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2011年5月24日 (火)

阿佐田哲也「麻雀放浪記 2 風雲編」角川文庫

「指だろうが足だろうが、千切ってどっかへ持っていくがいいや。手前等が力ずくで何をしようと文句は言わねえ。俺だっていかさまをやる人間だ。今まで力で、金を奪って生きてきたんだ。力に泣くのはしょうがねえ。だが、その力に頭を下げることだけはしねえんだ。覚えといてくんな」

どんな本?

 傑作ギャンブル小説シリーズ第二弾。戦後の混乱期、ただでさえ明日の見えない世の中で、腕と意地と度胸を頼りに一か八かの賭博に明け暮れる、愚かで刹那的な博打打ちたちの熱い生き様を描く。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 初出は1970年1月~6月に週刊大衆連載。私が読んだのは角川文庫版で1979年9月30日初版、1999年6月20日発行の41版、平均して年2回の版を重ねてる勘定になる。文庫本で本文約322頁に加え、江國滋の解説5頁。8ポイント縦一段組み42字×18行×322頁=243,432字、400字詰め原稿用紙で約609枚。

 文章の読みやすさは相変わらずだが、この巻は舞台が関西のため、関西弁の台詞が多くなる。まあ、普通にTVでお笑い番組やバラエティなどを見ていれば大抵の人にはお馴染みだし、あまり問題はないでしょう。

 続き物であるにも関わらず、この巻は登場人物が大幅に入れ替わり、また舞台も関西に移るため、この巻だけでも独立した物語として楽しめる。ただ、私としては、ドサ健の出番が少ないのが肩透かしを食らったようで大いに不満。前巻で問題に挙げた二つ、戦後の風俗と麻雀に関して、この巻はかなり改善されている。詳細は後述。

どんなお話?

 昭和26年10月、未だ戦後の匂いを残す東京。ドサ健や出目徳と白熱した勝負を繰り広げた坊や哲だったが、今はヒロポンにやられ、ヤクザの犬に成り下がっていた。東京に居場所をなくした哲は、西へと向かい再起をはかるが…

感想は?

 あの哲が修羅場をくぐり、若くはあってもかなりふてぶてしくなってる。前巻で「僕」だった第一人称が、この巻では「俺」になり、ヤクザ相手にいっちょまえの口をきくまでに成長した。

「ことわっとくが、世話になったからって忠義立てするとは限らないぜ。そんなの人間じゃねえ、犬だ。俺ァ勝手に生きるんだ」

 前巻の問題だった戦後の風俗も著者はそれとなく気を使い、冒頭から貨幣価値を説明している。これがまた、この作品世界にあった表現で、娯楽作家・阿佐田哲也の手腕に感心してしまう。

 昭和26年頃の六百円は、ストリップをのぞいてコップ酒を軽く呑み、丼飯が食えた。むろん、金というほどのものじゃない。でもドヤ街の段ベッドになら、それで一週間は寝ていられた。ヒロポンのアンプルが、ルートからの直販で25円だった頃だ。

 貨幣価値と同時に、当時の社会背景と作品の雰囲気を、たった三行で伝えきっている。決して教科書には載らないだろうけど、簡潔明瞭に意味を伝えると同時に殺伐とした空気も漂わせる、小説の出だしとしちゃ最高に研ぎ澄まされた名文と言っていい。

 もう一つの問題、麻雀についても、この巻は大きな障害とはならない。この巻で主に戦われるのは、ブウ麻雀とツモ打ちルール。当時の関西のローカル・ルールらしいのだが、いずれも細かい点より順位が重要な要素となる。役の大小の意味が薄れるため、細かい点数計算が出来ない素人にも(傍で見ている分には)充分楽しめるルールとなっている。勝負の決着も、この巻では牌の読みより心理戦の趣が強い。

 いっぱしのバイニンになった哲だが、まだまだ青さは抜けきらない。「どうやって稼ぐか」に徹しきれず、「面白い勝負」に拘ってしまう。そんな哲が、海千山千の関西の化け物どもに立ち向かい、どこまで通用するか。

 この作品のもう一つの側面は、当時の浮浪者たちの生態を描いている点。最近では吾妻ひでおの「失踪日記」が有名だけど、その先駆的な作品としての面白さもある。哲も、金が無いときは駅や路肩で寝る生活だ。

 浮浪者は、こんな場合、つまり小金を握っているとき、酒を呑もうとは思わない。わずかの金で安堵して、ひっくり返って寝てしまおうとも思わない。そんな奴は本格的な浮浪者じゃない。

 いや、「本格的な浮浪者」と言われても。
 前巻に続き、この巻でもロマンスはある。ヒロインの名前がちと酷いが、この小説じゃ仕方あるまい。

「いや、俺はヤミテンは嫌いさ。リーチをかける。大きい手だからな」
「大丈夫なの、そんなこといって。リーチしたらもう手は変えられないのよ」

 前巻も博打打ちの業の深さを実感させる結末だったが、この巻では博打そのものの恐ろしさを痛感させられる。これを読んで、それでも賭博にはまり込もうという人が、どれほど…いや、やっぱり、いるんだろうなあ。

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