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2011年5月17日 (火)

山本弘「去年はいい年になるだろう」PHP研究所

唐沢俊一「最初は『来年から雑学ブームが来て、テレビに出演する機会が多くなって忙しくなる』って書いてあったから喜んだんだけど、その後がデタラメなんだよね。『岡田斗司夫が50キロの減量に成功して、ダイエット本を出してベストセラーになる』とか」
「ははは、そりゃありえない!」

どんな本?

 「心はいつも15歳」がキャッチフレーズの山本弘が、傑作「アイの物語」を乗り越えるべく挑んだ、長編私小説SF。SFマガジン編集部編「このSFが読みたい! 2011年版」でも国内編5位にランクイン。あの2001年9月11日の悲劇を踏まえ、ロボットと倫理、そして人類のあるべき姿を夢想しする。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 初出は月間文庫『文蔵』2008年8月号~2009年9月号連載。それに加筆・訂正し、2010年4月16日に初版発行。ハードカバー縦一段組みで約422頁。9ポイント45字×19行×422頁=360,810字、400字詰め原稿用紙で約903枚。堂々たる長編ですね。文章はいつもの山元節で、ライトノベル出身らしく抜群の読みやすさを維持しつつ、本格的なSFを展開している。

どんなお話?

 2001年9月12日。人類は、「ガーディアン」に制圧される。彼らは謎の飛行物体で飛来し、各国の兵器を無効化した。「自然災害やテロを防ぎ、人類を保護するために24世紀からやってきたロボットだ」と語る彼らは、実際に多数の地震を予言し、またテロや大事故を未然に防ぐ。

 制圧と言ってもガーディアンは兵器を無効化しテロを防ぎ地震予報を出す程度で政治には介入しない。そのせいか日本は平穏で、せいぜいが保存食やトイレット・ペーパーの買占めが起こった程度。SF作家としてはいくつかのネタが使えなくなって参ったなあ、などと思っているところに、当のガーディアンの一体が現われ…

感想は?

 まずは警告。「アイの物語」と「神は沈黙せず」を未読の人は、本書を後回しにして、ソッチを先に読みましょう。本書で両作品の重要なネタをバラしてる。なんでこういう勿体無い事をするかなあ。どっちも読んでないという人には、「アイの物語」を薦めます。両方共に傑作だけど、「アイの物語」の方が、分量も少ないし連作短編形式なんで、とっつき易いと思う。

 と警告したように、この物語、多分に読者を選ぶ所がある。誰向けかというと、多少は日本のSF界を知っていて、山本氏の作品もいくつか読んでいる人向け。まあ、この辺は私小説という形をとる以上は仕方がないんだろうけど、今まで特撮やオカルトなど濃ゆいネタに題材を取りながらも、決して一見さんお断りではなかった彼にしては、ちと珍しい傾向。

 逆に彼の周辺の人間関係を知ってる人にとっては、ニヤニヤするシーンの連続。冒頭の引用は「と学会」の様子で、そりゃ信じられないだろうなあ。この辺は抱腹絶倒しました、はい。意外と俺たちって大変な世界に生きてるんだなあ。ガーディアンの出現で苦境に立つ作家、逆に仕事を得る人、それぞれの微妙な立場の違いがわかって実に楽しい。ほんと、ちょっとした違いなのにねえ。

 他にも自作への思い入れを語る部分はなかなか熱い。とりあえず「フェブラリイ」を忘れてないのに安心しましたよ、あたしゃ。そうかあ、美葉は書いてて楽しかったのかあ。また、あーいう気楽なコメディも読みたいなあ。作家として星雲賞へのこだわりも正直に語ってて、ちょっと意外に思ったり。星さんでさえ気にするぐらいだしねえ。「SFが読みたい!」も気になっているとは。

 さて、物語はトコトン善意に溢れている(ように見える)ガーディアンが人類に介入してどうなるか、というのが本筋。このガーディアンの行動原理が、モロ に山本氏の倫理観を反映しているのが興味深い。その上で、こういう物語にするあたりが、やはりSF者というかなんというか。善意に溢れているとはいって も、別に人類を完全支配するわけではないので、その辺はご安心を。そういう意味では、J.P.ホーガンの「断絶への航海」がいい比較対照になるかな。あれも示唆するだけで支配はしない存在が重要な役割を担っていた。

 相変わらず読者の吸引力は見事で、未来からの善意?の訪問者なんて無茶なテーマを、私小説という徹底して地に足についた形式にする事で、糠みそ臭いまでの生活感を醸し出している。「ほお、家庭では関西弁で通してるのか」などと妙に感心したり。

 この私小説という形式、なんでこういう形にしたのか、それは結末近くになって明らかになる。つまり、この作品は、特定の誰かに宛てた物語なのだろう。つまりは原稿用紙900枚を費やした私信なわけで、はいはい、ごちそうさま。読んでもらえるのかしらん。 

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