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2011年2月14日 (月)

松本仁一「アフリカを食べる/アフリカで寝る」朝日文庫 寝る編

「この列車ってほんとに国際的ね。いろんな国の人と話ができるって素晴らしい。――ここに黒人が乗ってきたら台なし」

どんな本?

 「アフリカで食べる」の続編。著者の松本仁一は、82年より朝日新聞社のナイロビ支局長を努め、90年からは中東アフリカ総局長としてカイロに駐在する。というと、いかにも切れ者の秀才を想像するだろうが、とんでもない。この本から思い浮かべる松本は、常にアーミーナイフとしょうゆの小瓶を持ち歩き、珍しい動物の肉を見るととりあえず刺身にしてビールで一杯やる、とっても気さくで器用でワイルドな男なのだ。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 元は「アフリカを食べる」「アフリカで寝る」の二冊の単行本で、1996年発行。1998年にそれぞれ文庫本になり、更に2008年の改版のついでで11月30日に合本となった。「アフリカを食べる」編は約217頁。「アフリカで寝る」編も約216頁で、8ポイント41字×17行×216頁=150552字、400字詰め原稿用紙で約377枚。ブンヤさんの鍛えられた文章は、とっても読みやすい。

構成は?

Ⅰ アフリカを食べる
      マサイの人々と(ケニア)
      海で
      野で
      戦場で
      イスラム世界で
 あとがき
 文庫へのあとがき
Ⅱ アフリカで寝る
      宿で
      家で
      空の下で
      車中で
 対談 久間十義×松本仁一
 あとがき
 合本へのあとがき
 解説 渡辺満里奈

 元々は朝日新聞夕刊の連載記事。各章は、4~8頁の短いエッセイ10個ほどから成る。それぞれのエピソードは独立しているので、気になった所だけ拾い読みしてもいい。

面白い?

 小学生でも名を知っている偉人が何人か出てくる。その中でも終盤、南アフリカのネルソン・マンデラのエピソードが圧巻。まずは、その舞台となる南アフリカのアパルトヘイトの現状から。

 アフリカにも寝台列車があって、その一つが南アフリカ共和国のブルートレイン。ケープタウンから首都プレトリアまでの約1600km、特等から五等までの5クラスがあり、すべてが個室で特等にはバスまでついている。五等でも約5万円、高いようだが観光シーズンでは一年前でも予約が埋まる人気ぶり。冒頭は、そんな列車の食堂車での会話のひとコマ。まあ、そういう国だったわけです。

 そんな国で活動するマンデラ氏、捕まって終身刑を宣告され、刑務所にブチ込まれる。ケープタウン沖のロベン島、本土まで11km、海流も早くサメもいる。そんな過酷な監獄にいながら、くじけないのが彼の凄いところ。

 強風の翌日は、浜辺に打ち上げられたコンブを拾う仕事が囚人に課せられる。コンブにはムール貝やアワビがいっぱいくっついているし、ロブスターまでいる。囚人たちは熱中して貝やエビを集め、ドラム缶でシチューを作る。看守も日頃はロクな物を食べていないので、彼らにも食べさせて共犯にしてしまう。

 以後、海草採りの労役の日は、看守黙認のシーフードの日となる。囚人たちは強風を待ち望むようになった。マンデラは、労役をレジャーに変えてしまう能力を持っていた。

 そんなマンデラは、白人の看守までも魅了する。「ブラント、勉強しろ。島にいるうちに学位をとれ」「ブラント、早く結婚して家を持て。家は大事だ」など、18歳の新任看守に声をかける。苦境すら楽しみに変え、自然と仲間を励まし、敵すら魅了する。そりゃ政敵からすりゃ、危険極まりない人物だよなあ。そんな南アフリカのケープタウン、日本のマグロ漁船が立ち寄るけど、金払いがいい割に約束を守るため、「礼儀正しくていい人」と評判は上々だそうで。

 ケニアの注意書きの立て看板も、宗主国イギリスの影響か、ユーモラスなものが多いそうで。泊まったロッジのそばに池があり、バーで一杯やりながら水を飲みに来る野生動物、象やインパラやバッファローを眺められる。その水場の看板には、「水を飲んでいる動物たちを驚かさないでください」と書いてある。ところが、その裏には。

「酒を飲んでいる人間達を驚かさないで下さい」

 巧い。そんなケニアで、日本の米作り指導が潰れる話が切ない。もとより米は作っていたんだが、直播きで草取りもしないため、10アールあたり2.5俵しか取れない(日本では10俵)。青年協力隊が田植えを指導した。手間はかかるが3.5俵程度まで収量が増え、農民も熱心に相談にくるようになった。
 が、しかし。隣のタンザニアが食糧危機になり、日本やタイが米を送った。タンザニアじゃ米は贅沢品で、日頃はトウモロコシを食べる。人々は支援の米をケニアで売りトウモロコシを買った。ケニアの米の価格は暴落し、協力隊の指導も無駄になった。

 ところが身になる支援もある。イタリアがガーナにトラクター百台の支援を決める。国連食糧農業機関(FAO)は知恵を使う。トラクターを30台減らす代わりに修理工場を作り、ガーナの若者に修理を仕込んでくれ、とイタリアに頼む。トラクターは希望する村に市場の1/3の価格で10年ローンで売り、巡回講座でトラクターの手入れを村人に仕込む。高い金を出して買ったトラクターなんで、村人も真剣に手入れする。隣の地域に日本がタダで配った百台のトラクターは一年で八十台が動かなくなったが、イタリア製は8年たってもピカピカだった。

 スーダンのイスラム法導入は唐突で、軍が市内の酒屋や飲食店の酒を没収した後、大統領がラジオでイスラム法導入を宣言したそうな。しかも法の全文は公布されないままってんだから、無茶苦茶だ。大統領がイスラム過激派の支持を取り付けるためにイスラム法を導入し、市民がそのツケを払った格好、と著者は分析している。イスラムでありがちな公開処刑も目撃したが、群集の大半は沈黙していた。ところが。

国営スーダン通信のタイプ刷り英字紙は、「刑の執行に立ち会った市民は、拍手と歓呼の中で偉大なるアッラーの名をたたえた」と報じた。APとロイターはそれを転電した。

 イスラムの胡散臭さ・不合理さはカイロでもぼやかれている。ラマダン明けは聖職者が前日に観測して深夜にラジオで発表する。コンピュータで計算してカレンダーに書き入れりゃよさそうなモンなのに、聖職者の猛反発で没になった。著者はボヤく。「つまりは聖職者の特権維持が目的だろ」

 アフリカの社会問題の深遠を覗くという読み方もできるし、変わったグルメの紹介本としても楽しい。また、濃ゆ~いアフリカ旅行記としても、最高に充実している…残念ながらガイドとしては役に立たないけど。蔵前氏といい、「仁一」って名前の人は、旅行記の書き手としての才能に恵まれるんだろうか。

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