犬村小六「とある飛空士への恋歌 5」小学館ガガガ文庫
いつかあなたのような立派な大人になりたいと、あなたみたいなかっこいい男になりたいと、そんな気持ちをこの舞にかえて…
どんな本?
大海原の中にぽつぽつと島が浮かび、海の中心には水が噴出す聖泉が存在する、奇妙な世界を舞台として、空を飛ぶ事に憧れる若者達の恋と友情を描いたシリーズの、堂々たる完結編。前回の終盤では読者をトコトン煽りまくる形で終わり、首を長くして待っていた読者も多いだろう。
いつ出たの?分量は?読みやすい?
奥付には2011年1月23日発行とあるが、書店には1月18日に並んでいた。文庫本縦一段組み約320頁、9ポイント42字×17行×320頁=228,480字。400字詰め原稿用紙で約572枚。文章はライトノベルとしての読みやすさを備えつつ、妙なクセは少ないので、ライトノベルの入門用としてはお勧め。ただ、ギャグのセンスが少しオヤジ臭いかも。
ライトノベルのシリーズ物とはいえ、この作品は1~5巻の通しで一つの長編と見ていい。この巻で世界観や登場人物などの紹介は全くなされないので、読みはじめるなら素直に1巻から読もう。「いきなり5巻物の長編はちょっと…」という人には、同じ世界を舞台とした「とある飛空士への追想」を勧めます。
感想は?
綺麗で、感動的なフィナーレ。文句なしに娯楽の王道を行く、恋と友情、そして若者の成長物語。
追放の形で聖泉を目指したイスラ艦隊は、「空の一族」の襲撃にあい、大損害を受ける。危機の中、「風呼びの少女」としての能力を取り戻した、クレアことニナ・ヴィエント。彼女の力を確認した「空の一族」は、和平の代償として、ニナの身柄を要求する。
唐突な要求に戸惑いつつも、今まで全く話の通じなかった「空の一族」と、交渉の余地があると知ったイスラの面々は、代表団を仕立てて交渉に赴く。戦力では圧倒的に劣る上に、補給も効かないとはいえ、切り札である「風呼びの少女」は当方が握っているのだ。できる限りの譲歩を引き出そうと、外務長アメリア・セルバンテスは奮闘する。
「小娘を招待した覚えはない。貴様らの主をここへ連れて来い」
「空の一族では年齢と性別が人物を測る指針であることは理解しました」
その頃、カルエル,アリエル,ベンジャミン,ナナコたち寮生は、クレアを生贄にするというイスラの方針に憤りつつも、何もできない自分達の非力さを嘆いていた。
作者が「ロミオとジュリエットを意識した」と言う言葉、確かに事実だった…というと、「カルエルとクレアは悲恋に終わるのか~」と嘆く方も多かろう。まあ、その辺は誤魔化しとくけど、読めは「うへえ、そうだったのか、こりゃ一本取られたね」と関心すること請け合い。ヒントの一つは、表紙。
さて。主題となるカルエルとクレアはいいとして。世界の謎も一端は明らかになったとはいうものの、完全に解き明かされたわけではない。また、この巻で新たに登場した魅力的な人物も、後半ではほぼ完全に無視された格好になっている…恐らくは、意図的に。私なら、意地でもアリーにくっついて離れないんだが。だって、執着があるのって、アリーぐらいでしょ。←まだアリーに拘ってます
という事で、同じ世界を舞台にした、でも違う人に焦点をあてたシリーズが続きそうな雰囲気なんだけど、どうなんでしょうねえ。あのお方の特異能力の謎も放置だし。是非とも続けて欲しいんだけど。
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