疋田智「自転車とろろん銭湯記」ハヤカワ文庫NF
「銭湯は禅だ」
「なぜならば熱い湯に入るとアタマが無になるからだ」
どんな本?
疋田智、またの名をエッセイスト町田忍。38歳の月給取りの彼が、自転車で走りながら都内の銭湯を巡り、あれこれと銭湯に関する薀蓄を傾け…といっても小難しい本ではない。まさしく「とろろん」とした雰囲気で、「とりあえず風呂に入ってのんびりしようや」的な脱力感が味わえるエッセイ集。
いつ出たの?分量は?読みやすい?
奥付は2005年5月15日発行だが、最終頁にこうある。
本書は2001年4月に朝日出版社より刊行された「銭湯の時間」の取材を元に新たに書き直したものです。
文庫本で縦一段組みで本文約260頁。9ポイント39字×17行×260頁=約172380字、400字詰め原稿用紙で約431枚。量的には手軽ですね。文章もテーマである銭湯に相応しく、「ありがちなオッサンのおしゃべり」的な感じで、親しみやすく読みやすい。
構成は?
プロローグ
第一章 自転車でふらりと銭湯
第二章 働くヒキタくん(自転車通勤途中に見つける銭湯)
第三章 銭湯での出会い
第四章 湯けむりの向こうの女たち
第五章 銭湯は夢か幻か
少し長いエピローグ
10頁程度のエッセイ一本ごとに一つの銭湯を紹介し、そのエッセイ5~7本で章を構成している。各章の冒頭や最後に、ペンキ絵や全国銭湯事情など、銭湯に関する1~2頁のコラムが入る。それぞれのエッセイやコラムはほぼ独立しているので、気になった部分だけを拾い読みしてもいい。
感想は?
「自転車と銭湯」という組み合わせが意外だったが、実は都内だと結構アタリなのだな、と感心した次第。
<自転車は点を線にし、線を面にする>
都市圏での生活を長く続けていると、いつしか街が点の集まりになっていく。「点」とはもちろん鉄道の駅とその周辺のことだ。(略)
自転車ならどこにも地続きで行けるから、赤坂も六本木も紀尾井町も麹町も実は隣町だということにいつしか気づいていく。
などと自転車で走り回る過程で銭湯を見つけ、400円(今は450円)という安い料金に惹かれて入ってみると…湯船が大きいんだよね。お湯の中で手足を伸ばせるってのは、気分いいよねえ。アチコチ巡ってみると、同じ銭湯でも様々な違いがあることに気がついてくる。
銀座ではレトロな金春湯に感心し、千駄ヶ谷では江戸っ子らしく鶴の湯の熱い湯に堪える。同じ鶴の湯でも船堀の鶴の湯は東京温泉の黒湯を堪能する。チョコレート色の黒湯は東京の温泉の特徴で、化石化した海藻のエキスが入っているそうな。高級住宅街成城には先頭がないが、その隣の祖師谷にあるそしがや21は、とってもゴージャスで大繁盛。
公衆浴場だから、様々な人が来る。戸越銀座の中の湯では祭りではしゃぐ北関東弁を操る金髪の若者が闊歩し、鎌田では珍しくスキンヘッドのご同輩二人とスキンヘッド談義をかわす。が、やはり、最も目立つのは、背中のモンモン。そう、銭湯では、不思議なくらいモンモンによく出会うのだ。とはいえ、やはりオンとオフは使い分けるのか、まずもって銭湯じゃ騒ぎを起こさないんだよね、あの人たち。
報復絶倒なのが、第四章。ここではかぐや姫の有名曲「神田川」の歌詞にでてくる「ふたりで行った横丁の風呂屋」を探し、疋田氏と奥様が神田川沿いの銭湯を訊ねて回る。ところがその神田川、今は河岸も整備され中じゃ鯉が泳いでる。「あれ?変だぞ、こんなオシャレじゃなかったはずなのに」とか思いつつ、古代ローマ風の贅沢な作りの永福町・ゆあみランド永福を堪能する。下ネタに付き合ってくれる奥様って、素敵だよねえ。
役に立つのが、最後のエッセイ。河川沿いの土手の上のサイクリングロードを走ると、銭湯の煙突を見つけやすいそうな。いい事を知った。
最後に、参考までに、東京都浴場組合の URL を挙げておこう。 →http://www.1010.or.jp/index.php
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