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2011年1月 7日 (金)

デイヴィッド・バーリンスキ「史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理」早川書房 林大訳

アルゴリズムは
有限の手続きであり、
定まった一組の記号で書かれ、
厳密な指令に支配され、
1,2,3……という個々のステップを踏んで進み、
これを実行するのに、洞察力も才気も直感も知性も明敏さも必要なく、
遅かれ早かれ、終わりにいたる――そのようなものである。

どんな本?

 「ゲーデル、エッシャー、バッハ」+「アインシュタインの夢」。著者は主張する。数学の最も輝かしい成果は、微積分とアルゴリズムだ、と。その上で、アルゴリズムとは何か・アリゴリズムはどのように成立したのか・成立に関わった数学者達の生涯などに加え、多数の幻想的な挿話を散りばめた、(おそらく)一般人向けの解説書。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 原書はDavid Berlinski, The Aduent of the Algorithm: The Idea That Rules the World ( Harcourt, 2000)。翻訳は2001年12月31日初版発行。A5ハードカバー縦一段組み約393頁。解説によれば原書は「文学的というか凝った文体」だそうで、訳文にも幾分はその影響が見える。まあ、それなりの覚悟は必要って事で。加えて、内容が数学・論理学であり、再帰的というか自己言及的というか、そういうややこしい概念が頻繁に出てくるんで、決してサクサク読める本ではない。

構成は?

まえがき デジタル官僚
プロローグ 宝石商のビロード
第1章 スキームの市場……ゴットフリート・フォン・ライプニッツ
第2章 疑いの目……ジュゼッペ・ペアノ
第3章 疑り屋のブルーノ……ゴットロープ・フレーゲ
第4章 貨物列車と故障……ゲオルク・カントル
第5章 ヒルベルト、指揮権を握る……ダーヴィット・ヒルベルト
第6章 ウィーンのゲーデル……クルト・ゲーデル
第7章 危険な学問
第8章 抽象への飛翔……アロンゾ・チャーチ
第9章 テューリングの仮想機械……アラン・テューリング
第10章 遅すぎた後記(ポストスクリプト)……エミル・ポスト
第11章 理性の孔雀
第12章 時間対時間……ジョン・フォン・ノイマン
第13章 精神の産物……クロード・シャンン
第14章 多くの神々の世界
第15章 クロス・オブ・ワーズ
エピローグ キーウェストにおける秩序の概念
謝辞
訳者あとがき

 "……" 以降の人名は、私が勝手に補ったもの。基本的に歴史の流れに沿って記述は進む。原則的には各章一人の数学者にスポットをあてる形ではあるけれど、決してその規則に縛られているわけではない。例えばヒルベルトやゲーデルは後の章でも度々登場するが、7章は丸々幻想的な挿話に費やされている。

感想は?

 正直に告白します。「わっかんね~よ!」

 「アルゴリズムとは何か」を解説する部分はあるものの、決して「数学の教科書」じゃあ、ない。だから、キッチリと厳密な手続きに沿って解説するわけではなく、例え話などを多用している。つまりは「理解させる」のが目的ではなく、「伝える」事を目指しているのかもしれない。文学的な表現や幻想的な挿話も、「雰囲気を伝えること」が目的だとすれば、まあ納得はできる。とりあえず、数学が苦手な人がこの本で「アルゴリズムとは何か」を理解するのは、無茶だと思う。

 一般に数学は、基礎が出来てないと次に進めない。その理屈だと、この本も1章でつまづいたら、後は読むだけ無駄、となってしまう。そういう不安を抱えながらも、とりあえず意地で読み進めてみた。目次を見ると、テューリングとかノイマンとか、馴染みの名前も出てくるし。すると、実は後になるに従って、むしろ判る部分が増えてくる。

 例えば、ゲーデルの帰納的関数・チャーチのラムダ変換・テューリングのテューリング機械・ポストの機械。この四つは同じ概念を表現している。この辺、「ゲーデル・エッシャー・バッハ」にも似たような記述があった。まあいい。異なった形式の異なった記述で、同じ概念を表現できてしまう。これは一見不思議な気もするが、Firefox や Winamp のヘヴィ・ユーザーなら「スキンを変えたって事ね」と解釈するかもしれない。

 ゲーデルがもたらした危機について、テューリング機械で解説した挿話は理解の助けになった。

一つのテューリング機械は、ひとつの関数を計算できる。
全てのテューリング機械を集めれば、全ての関数が計算できるはずだ。

本当か?

1.各テューリング機械に番号をつけ、関数 g(x)=f(x)+1 を考える。
2.f(x) は、x 番目のテューリング機械の計算結果を示す。
3.g(x)も関数であるから、番号がついているはずだ。
4.仮に番号を35としよう。その解が10だとする。
5.なら、1.の右辺から f(x)=10 で、f(x)+1 の値は 11 となる。
6.だが、4.から g(x)は10 の筈だ。これは 5. の解と違う。

 …困りましたね。

 幻想的な挿話は、こういう効果を狙ったものなんだろうか。数学や論理学は往々にして人間性を感じさせないので、物語を好む読者から敬遠されがちだ。そういう読者を惹きつけるために、数学者自身の生涯を引き合いに出したり、例え話を使う手法は、よく見かける。ただし、そういった手法は、やりすぎると逆効果になり、余計に難解さが増す場合もあるし、誤解を招くケースも多い。この本は、それを逆手にとって、難解さそのものを伝えようとしているのか?

 この書評を書く前に Google で本書の書評をいくつか漁ってみたが、私が日頃読んでる本の書評と全く違う傾向の、頭が良さそうなサイトがゾロゾロ出てきてビビった。皆さん、ちゃんとこの本の内容を理解して楽しんでいる模様。すると、一般向けの解説書というのは勘違いで、ある程度の基礎が出来ている人向けの本なのかもしれない。

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