« GoogleBooksの関連書籍一覧の仕様は? | トップページ | 鵜飼保雄・大澤良編著「品種改良の世界史 作物編」悠書館 »

2011年5月29日 (日)

正田陽一編「品種改良の世界史 家畜編」悠書館

 家畜とは「人間が利用する目的で野生動物から遺伝的に改良した動物」である。
 我々人類の祖先が。野生動物を捕えて飼育し、人間の管理のもとで繁殖させ、長い年月をかけてその有用性を高める方向に育種して、野生の祖先種とは明らかに区別しうる特徴を備えるにいたった動物が家畜である。

どんな本?

 ウシ・ウマ・ヒツジ・ヤギ・ブタ・ニワトリなど、家畜として飼われている動物について、家畜化されてきた歴史や代表的な品種の特徴と来歴、また現代の育成事情や品種改良技術の概要などを総合的に語る。雰囲気、農業大学畜産科の一回生向けの教科書、といった感じ。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2010年11月5日初版発行。著者は松川正/伊藤晃/楠瀬良/角田健司/天野卓/三上仁志/田名部雄一。A5ソフトカバーで本文約437頁+参考文献5頁+索引5頁。9ポイント48字×19行×437頁=398,544字、400字詰め原稿用紙で約997枚の大著。

 著者が日本語ネイティブなのがありがたい。ときおり説明なしにホモやヘテロなど遺伝学の基礎用語が出てくる事を除けば、ほぼ日常的な言葉で語られるため、それほど難しくない。この辺は、競馬が好きな人なら詳しいと思う。

構成は?

総説 家畜育種の歴史と遺伝学の進歩 正田陽一
第1章 ウシ(肉牛) 松川正
第2章 ウシ(乳牛) 伊藤晃
第3章 ウマ 楠瀬良
第4章 ヒツジ 角田健司
第5章 ヤギ 天野卓
第6章 ブタ 三上仁志
第7章 家禽 ニワトリ/シチメンチョウ/ウズラ/アヒル/ガチョウ 田名部雄一
 参考文献
 索引
 著者略歴

 一般向けの解説書を期待する人は、最初の総説だけ読めば充分かも。章ごとに著者が違うことでわかるように、各章は独立しているので、興味があるところだけを拾い読みしてもいい。それぞれの章内の構成は、基本的に「起源と特性」「伝播と発達」「系統(品種)」「世界の現状」「日本の現状」といった流れになる。
 ところで我々日本人に縁の深いブタがウマとヒツジとヤギの後になってるのは、何か意味があるんだろうか?

感想は?

 素人の私にとっては、冒頭の総説から読み応えたっぷり。まず「家畜化しやすい動物種」の特徴を箇条書きでまとめてある。曰く。

  1. 群居性が強く順位制で群れの秩序を保つ。ヒトがボスになれば群れをまとめやすいのですね。
  2. 雄が性的に優位で配偶関係が不定。都合のいい雄の子をハーレムで沢山作れば品種改良しやすい。
  3. 大胆でヒトに慣れやすい。
  4. 草食性または雑食性で、なんでも食べる。
  5. 環境への適応力が強い。
  6. 性質が温順で行動が遅鈍。

 野生動物が家畜化する過程で起こる変化も共通しているそうで。

  1. 体格の小型化:飼料が不足しがちなため。例外はウマ。
  2. 頭骨の短縮:下顎骨が小さくなる。イノシシは第一世代の10年の飼育で短縮があったそうな。
  3. 繁殖能力の増大:性成熟の早期化・繁殖季節の消失・一腹産子数の増加。
  4. 変異の増大:同種内で系統間の違いが大きくなる。チワワからセントバーナードまであるイヌが代表。
  5. 自己防衛力の低下:ただし病気には強くなる場合もあります。ま、当然だよね。

 キチンと系統だった家畜の品種改良は18世紀のロバート・バークウェルが始まりだそうで、厳密な基準を設けて優れた固体を選んで繁殖させ、近親交配も駆使し、親子関係の記録もした。それまで家畜は勝手に交配してたわけです。その結果は目覚しく、1700年の食肉用雄牛の平均体重170kgは1786年に380kgになったとか。

 乳牛も16世紀には年間の乳量が500~700kgから、現代は1970~75年のアメリカで7336kg、2000年には9630kg。ここ30年の急激な成長の主な原因は「凍結精液を中心とする遺伝資源の国際商品化」だとか。和牛だと1947年には7%だった利用率が現在では99%だってんだから凄い。評価の高い種雄牛は10万頭以上の子を残すとある。畜産ってのは、ハイテク産業なわけです。

 野生種と交雑可能な家畜も多いけど、ヒツジは面白い。なんと、染色体の数が違っても問題なく雑種が残るとか。ヒツジは染色体が54本、ヨーロッパムフロンとアジアムフロンも54本。ウリアルは58本でアルガリは56本。

イラン高原ではアジアムフロンとウリアルの雑種集団が自然に形成されており、染色体数54~58本までのさまざまな交雑種が生息している。中には、アジアムフロンとウリアルの交雑だけではあり得ない55本や57本の染色体数をもった雑種もみられる。

 ウシやウマはヨーロッパが支配的な中で、中国が大きな役割を果たすのがブタとニワトリ。ま、いずれもヨーロッパで改良され20世紀に再輸入されるんだけど。その中国、近年の養鶏の伸びが凄まじい。1970年の鶏卵生産量1,533トン→2005年に24,348トン、肉だと971トン→14,689トン。なんと15倍の伸び。

 皮肉なのが野間馬。寛永年間に松山藩が農民にウマの増殖を委託し、大きい(4尺=121cm)以上のウマは買い上げた。小さいウマ同士の交配が続き小型化したが、小型のウマは急斜面や細道、農作業で有用だった。明治政府は大型の軍馬を必要としたので小型ウマの生産を禁止したが、ミカンの収穫に不可欠なので密かに繁殖し、1988年に日本馬事協会に日本在来馬と認定される。波乱万丈っすなあ。

 と、まあ、遺伝学と歴史を行ったり来りしながら、じっくり読みましょう。あー、ヤギ肉のカレー食いてえ←結局それかい

関連記事

|

« GoogleBooksの関連書籍一覧の仕様は? | トップページ | 鵜飼保雄・大澤良編著「品種改良の世界史 作物編」悠書館 »

書評:歴史/地理」カテゴリの記事

書評:科学/技術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/201750/51803478

この記事へのトラックバック一覧です: 正田陽一編「品種改良の世界史 家畜編」悠書館:

« GoogleBooksの関連書籍一覧の仕様は? | トップページ | 鵜飼保雄・大澤良編著「品種改良の世界史 作物編」悠書館 »