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2011年5月15日 (日)

河合幹雄「日本の殺人」ちくま新書

 刑事訴訟法の規定で原則とされていることと現実が違っているわけである。このような食い違いはよくあることである。むろん法律違反をしているわけではない。原則には例外があり、例外のほうがほとんどなだけの話である。

どんな本?

 日本では殺人事件が増えているのか・どんな人が殺人を犯すのか・組織的な犯罪は多いのか、など、日本の殺人事件の実情を資料や統計から読み取ろうとする。また、後半では、逮捕後の犯罪者がどのように扱われるかを、拘留・服役・そして出所後の生活などから解き明かす。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2009年6月10日初犯もとい初版発行。新書で縦一段組み約262頁。9ポイント40字×16行×262頁=167,680字、400字詰め原稿用紙で約420枚。新書にしてはやや分量が多目かな。文章は新書らしく読みやすさに気を配ってはいるものの、やはり法律関係の話になると、どうしても漢字やお堅い言葉が多くなるのはご愛嬌か。

構成は?

 まえがき
第一章 殺人事件の諸相
第二章 捜査、刑務所生活、そして出所後
第三章 ひとを殺すとはどういうことか
終章 社会的大転換の裁判員制度
 あとがき
 参考資料・文献

 「終章 社会的大転換の裁判員制度」の冒頭、「まとめとして」の数頁で、この本の内容を著者自ら巧く要約している。全部を読むのが面倒くさい人は、ここだけ読めば著者の主張は伝わるだろう。

感想は?

 書名からワイドショーっぽい扇情的な内容を期待したのだが、全然違って至極真面目な本だった。まあそんなモンを期待するほうが間違ってるんだろうけど。むしろ著者はマスコミがワイドショー的な事件報道を苦々しく思っているようで、随所にマスコミ批判が出てくる。

…「相次いでいる」という表現は、増加しているといえばよさそうなものであるが、実は大幅に減少していたので、増加といえばウソになる。そこで、使われたのが「相次いでいる」という用語である。

 はい、今後はマスコミが「相次いでいる」って言葉を使ったら気をつけます。こういう印象と現実の違いは冒頭でも指摘していて、例えばヤクザのテッポウダマがビビって実行前に自首した場合でも、統計上は殺人事件(殺人予備罪)として扱われるそうな。ちなみに処分は起訴猶予が相場だとか。

 殺人がどれぐらい起きているかというと、2002年の統計で10万人あたりの殺人発生率が、日本は1.2、仏4.1、ドイツ3.2、英3.5、米5.6。しかも日本の多くは心中だそうで。加害者と被害者の関係でも子殺しが1/3で、核家族内だけで過半数を超える。面識がないのは10%強と、滅多にない。

 厳罰化の実態も興味深い。2004年の改定で厳罰化したように見えるけど、80年代から実際の量刑は上がってきていて、判決に大きな影響はないそうな。本書はこういう現場と書類の違いをアチコチでバラしていて、冒頭の引用もそう。刑事訴訟法では、警察は逮捕後48時間が過ぎたら送検か釈放かせにゃならず、送検なら検察に送って拘置所に身柄を移すのが原則だけど、現実には留置所に留め置くのが大半だそうで。

 まあ、その方が巧く行くって現実はあるにせよ、それを「例外のほうがほとんどなだけの話」と言ってしまうのは…うーん。個人的には実情に合わせて少しづつ法を変えるのが理想だと思うんだけど、どうなんだろ。

 留置所・拘置所・刑務所の違いも書かれている。留置所は警察の管轄で取り調べ中に入る所で、看守は警官。拘置所と刑務所は法務省の管轄。拘置所は未決拘留者と死刑囚が入り、そこそこ自由がある。刑務所は受刑者が入る。どっちも国家公務員の刑務官が管理する。緊急時に備え職場近くの官舎住まいだそうで。

  刑務所も種類があって、累犯者&ヤクザと初犯にわけ、更に長期と短期で分けるので大雑把には4種類がある。下手に若い犯罪者をヤクザと一緒にしたら、スカウトされるとか。そりゃそうだわな。なお殺人犯は主人としちゃ比較的扱いやすいというのも意外。服役囚で最も多いのが薬物中毒、次いで窃盗常習犯。

 ジャンキーが扱いにくいのは当然として、窃盗常習犯は「身寄りがなく、寝泊りできる家屋もなく、身体的にも健康でなく、知能は知的障害にギリギリ判定されない程度」「年齢はかなり高い。(略)日本では40代、50代の順に犯罪者が多く」とある。殺人犯が云々というより、他が酷すぎるんですね。なお、「もっとも扱いにくいのは、放火犯」だそうです。

 酔っての乱行が減った原因として、飲み屋のレイアウトが変わり隣のグループと充分な空間が確保された点を挙げたり、男女の諍いによる事件じゃ別居可能な経済的条件が重要ではないか、などと、学者にしては現場の事情を重視してるのも本書の特徴かも。法律関係の人って机上の空論を振りかざすって印象があったけど、改める必要がありそう。

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