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2011年5月 9日 (月)

ドゥーガル・ディクソン「アフターマン 人類滅亡後の地球を支配する動物世界」ダイヤモンド社 今泉吉典訳

5000万年後の世界では、どんな動物が生存しているだろうか。その様子を、進化学と生態学の基本原理のあれこれを組み合わせて、私は想像してみた。

どんな本?

 5000万年後。人類が滅亡した地球では、どんな生物が繁栄しているのだろうか?この子供っぽく、ある意味おバカな問いに対し、科学的な知識に趣味と妄想を加え、楽しみながらも誠実に考察し、流麗なイラストを多数添えて図鑑風に答えた本。冒頭の引用にあるように、進化学・生態学に加え、大陸の移動による気候や環境の変化なども併せ、一見荒唐無稽ながらもちゃんと理論的な裏づけのある、面白くて楽しい世界を展開させている。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 原書は AFTER MAN by Dougal Dixon, 1981。日本語版は2004年7月8日初版発行。ハードカバー縦一段組みで約243頁、9ポイント42字×18行×243頁=183,703字、400字詰め原稿用紙で約460枚…だが、紙面の1/3~1/2近くを図版やイラストが占めている。

 日本語訳は元東京科学博物館・動物研究部部長の今泉吉典氏が監修。日本語の文章は素人向けの科学解説書として標準的な読みやすさだろう。ただ、一部、専門用語の使い方で、植食動物(草食動物?)や剣歯トラ(サーベル・タイガー)など、「ああ、いかにも専門家が訳した文章だなあ」と思わせる部分がある。

 とまれ、この本の魅力の多くは、登場する動物たちのイラストにある。奇想天外ながら、生き生きと動き出しそうな迫力に満ちた未来の動物たちの魅力は、表紙を見れば明らかだろう。

構成は?

発刊に寄せて デズモンド・モリス
序文
進化 細胞遺伝学 自然選択 動物の行動 種類とその発生 食物連鎖
生命の歴史 初期の生物 爬虫類時代 哺乳類時代 人類時代
人類後の生物 人類後の世界
 温帯の森林と草原
 針葉樹林
 極地とツンドラ
 砂漠:乾燥の地
 熱帯草原
 熱帯林
 島と島大陸
未来 生物の運命
付・系統樹 用語解説 索引 謝辞

 この本のハイライトは、なんと言っても「人類後の生物 人類後の世界」。各気候区分を、更に草食動物・捕食動物・林床など生態学的なニッチに分け、それぞれを文章3頁+イラスト1頁で紹介していく。その前の「進化」と「生命の歴史」は生物学の「おさらい」なので、忙しい人は読み飛ばしてもいい。

感想は?

 ミーチング可愛い~!

 舞台は5000万年後の地球だ。地殻の運動で北アメリカ大陸はアラスカがシベリアとつながり、南アメリカは大きな島となる。アフリカ大陸はヨーロッパにつながって地中海は山脈が盛り上がる。オーストラリアはユーラシアにぶつかって南シナ海が内海になっている。うーん、そうなりますか。

 そんな世界で繁栄しているのは、哺乳類と鳥。それはなぜかというと。

系統進化という階段の末端近くに位置する動物ほど、進化の速度が速い傾向にあることはまちがいない。また、属の存続期間が短いものほど、そのあとを占める新たに進化した属がより速やかにあらわれる。(略)進化の度合いが大きい陸の生物の属の入れ代わりは、海の生物の場合より激しい。

 他にも、幾つかの法則に従って未来を予測している。

  • ベルクマンの法則:系統が同じなら、極地近くに住む動物の方が体が大きい
  • 植物は、動物より進化の速度が著しく遅い
  • 植食動物は植物の蓄えているエネルギーを、最高で10%ぐらいしか活用できない。奇妙なことに、この10%という利用率は、食物連鎖の各層に共通している。
  • 過酷な環境条件では、適応できる動物の種類はごく限られているため、種一つ一つの個体数が多い。

 で、ミーチング。ツンドラの土中に巣を作る囓歯類で、草やコケで要塞を作っていく。なんかシロアリみたいだ。いや昔ハムスターを飼ってたんで、こういうのに弱いのよ。ハムスターも基本的に穴の中で暮らす生き物なんで、こういう設定は妙に説得力を感じてしまう。

 笑っちゃうのが、クレフト・アンテロープ。長い角を持つ有蹄類なんだけど、背中にでっかい「うちわ」を抱えてる。まるでステゴサウルス。うちわの役割はというと、つまりはラジエーター、冷却版です。しかも、このうちわにはもう一つ秘密があって…

 恐竜みたいといえば、ランディホーンとジャイガンテロープもなかなかの迫力。哺乳類としてはサイに似てるけど、むしろプロトケラトプスやトリケラトプスから襟巻きを削除した、みたいな雰囲気がある。このご先祖さんというのが…いや変わりすぎだろw なんとうメタボリック。

 表紙を飾っているのは、ナイト・ストーカー。孤立した火山列島で進化した、という設定だと、「そりゃ奇妙でも仕方ないか」って気になる。あの変な格好にもちゃんと理由があって…まあ、ご先祖がアレじゃあ、変な姿なのも仕方がないか。

 著者は齧歯類がお気に入りのようで、温帯では齧歯類の末裔を繁栄させている。イラストを見ると、顔や体は鹿っぽかったり狼っぽかったりするんだけど、尻尾が兎だったり鼠だったりする。まあ確かに雑食性で繁殖力も強いけど、ウチのハムスターはお間抜けだったんで、ちと不安だなあ。

 …などと、妄想を逞しくしながら見ていると、いつまでも飽きない本であります。

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