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2011年3月31日 (木)

「戦闘技術の歴史 2 中世編 AD500~AD1500」創元社

ヨーロッパでは、政治や経済に由来する各種の対立は、結局は戦争に帰着するのが普通で、戦争の勝敗がしばしば歴史の方向を決定付けてきました。ですから、中世という時代についても、戦争のはじまりからその終結にいたるまでのもろもろの事実を、冷徹に分析・評価することなしに、歴史を理解することはできないといっても過言ではありません。

どんな本?

 「戦闘技術の歴史 1 古代編」に続く、シリーズ第二弾。兵器や防具の構造・威力・使い方など下世話な話から、軍の編成・布陣・戦術、それらを支える社会・経済構造など、戦闘に関わるあらゆる事柄をまとめ、豊富なイラストと多数のエピソードを紹介し、分析する。地理的には欧州大陸が中心で、東洋はモンゴルの襲来が出てくる程度。前巻に続き、図版とイラストは盛りだくさん。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 原書は Fighting Techniques of the Medieval world, Amber Books 2005。著者はマシュー・ベネット、ジム・ブラッドベリー、ケリー・デヴリース、イアン・ディッキー、フィリス・G・ジェスティス。日本語版は浅野明監修、野下洋子訳で2009年10月20日発行。

 A5ハードカバー縦一段組みで本文約345頁、45字×22行×345頁=341,550字、400字詰め原稿用紙で約854枚。翻訳物の学術書なんで、歯ごたえは覚悟しよう。章によっては結構悪文だし。前巻は主な学者の説を一つ紹介するだけだったのが、この巻では対立する複数の説を並行して紹介してるんで、誠実ではあるけれど、ちと爽快さに欠ける感がある。

 前巻の舞台が地中海だったのに対し、この巻では欧州大陸が中心。百年戦争とかシャルルマーニュとか、その辺に詳しいとより楽しめる。

構成は?

日本語版監修者序文
第一章 歩兵の役割
第ニ章 騎兵・戦車など
第三章 指揮と統率
第四章 攻城戦
第五章 海戦
参考文献
索引

 前巻で123頁まで占めていた「歩兵の役割」が、この巻では88頁までに減っている。従来の歩兵中心の戦闘から、騎兵の突撃や攻城戦の比重が高まった事を示すのかも。

感想は?

 内容は鼻血もんの充実ぶりだが、編集は不親切。よほど西洋史に詳しいか、または複数の西洋史の本を参考書にしながらでないと、ちと読みこなせない。「お前が歴史を知らなすぎるだけ」と言われたら言い返せないけど。

 例えば、第一章で「イングランドのシステム」なる言葉が出てくるのだが、これについての明示的な説明は見当たらない。恐らくは多数の長弓兵による長距離射撃を示すようだが、どうなんだろう?

 図版とイラストの豊富さは相変わらず。ただ、前巻のイラストは現代のイラストレーターが描き起こしたものが中心だったのに対し、この巻では中世の画家の絵を多く収録しているので、雰囲気が大きく違う。資料の現物なので、学術書としての迫力は増した反面、絵としての技術は未熟なので、筋肉などの躍動感は感じられない。

 騎兵の項では、ついに「あぶみ」が登場する。安定性が増した事で、今までは移動の道具に過ぎなかった馬が、騎士と一体になった「騎馬突撃」という驚異的な戦術を可能にする。これは同時に鎧の発達も促し…

 カロリング朝の騎兵における最も特有な防護装置は鎖鎧だろう。(略)実際に、シャルルマーニュは779年という早い時期にこの防具を領土の外に売ることを禁じている。803年の新たな布告では、これを敵になるかもしれない者に売る可能性のある商人に与えることを、兵に禁じている。

 F22かい。シャルルマーニュの騎兵への傾倒ぶりは相当なもので、馬の育成にも熱心だった模様。「8世紀終わりまでには、管理された種馬牧場が作られた。軍馬の代価が高かったため、この商売はきわめて利益が高く」とある。お陰で欧州の馬は品種改良が進み…

 12世紀以降に軍馬として知られる馬は、(略)バクトリア種あるいはアラブ種を選択的に繁殖させたものだった。典型的な体長が12~13ハンド(122~132センチメートル)であった中世の馬は、17ハンド(173センチメートル)の体長の馬になった。

 先に触れた鎧は武芸競技大会(いわゆる騎馬試合)の流行をもたらし、板金鎧を発達させる。重さは相当なもので。

戦場用の一式の重さは23~28キロで、槍試合用の板金鎧は、戦場での不確定さと比べると、地形も事が起こる順序も明確なためにさらに重く、41~46キロにもなっていた。

 重さに見合う防御力は戦死者も減らし、、1214年のブーヴィーヌの戦いでは、「両軍合わせて四万名が戦ったと考えられているのに、連合軍では200名足らず、フランス軍騎士では二名だけが死亡しているにすぎない」。

 ところが13世紀には歩兵が主要戦力になったせいか、大きな戦いが増え、「死亡者数が著しく増加している。(略)1346年のクレシーではフランスの諸侯9人と1200名の騎士、さらにその他の15,000名~16,000名が殺戮され」た。

 次の「指揮と統率」では、賢明な戦術として6つを挙げている。場所を選ぶ、待ち伏せ、追走からの帰還、両翼包囲、陽動攻撃、側面の方向転換。この辺は今でも変わらないね。

 メカ好きにはたまらないのが、四章の攻城戦。ウインチ(巨大なねじ)を使った弩砲(バリスタ)、5階建てにもなる四輪の攻城櫓、ねじりばねを使ったカタパルトなど新兵器のイラストが楽しい。城壁の下に坑道を掘り、後に坑道の支柱を燃やして城壁を崩す戦術とか、ワクワクしてくる。

 最後の海戦では、相変わらずガレー船が中心ながら、終盤でやっと帆船(コグ船)が登場する。商戦と軍船で同じ構造が使える事と、「投射兵器を使うときに有利になる高さだった」。1340年6月24日に始まった「スロイスの海戦こそがイングランドの長弓兵がはじめて圧倒的な力を見せつけた戦いだった」。

 「中世のほとんどの戦いは一時間以内で決着がつくものだった」「軍隊は一日に16キロから24キロほどの距離を行軍した」「兵士には給与などなかった」など、ニワカ軍ヲタには嬉しいトリビアも満載。¥4,500とお値段はちと嵩むけど、多数のイラストと図版を考えれば、しょうがないか。

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