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2011年4月 5日 (火)

タタツシンイチ「マーダー・アイアン 絶対鋼鉄」徳間書店

ジョウ、君はどこに落ちたい?

どんな本?

 第7回(2005年)日本SF新人賞受賞作。近未来の東京を舞台に、サイボーグ戦士部隊とアンドロイドの壮絶な戦闘を描く長編バトルSF。石ノ森章太郎氏とヘヴィメタル・ロックと鋼鉄への偏った愛に溢れた、思いっきりおバカで爽快なハードボイルド・アクション娯楽作品。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2006年6月30日発行、ハードカバー280頁。9ポイントの縦ニ段組という書籍にしては珍しいデザインは、雑誌風のポップな雰囲気を意図したのかな?23字×19行×2段×280頁=244,720字、400字詰め原稿用紙で約612枚。やや短めの長編。

 文章は相当に偏ったスタイルだ。恐らくハードボイルドな漫画風を意図したのか、会話はやたらアメリカン風にお行儀が悪いし、地の文も略語や約物を多用している。筒井康隆やライトノベルなどの特異な文体に慣れていないと、戸惑うかもしれない。

どんなお話?

 2036年。兵器は高度化すると共に高価格化し、量産化が効かなくなった。そして究極的な兵器として出現したのが、サイボーグ戦士である。最強のサイボーグ部隊を擁する国家が世界を制する。サイボーグ部隊の戦闘能力を決定付ける「共感」能力は脳の言語野に依存し、欧米が圧倒的な優位を誇る。中でもアメリカの UNDEAD HEROS は、多くのハリウッド映画に出演する世界的な大スターだ。

 経済大国ながらサイボーグ技術では後塵を拝する日本は、封鎖技研の「極東の変人」こと臀(いさらい)壮一が率いる内務局第二課が開発したアンドロイド・タケル01で UNDEAD HEROS に挑戦状を叩きつけるが…

感想は?

 良くも悪くも漫画そのもの。お話の大筋は王道のバトル物少年SF漫画で、強大で人気抜群なアメリカ・チームに日本代表が挑む、という形だ。このアメリカ・チームの造型が、なんとも酷いw 冒頭の引用でおわかりのように、石ノ森先生の名作をモデルにしつつ、徹底的に悪趣味なアレンジを施している。これがヘヴィメタルなセンスなんだろうか。名作へのオマージュは他にも随所にあって、ハインリヒのアレとか、好きな人にはもう涙ドバドバですよ、色んな意味で。

 世界の設定もコミック風味に無茶苦茶。サイボーグ戦士がハリウッドのアクション映画シリーズの人気スターを兼ねているなど、相当に無茶な設定ではあるものの、それなりに読者を煙に巻く理屈がちゃんとついている。こういうの、迫力ある絵がつくと、更に説得力が増すんだよなー。誰か漫画化してくれないかしらん。

 悪趣味なセンスは会話でも発揮されて、やたら「JAP」を連発する。バブル期の好景気がそのまま続いている経済大国だが、時代の主力兵器サイボーグ技術では遅れた軍事小国という設定で、国際的にはエコノミック・アニマル的な蔑視に晒されている、という高度成長期的なコンプレックスを、しつこい程に強調し、読者を挑発する。

 正直、この辺は読んでてとても不愉快だった。「まあ意図的なもんだろうな」とわかっちゃいるが、不愉快なのはしょうがない。往々にして悪役プロレスラーは善玉より収入が多いように、不愉快で憎たらしい悪役こそ娯楽物語の面白さを盛り上げる最大のキーパーソンとなる。これから読む人は心行くまで UNDEAD HEROS に怒りをたぎらせよう。

 そんな溜まりに溜まった読者の鬱憤を、颯爽と晴らしてくれるのがクライマックスのバトル。これがもう、「おまえはアントニオ猪木かいっ」ってな感じにプロレス風といいますか。バトル物の面白さの王道を素直に追求した、懐かしい雰囲気の昭和のヒーロー像そのまんま。しかも、それを次から次へと連続して繰り出してくる。やっぱりねえ。ヒーローはこうでなくちゃ。

 そのヒーローを支える二課の面々も、影が薄いながらクライマックスの盛り上がりに貢献している。彼らと一緒に観戦するゲストの二人がまた、石ノ森ファンにはたまらないお方で…。

 SFというとナニやら小難しげなシロモノみたいな印象がはびこってるけど、こういう徹底して娯楽を追及した爽快な作品こそ、SFの原点だと思う。歩行型戦闘車両ダブルオーとか、この手の作品こそ若いファンの注目を集めて欲しい。しかし It's Burn! で若い人は盛り上がれるんだろうか。いや私は大好きですが。

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