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2011年2月20日 (日)

デイビッド・モントゴメリー「土の文明史」築地書館 片岡夏実訳

我らの土がなくなれば、我らもまた、出て行かねばならない。剥き出しの岩を耕してなんとか食う術を見つけられないかぎりは。  ――トマス・C・チェンバレン

どんな本?

 副題は「ローマ帝国、マヤ文明を滅ぼし、米国、中国を衰退させる土の話」。2008年度ワシントン州図書賞一般ノンフィクション部門受賞作。今も昔も文明の基礎は農耕による食糧生産だ。ところが、その農耕が、その基盤である土(土壌)を損ない、次々と食い潰し、文明を崩壊させてきた。そのプロセスを検証し、メカニズムを解き明かし、同じ事が現代でも起きていると警告する。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 原書は Dirt: The Erosion of Civilizations by David Montgomery, 2007 Regents of the University of California。日本語訳は2010年4月15日初版発行。ハードカバー縦一段組み、本文338頁+索引・引用・参考文献24頁。8ポイント50字×18行×338頁=304,200字、400字詰め原稿用紙で約761枚の大作。

 ハードカバーで8ポイント、この時点で相当の威圧感があるだけに、読む側もそれなりの覚悟が出来てるせいか、思ったよりは読みにくくなかった。

構成は?

第一章 泥に書かれた歴史
第ニ章 地球の皮膚
第三章 生命の川
第四章 帝国の墓場
第五章 食い物にされる植民地
第六章 西へ向かう鋤
第七章 砂塵の平原
第八章 ダーティ・ビジネス
第九章 成功した島、失敗した島
第十章 文明の寿命
引用・参考文献
索引

 第一章と第二章は、本書を読む上での基礎知識を物語風に提示する。第三章以降、基本的に過去から現在に向かう形で、多くのエピソードを紹介していく。

感想は?

 要は土壌保全の重要性を訴える本。なのだが、その方法が手厳しい。メソポタミア文明から現代のアメリカまで、みな同じ経緯で農業が土壌を損なってきた、と何度も繰り返し具体例を提示して説明するのである。じゃ、それはどんな経緯なのか、というと。

  1. まず土が肥沃な谷底で農耕を始める。土が肥えているので作物は良く実る。
  2. 豊かになるので人口が増える。だが土地は痩せて収穫が減ってくる。
  3. 増えた人口を養うために、斜面の木を切り倒して耕作面積を広げる。
  4. 木がなくなった斜面から土壌が流出し、岩が剥き出しの荒地になる。
  5. 使えなくなった土地を捨てて、もっと急な斜面を耕作しはじめる。

 3~5のプロセスは、他にも羊や山羊の過放牧などがあるんだけど、その辺は本書を見てもらうとして。文明が栄えれば人口が増えるけど、その人口を支えるための農地はどんどん痩せていき、更に多くの土地が必要になってくる。使い捨てに出来る土地が充分にあるうちはいいけど、いずれ尽きる。その尽きた時に、一気にカタストロフがやってくる、そういうシナリオです。

 このプロセスから逃れていた例が、エジプト。毎年ナイルが溢れ上流から肥沃なシルトが流れてくるので、継続してコムギが収穫できた。が、換金作物の綿花栽培を企み、アスワン・ハイ・ダムを作った事で、事態は悲劇に変わる。洪水がなくなりシルトはダムの湖底に沈殿する。痩せた土地を化学肥料で維持しようにも、小農は肥料を買う金がない。また、人工的な灌漑で年に複数回作物が収穫できるが、灌漑水は塩分を含んでいるので、塩害が広がる。

 先に「土の科学」を読んでいたんで、「土が痩せる」ってのはどういう事なのか、多少は具体的なイメージが持てたんで助かった。その理由の一つは三大肥料、窒素とリンとカリウムが尽きる事。

リービッヒは、植物の成長がその植物の必要量に対してもっとも供給の少ない物質に制限されることを発見した。

 なら、足りない分を補えばいいじゃん、ってんで登場したのが化学肥料。その効果は目覚しく、「1961年から2000年の期間、完璧に近い相関関係が、世界的な化学肥料使用量 と全世界の穀物生産高の間に存在する」。ところが、それほど事は簡単じゃない。リンの鉱脈や、アンモニアを作るのに必要な石油が有限ってのもあるけど。

 一般に大規模農園は、一つの作物を集中して作る単作農業だ。「そのため一年の大半、土地は裸のまま放置され、侵食されやすくなる」。風に飛ばされ雨に流され、土そのものが失われていく。第六部では、土壌浸食・疲弊が南北戦争の要因ではないかと、興味深い分析をしている。

 全般的に、科学的というより社会的な分析が多いこの本、ちゃんと土を守る事の利害計算もしている。それによると、土壌浸食による損害は全米で440億ドル、全世界では4000億ドル。対して侵食を土壌生成速度に抑える投資は、全米で60億ドル。明らかに黒字なのに、なんでそうしないか、というと、その理由は様々。短期的に引き合わなかったり、機械化された大規模農場には向かなかったり。

 つまりは社会的な対策が必要で、その成功例としてティコピア島とキューバを挙げている。ソビエト崩壊で化学肥料の供給が途絶えたキューバは、否応なしに有機農法に転換せざるを得なくなった。強力な独裁体制と、経済制裁で世界市場から孤立した状況が幸いし、有機農場と都市菜園の推進により、「2004年までにハバナのかつての空き地は、市の野菜供給量のほぼすべてを生産するまでになった」そうな。

 文明の各章の冒頭は引用句で始まっていて、これが実に気が利いてる。例えば第七章は、これ。

砂塵を一人で止めることはできないが、一人で引き起こすことはできる。  ――職業安定所

 この記事の冒頭は、第九章の始まりを引用した。間の第七章は、これ。

土を損なう国は、国自体を損なうことになる。  ――フランクリン・D・ルーズベルト

 正直言って、今まで有機農法を「胡散臭い」と思っていたのだが、どうも考えを変える必要があるようだ。これ一冊で判断するのは早計だろうけど、他の本を読んでみようかな、という気になった。ハウス農業と土壌の関係とか。

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