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2011年4月28日 (木)

ジェームズ・トレフィル「ビルはどこまで高くできるか 都市を考える科学」翔泳選書 出口敦訳

都市の規模は、人々がどれほど移動しやすいかで決まる。(略)ほとんどの人間は45分以上かかるところへ仕事や買い物に出かけない、という法則である。チグリス河畔のバグダットからハドソン河畔のバグダット、つまりニューヨークに至るまで、45分の法則で都市の規模は決まるのだ。

どんな本?

 科学や技術などの視点から、古今東西の「都市」を分析し、その未来を予測する。著者の視点はビルやガラスの素材など化学、地殻や地盤などの地学、ハトや芝生などの生物学、橋やトンネル工事などの土木技術、電車や車などの工業技術、そして電話回線などの情報技術など多岐に渡る。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 原書は A Scientist In The City by James Trefil, 1994。日本語版は1994年12月15日初版第一刷発行。A5ハードカバー縦一段組みで本文約350頁、9ポイント46字×18行×350頁=289,800字、400字詰め原稿用紙で約725枚、分量は普通の長編小説並。

 翻訳物の科学解説書のわりに、そこらの日本人科学者・技術者の書いた本より、文章はこなれていて読みやすい。イラストや写真が多く、数式はない。都会暮らしの人にとってテーマは身近で親しみやすく、興味深いエピソードも沢山収録している。一般人向けの科学解説書として見ると、とっつきやすさは最高の部類。ただ、技術的な面、特に情報技術についてはさすがに少し古くなっている。

構成は?

はじめに
第1部 現在の都市
 第1章 都市の誕生
 第2章 捨て去ることはできない 都市生態系の限界
 第3章 都市を形づくるもの
 第4章 光を入れる
 第5章 建てた物はいつかは壊れる
 第6章 フナクイムシと地下鉄
 第7章 エネルギーの変遷
 第8章 交通システム
 第9章 情報の伝達
第2部 未来の都市
 第10章 未来の予測
 第11章 高層の未来
 第12章 エッジシティの未来
 第13章 新郊外の未来
 第14章 仮想現実の未来
 第15章 宇宙の未来
 第16章 都市の終焉
2050年の都市 あとがきにかえて
訳者あとがき
索引

 第1部は古代~現代の都市を語り、高層ビルの素材など都市を支えるテクノロジーと、その限界を明らかにする。第2部では、リニアモーターカーなど実用化が近い技術から、スペース・コロニーなど未だSFに属する技術も含め、それが都市をどう変容させるかを予測する。

感想は?

 都市部に住む人にとっては、かなり興味深く面白い本だろう。都市の意外な面を示すエピソードが次々と出てくる。例えば、都市の動物として多いのがハトやカラスなどの鳥。これには、ヒートアイランド現象が関係している。

 暖かい空気によって昆虫の飛行経路が通常より高いところまで押し上げられ、鳥たちのエサにされやすくなるのだ。都市の生態系が鳥類に都合よく出来ているのはこのためである。

 粉塵・二酸化炭素は田舎の10倍、降水量も10%多く、年間平均気温も0.5~1℃高くなる。
 都市といえばビル。高層建築の素材として、かつては石を使っていた。重量を支える素材としてれんがは優秀で、2.4kmまで積み上げられるとか。ただし、横からの力に弱いので、せいぜい10階~12階が限度だとか。

 変わって登場したのが、鋼。現在、「技術的には可能なビルの高さにほぼ限界はない」そうな。じゃ、何がビルを壊すかというと、ニューヨークの世界貿易センタービルの設計に携わったある技術者曰く。

ビル全体の重量は鉄骨の柱が支え、その柱が外壁を構築している。柱はビルの地階部分を貫いているので、ビルが放棄された場合にはその部分にほぼ確実に浸水してくるだろう。(略)何十年か浸水が続いて水の作用で基礎が弱まり(略)最初に襲ってくる嵐で強風に見舞われ、柱が折れ、ビルは倒壊するというのである。

 逝くときは根元が錆びてポッキリ逝くわけです…ジャンボジェットでも衝突しない限り。
 橋やトンネル建設に関わる面白エピソードも多く収録している。例えば、橋を架ける際、対岸に何らかの方法でケーブルを渡さなきゃいけない。ブルックリン橋はフェリーで渡したけど、ナイアガラの滝はどうしたかというと。

賞金5ドルのコンテストを行い、川の向こうまでタコを飛ばせる少年を募集したのだ。タコが上がって無事対岸にたどりつくと、続けて少し重たいロープをつなぎ、最後には鋼線も対岸にはこぶというしくみだ。

 おお、賢い。対して間抜けなのが、1843年に開通したロンドンのテムズ川床を越えるトンネル。予想では堅い粘土層のはずが、浸水に悩まされ、地盤が軟らかい所では「トンネルの底をバールで叩いて調べようとすると、バールは手からすべり落ちて、シールドの下の沼のような砂の中に消えてしまった」。18年もかけて開通したにも関わらず、オチが酷い。

ところが、である。トンネルが開通するまで、だれもその使いみちを考えていなかったのだ。

 結局は露天商が溢れる事と相成ったそうで。地下商店街の起源はロンドンだった?
 メカニカルな話ばかりではない。人間が関わるエピソードも興味深いものが多い。例えば米国の都市圏における労働者の出勤パターン。郊外→郊外が37%もいる。続いて都市→都市が31%、郊外→都市は19%と意外に少ない。隣接の都市圏へが7%、都市→郊外が6%。都市=職場というパターンは、我々の思い込みなのかも。

 本書の唯一の弱点は、やや1994年という発行年度。情報技術では最新の情報記録媒体としてCDを紹介したり、自動車の未来としてハイブリッドカーが抜け落ちてたり。暗い話としては911があって、まあそれは仕方がないか。

 イラストは Judith Peatross。真鍋博に雰囲気が似ている。かつて星新一を読み漁った身としては、妙に懐かしく感じた。

 以下、余談。本書には「エッジシティ」という概念が出てくる。日本の関東平野だと、夏目漱石の三四郎曰く「どこまで行っても東京が終わらない」というぐらいに、都市と郊外の境があやふやだが、米国だと「各都市の市街地が一定の距離をおいて立地」(訳者あとがきより)している。

 ところが1970年代あたりから、「ハイウェイのインターチェンジや大規模なジョッピングモールの近くなのだが、平坦な郊外の風景のところどころに、高層ビル群が点在」しはじめた。シリコンバレーも、これにあたるのかしらん。

 これ、実は日本の関東平野も昔はこんな風だったんじゃなかろか。江戸時代だと、参勤交代などの要望で10~20kmおきに宿場町ができていた。その宿場町の人口が増え範囲が膨らんで、互いの宿場町が癒着し、今の首都圏になった。

 何が言いたいのかというと、アメリカのエッジシティの未来は、今の日本の首都圏みたくなるんじゃないかなあ、と思うのですね。そのためには鉄道などの安価で安定した公共輸送機関が発達する必要があるのだけど。

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