフシがあるけど、この前が重要。

それも戦いで死ぬのではなく、病気や軍務につきものの疾病が原因で死んでいくのです。

 当時は衛生概念が発達していないため、戦死より赤痢やペストで死ぬ将兵の方が多かったわけです。この辺はウイリアム・H・マクニールの「疫病の世界史」をどうぞ。

 機関銃の売り込みで頑張ったのがノーデンフェルト会社のヨーロッパ販売代理人バジル・ザハロフ。モーレツ営業の権化みたいな人で、ライバルのマクシムを蹴落とすためにマクシムのデモンストレーションに顧客のオーストリア皇太子を行かないよう工作し、デモが巧くいけば「使ってたのはノーデンフェルト社の銃だ」とデマを流し、マクシム社の工場の切削工を抱きこんで銃を故障させる。どこのバレエ漫画じゃい。

 かように頑張ったが、なんとマクシムとノーデンフェルトが合併してしまう。それでもくじけないザハロフ、今度は賄賂でバルカン半島の某国の役人を抱きこむ。この手口がまた見事。

 アフリカでは活躍した機関銃だが、アジアじゃ様子が違った模様。

ビルマの地形は機関銃には向かず、ほとんど使われなかったらしい。インド遠征でも、地形が大きな問題となった。とくに北西辺境部の地形は機関銃には致命的だったようだ。この山岳地帯では、いつでも機関銃よりも曲射砲(迫撃砲)の方が優先的に使われた。

 当時の「インド」はパキスタンを含むから、今のトライバル・エリアかしらん。あの辺は今でもパキスタン政府が掌握しきれてない地域で、タリバンの格好の隠れ家になってるんだよね。そりゃISAFも苦労するわ。

 機関銃は兵を魅了する不思議な力を持っているようで、それをうかがわせるエピソードも幾つか載ってる。以下はイギリス軍に入隊したアフリカ人の話。

「この下士官はイギリス軍に入ったきっかけからして特殊だった。彼はスーダンでイギリス軍と戦ったときに、すっかりマクシム銃の虜となった。そしてスーダンからアフリカ大陸を歩いて横断し、西アフリカ辺境部隊に入隊を希望した。最初からそこで働きたいという、明確な目的意識を持って入隊したのだ」

 他にも頭が固く機関銃に対応した訓練ができない欧州の軍に対し、常に前線に身を置くギャングは熱心に練習していたなど、面白エピソードが満載。

 今の兵器で、当時の機関銃に該当するのはロボット兵器かしらん。あれも米軍じゃ前線の兵には評判がいいけど、反発する勢力も多い模様。PCやインターネットにも拒否感を示す年配の経営者は多いし、人って、いつもそんなモンなのかしらん。

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